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第十五話「貴方がたには今から建築をして頂きます」


「山っちー、今日マルチで会議やるらしいよー」


 そんな通話がかかったのは放課後。家に帰り着き、ひとっ風呂浴び終えた頃だった。

 風呂ってさっぱりした直後にそんなネットリしたイベント持ってこられるの嫌だなぁと思いつつも、俺はユアルにログインした。


 ローディング……


 ぽん、と視界が開ける。

 いつもの草原と墜落船だ。


「おお、きたかの」


 くろりんがこちらに向け手をぱたぱたさせている。

 こっちに来いという事だろうか。

 墜落船から基礎装備くらいは拾っておこうと思っていたのだが、ひとまずくろりんの隣まで走ることにした。


 

「今日は何の会議なんですか」


「ふふ。聞いて驚くのじゃ。今日は厳密には会議ではない……建築MODの批評会、じゃ」


「ほほう」


 ついに来たか。

 今までのMODの方向性からして来るとは思っていた。

 自給自足サバイバルだもんな。家も作りたい。


 ……建築は奥が深い。ここさえ作りこめばそれだけでもうゲームとして遊べてしまうほどに。

 かなり重要なMODだ。俺も気合いを入れて批評しよう。


「どういう形式でいくんですか」


「む? 素材を集めて、木の板を製作。それを基盤として……といった形式じゃの」


 ふむ。

 多少の自由は与えつつ、大まかな構成建材はこっちで指定するって感じか。


「世界観的にもそれがいいかもですね」


「そうじゃろう?」


 くろりんが自慢げに頷く。

 キャラのモデリングは神なのになんで声がクッソ渋いおっさんなんだろうな。

 ボイチェン使ってくれよ。


 俺は何度目か分からないぼやきを漏らしつつ、会議参加者達が集まるのを待った。








「よし! 集まったみたいじゃの!」


 くろりんが後方に何やらサインを送る。

 すると、異様にケツのでかいアバターの男がホワイトボードを運んできた。

 

「何これ」


「会議用MODを導入すると追加されるホワイトボードとペンじゃ」


「いやそういう事じゃなくて」


 俺がそう突っ込みをいれている隙に、くろりんがペンを持ち出しホワイトボードに書き込みを始めた。


 第一回、チキチキ建築大会。


 ……はあ。

 これ会議MOD要る? 口頭で良くない?


「さて、諸君。このマルチワールドには既に建築MODが導入されておる。テストプレイも兼ねて建築大会をやろうではないか!」


 各所から、おおーっ!! とやる気に満ちた声が聞こえてくる。

 色々と平常運行って感じだ。そのパワーはどこからくるんだろう。


「あの、せめてある程度操作説明が欲しいんですけど」


「実際のプレイヤーは操作説明も無しに始めるからの。条件をイーブンにしてどう動くのかのデータをとりたいのじゃ」


 なるほど一理ある……一理あるか?


「とにかく物は試しじゃ! さぁさぁ!」


 そう急かされてもな。どうすりゃいいんだ?


 少し悩んだ後に、とりあえずインベントリを呼び出してみる。

 すると端っこの方に一冊の本が表示された。


 「建築レシピブック」……なるほど。こういう感じなのね。

 手元に呼び出しペラペラとめくる。


「ふむ」


 まずは家の基盤を作ろう、とある。

 要求素材は木材と、少しの石材か。

 さて、建築開始……



「……素材が足りません、だと? え、素材集めるとこからやるの?」


「そうなるのぅ!」


 くろりんがニコニコ笑っている。

 マジ? こういう時って無制限に建てられるようにモード変更かなんかするんじゃないの?


「何を考えているか察せたから言うがの。そういうモードはまだ製作中との事じゃ」


「そうですか……」


 それを言われてしまうと非技術者である俺は黙りこむしかない。


 諦めて、しばらくその場でレシピをぺらぺらめくって建材を確認していると、くろりんが思い出したように声を発した。


「あ、皆よ! 制限時間は30分じゃ! 手短に頼むぞ!」


 くろりんの発言を受けたケツでか男によって、キュッキュと音をたててホワイトボードに制限時間が書き込まれる。

 そんなSEとかに技術使うぐらいなら無制限建築モード作っといてくれよ。

 俺の視線に気付いたのか、ケツでか男が振り向く。

 すげぇな。ケツがスタンドみたいになってるぜ。


「ん? 私の顔に何かついてるかい?」


「顔っつーかケツですね」


「……? えぇと、あはは」


 なんで俺が変な事言ったみたいになってんだよ。おかしいだろ。


「監督よ、何をしておるのじゃ。はよう素材集めに行かんと手近な素材を持ってかれてしまうぞ?」


 えぇ。

 周囲を見れば、既に森に資源採取に出かけたプレイヤーの姿がちらほらと見える。

 色々と言いたいことはあるが、それらを一旦押し込め資材を確保しに行くとしよう。

 俺は墜落船から初期装備を回収し、森へと向かった。






「よぉクソ監督」


 森に入るなりチンピラに絡まれた。


「誰だお前」


「炭鉱マン」


「ああ……」


 中肉中背、黒髪。特に異常は見られない。アゴ髭がちょっと生えてるくらいか。

 普通の見た目のアバターだ。

 話が通じそうで助かるぜ。


「資材持ってるか? 可能なら分けて欲しい」


「はぁ? いいよ」


 なんで一回拒否する雰囲気出したんだ。


「ほい木材。石材は今からあそこで作業してるやつから奪おうと思う」


「民度最悪か?」


「大丈夫、大丈夫。そういう冗談分かるやつだから」


 そう言って笑うと、炭鉱マンが背を向けた。

 せっかくなのでキルして素材をパクった。

 お、奪うとか言いつつ普通に石材持ってるじゃねぇか。さっそく拠点付近に戻って基盤を設置しよう。






「ねぇなんで殺したの?」


 俺がせっせと作業をしていると、炭鉱マンが話しかけてきた。


「良いアイディアだったので採用しただけ」


「くぅ~、クソ監督」


 しっかしPVPがオンになってるのに殺して物資奪ってるやつ少ないな。

 やはり小規模かつ閉鎖的な集団が一番民度を維持できるんだな。


「おい、クソ監督。こうなったら二人の合作にするぞ」


「え?」


「どうせ何を作ろうかプランすら練ってないんだろ? 時間も無いし素材集めと建築で役割分担しようぜって話だよ」


 なるほど。


「良いじゃん。じゃあ素材奪ってくる」


「やめろ」


 分かってるよ。

 俺は手持ちの資材を炭鉱マンに渡した後、斧を構え森へと向かった。









 30分後。


「右から群れが来てるぞぉおおおおおお!」


「「「「フンガーーーーーー!!!!」」」」


「おぁああああああああああッッッ!!!?」


 森は阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 湧き判定がプレイヤーの周囲に○○体、というような設定をされていたためか、野人が大量に発生して素材がまともに取れなくなったのだ。


「よぉし右群撃破ァ! 今だ木こり共ォ! さっさと木材を……ぐわぁあああああああッ!」


「クソ監督ーーーーーーッ!」


 ふっ、どうやら俺はここまでみたいだな。

 後は任せた、ぜ……


「そんな……ッ! クソ監督ぅうううううううう!」


 そんな悲痛な叫び声も、遠ざかっていく。

 俺がいなくても、上手くやるんだぞ……!








「ふぅ」


 自然な流れでログアウトした俺は、早々に別ゲーを起動した。

 やってられないよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虚無ゲーすぎて鎖
[一言] 更新を待ってます
[一言] 続き待ってます
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