第十二話「世界観を構築しよう! part2」
『山っち、MOD作って貼ったからやってよ』
そんな通話がかかってきたのは、前回の集会の一週間後の土曜日だった。
言われるままに貼られたMODを導入する。
あと森MODもアップデートがきていたのでそちらもダウンロードしておく。
「締め切りはしっかり守るんだよなあいつら……」
謎の律儀さに感心しつつユアルを起動する。
するとすぐに見慣れたスタート画面が目に入った。
さて。
俺が倉本に言われ導入したのは「世界観補完MOD」というMODだが……
案は三つあったのに何故一つのMODになっているのだろうか。
選択式にしてあるのか?
俺は虚無の香りが漂い始めたのを無視し、ゲームをスタートした。
スタートと同時に闇が視界を覆う。
「……えっ?」
グラフィックを読み込めてないのかと思ったらどうも違うらしい。
「これひょっとしてグローバルマンの案のやつか?」
シンプルに嫌がらせだろコレ。誰が提案したんだこんな演出。
俺だわ。
俺は文字通り暗中模索し、ようやく目当てのお絵かきゲームゾーンを探し当てた。
一瞬入ったロードと唐突に現れたお絵かきパネルを見るに別マップ処理らしい。
「ここはいつも通りか」
俺はペンを投げつけるぐらいの勢いで暴れさせ、眼前のパネルに線を書き殴った。
「よし、ワールド生s」
突如として身体を衝撃が貫く。
それと同時にワールド生成が開始。
「慣性!!!!!!!」
俺は個性的な悲鳴をあげながら初期地から森までぶっとび、緑男に殺されてリスポーンした。
「トラックか……」
初期地でぽつりと呟く。
あんな理不尽な体験をしてもチートスキルの類いなどまるで貰えないのがつらいところだな。
さて、いつまでも引きずっていてはこのゲームは遊べない。
俺は初期地に配置されたオブジェクトを調べることにした。
「写真データでも取り込んだのかな」
見た目はそう悪くない。
宇宙船というよりは普通の旅客機だが、まぁ墜落して壊れた船であるし、部分的に旅客機に重なるところがあってそこが残ったということにすれば変ではないだろう。
「お?」
斧が落ちている。
初期装備か。
さっそく拾って右手に持つ。
インベントリを開いてそこから詳細を確認してみると、攻撃力2と書いてあった。
これは以前無かった情報だ。こういう細やかな部分で進歩が見られると、なんとなく嬉しくなる。
俺は斧を軽く振り回しつつ、森へ向かった。
「すげぇ! ヒビが入ってる!」
俺は斧を木の幹に打ちつけながら感嘆の声をあげた。
すごいぞ。まるでゲームみたいだ。
ゲームだったわ。
「……おっと、出やがったな」
木々の間から姿を覗かせた緑男。
俺は瞬時に戦闘態勢に入り、斧ではなく斧を握った腕にしか攻撃判定がないことに絶望した。
なんでだよ。
「攻撃範囲をッ! 同じにッ! するなッッッ!!!」
この手のゲームのPVEなんぞ一人のプレイヤーに対し多数のエネミーを相手取ること前提なんだからタイマンなら無双ぐらいのパワーバランスでいいって要望送ったよな!?
普通に泥試合なんですけど!?
だが斧の攻撃力補正もあってか、瀕死に追い込まれつつも何とか緑男を打倒した。
ドロップ品無しか。運が悪いのかそもそも設定されていないのか……
俺は押し寄せる虚無と徒労感を必死に誤魔化しつつ、木を一本切り倒し終えた。
とりあえず拠点に帰るか。
ツルハシの材料になる石ころは拠点まわりにも落ちてたはずだ。
数分後。
「こんなもんかな」
インベントリ内のレシピブックから選んで、ツルハシ、剣、シャベルを作った。
せっかくなので少し穴掘りをやってみることにする。
土を掘る音が木を切る音と変わらないことに苦笑いしつつ、掘り進む。
アバター二つ分くらいの深さまで階段状に掘り抜いたところで、俺は急に肩を叩かれた。
「え!?」
慌てて振り返るが誰もいない。
え、怖いんだけど。
そこでふと思い立ちHPを確認する。
……減っている。
緑男の攻撃判定がすり抜けてきてるのだろうか。
「掲示板に戻って不具合報告だな」
そう呟き、ログアウトしようとした。その時。
にゅっ ぺち。
地面から飛び出た茶色いゼリーみたいなのが俺の顔をぺちりと叩き、地面に戻っていった。
「……スゥーーーー……」
どうやら新しいエネミーのようだ。
こんなんに邪魔されていては穴堀りなんぞ不可能なので後で要望を送るにしても、まぁまぁムカついたのでこの一匹だけは狩ることにする。
そっと剣を構える。
モグラ叩きの要領だ。
顔(?)を出した瞬間に、叩き斬る。
「今ッ!」
スカッ
ぺちっ
「……スゥーーー……」
手をわなわなと震わせる。
落ち着け。こんなとこでキレてる場合か。
剣は斧と同じパターンで、当たり判定はあっても攻撃判定がなかった。
それだけの話だ。
HPはさほど削られてない。次だ。次は拳で当て
にゅっ ぺちっ
「アァ!!!!!!」
瞬間的にイライラゲージが爆発し俺は叫び声をあげた。
瞬時にメニュー画面を呼び出し、ログアウトする。
「……」
俺は無言でVRマシンを取り外し、その辺に置いてたクッションを口元に当てた。
「……ァッッッ!!!」
そしてクッションを押し当てて音を殺しつつ思いっきり叫んだ。
ふう、スッキリした。さて掲示板に報告に行こう。