第十七話「ダンジョンを作ろう! part2」
昼休み。
いつものゲーマー仲間と机を囲み弁当を食っていると、倉本が言った。
「皆はさ、ダンジョンが出てくるタイプのゲームやった事ある?」
ユアルの件だろうな。
そんな確信と共に、相田と榎木の方を見る。
「あー、そうだな」
弁当を取り出しながら榎木が口を開く。
「アイドル業界、実質ダンジョンみたいなとこあるし」
「知らねーしお前がやってるアイドルゲーはそんなドロドロした部分まで描写すんのか?」
「ううん。でも課金っていう最高にドロドロしたコンテンツがあるよ」
そうだね。
「こいつ当てになんねぇわ。おい相田」
「俗に言う王道RPGなら何作かやってっけど」
「お。らしいぞ、倉本」
俺が話を倉本の方に戻す。
すると倉本は驚いたような表情を浮かべた。
「えっ、急に俺? もう山っちがインタビュアーな流れだったじゃん」
「……まぁいいか」
相田に向きなおる。
「ぶっちゃけ、一番テンション上がるダンジョンって何だ?」
「えぇ? ……古代遺跡とか?」
ふむ。
「他には?」
「うーん。あー、アレだ。研究所とかいちいち棚のテキスト確認しちゃうな」
「古代遺跡、研究所……。世界観的にも合致してるな。ありがとう、参考になった」
「おう。てか、世界観? 何の?」
「ユアル」
俺が答えた途端、相田の目に猜疑の念が浮かぶ。
「言いたい事は分かる」
「いや、アレに世界観って……何……? スピリチュアルな話……?」
「いや言いたい事はよく分かる。分かるんだがな」
目の奥がぐるぐるし始めた相田を落ち着かせる。
「ユアルだってな。日々進歩してんだよ」
「それに比べて俺達は……みたいな話?」
「ややこしくなるから榎木は黙っててくれ」
俺がそう言うと、榎木は下を向いてスマホをシャンシャンやり出した。
イヤホンなしで音ゲーすな。
「世界観って具体的には?」
「宇宙船が故障。謎の星に不時着してしまった主人公は、宇宙船の修理パーツを揃えるべく、未開の地へと足を踏み入れた――みたいな」
「面白そう」
「だろ? んで、この設定なら、さっき言った古代遺跡も研究所も違和感なく出せそうじゃないか?」
「そうだな。というか思ったよりゲームじゃん」
相田が感心したような声を出す。
うむうむ。俺は雑談スレでだべってただけだが、それでも誇らしい。
そうなんだよ。意外とゲームになってんだよな。
「マルチ対応だっけ? 四人でやってみても良いんじゃね?」
「え、本当!?」
倉本が嬉しそうに椅子をずずっと寄せてきた。
暑苦しい。
「山っち~、やっぱ勧誘うまいね!」
「まぁな」
「とりあえず家帰ったら軽くソロで触って事前知識つけるわ」
その相田の発言に、俺と倉本の動きがピタリと止まった。
「……俺なんかおかしい事言った?」
「お前、事前プレイだと……? ユアルを遊び尽くす気か……?」
「なんでだよ」
「いやだってお前。今あんのは少しの洞窟と森と蜂蜜溜まり、あとリスポーン地点の故障した宇宙船ぐらいのもんだぞ」
「山っち! ネタバレ厳禁だよ!」
「あっ、すまん。ユアルを語り尽くしてしまった」
「いちいち尽きるのが早すぎない?」
いや、待てよ。
「まだあった。将棋だ」
「それはもう将棋じゃん。ユアルどうこうじゃなく将棋じゃん」
「いや待て。将棋は深いぞ」
「言われずとも知ってんだよそれは」
まいったな。手札を使い切ってしまった。
「いや、山っち。まだあるよ」
「いや無いだろ」
「お前が即答するのか……」
しまった。つい反射で。
でももう無いだろ。
水MODもあの粘性のバグが再発して以降、更新が無いし……待てよ?
「倉本、お前まさか」
「そのまさかだよ。今週末、掲示板にダンジョンMOD投げるから。炭鉱マンが仕事返上して頑張ってくれてる」
「頼むから仕事の方を頑張ってくれ」
ユアルが原因でクビになったとあらば、三日三晩は笑いが止まらない自信がある。
あれ? じゃあクビにされた方が良くない?
「ダンジョンMOD?」
「うん。ツリーハウスに加えて、野人の根城が追加される。久々の大型のMODだよ」
相田が眉をしかめて、訝しげにこちらを見てくる。
「相田。さっきも言ったがな。ユアルは日々進歩してるんだ」
「うん。だからね、その現状の集大成を、相田達には見て欲しい」
ついでに榎木を巻き込んだな。ナイス。
「……そこまで言うなら、まぁ。今週末?」
「うん」
「やるか。ユアル四人マルチ。なぁ、榎木」
榎木が、シャンシャンさせつつ、こちらにウィンクを送ってきた。
意外だ。てっきりイベント走るだの何だので断ってくると思ったが……。
俺の視線に気付いたのか、榎木が音ゲーを一時中断し、顔を上げる。
「言うても友達なんで」
「お、お前……!」
俺は思わず熱くなった目頭をぐっと押さえつつ、倉本に向かって言った。
「俺は応援する事しかできねぇけどよ……頑張ってくれよ……!」
「うん! 俺も気合い入れ直すよ! 製作難度が高いから躊躇してた部分も、何とかやってみる!」
「そうか! わはは! よっしゃ、週末が楽しみだな!」
なんかすっげぇ嫌な予感がしたが気のせいだろう。
きっと良い物ができるに違いない。
こんなにも美しい友情を確認できたんだから。