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第十一話「世界観を構築しよう! part1」


「さて、諸君らにとってこの世界とは何かね」


 今日の集会は、くろりんの意味深な問いから始まった。


「虚無」「虚無でしょ」「限りなく零に近い何か」「アイノウ! 我々のインスピレーションを――」


「そういう意味で聞いてるんじゃないだろ?」


 アホどもが続々と大喜利を始めたので、俺がしぶしぶ口を開いた。


「どういうことだ、クソ監督」


 その名前まだ納得いってねぇからな。

 俺はふうと息をつき、ドヤ顔で説明してやった。


「要はスタートの設定だ。主人公がなぜこの世界にいるのかの説明。例えば、無人島に漂流、飛行機が墜落、異世界転移……それについて話をしたかったんですよね?」


 くろりんが驚いたように目を細め、笑った。


「うむ、うむ。その通りじゃ。流石は新人……じゃなく、今は監督じゃったか」


 そっとクソを外すあたり気遣いを感じる。

 俺のくろりんへの好感度が少し上がった。


「でもよ、んな設定要るか?」


「要るね」


 俺は断言した。


「こんだけやりたい放題のゲームだが、一応のゴールは必要だ。それが結局通過点になるような物だとしても、な。そしてそのゴールを決めるにはスタートが定まってないと難しい」


 俺はそこで、せやろ? といった意の視線をくろりんに送る。


「まぁ、そういう事じゃな」


「ほらな。そういう事だ」


 俺は自然な流れでくろりんの横に立ち偉そうな顔をした。


「なんでアイツあんなに生き生きしてんだ……」


「後輩ができたからマウント取りたいんじゃね」


「ああ……」


 だいたい正解だ。

 俺は帰宅部という「後輩」という言葉に幻想を重ねずにはいられない悲しい生き物だからな。

 マウントというよりはやる気を出してると表現して欲しいが。

 

「静粛に! では意見会を始めよう。案のある人はいるかね」


 くろりんの人声で場がスッと静まり、数人が挙手する。

 

「では、そこの」


「はい。異世界転移がいいと思います」


 ふむ。

 まぁラスボスを置きやすい設定ではあるわな。


「なるほどのぅ。ではどうスタートさせてプレイヤーに異世界転移であると思わせるつもりかの?」


「例のお絵描きゲー厶の終了直後にトラックを突っ込ませます」


 理不尽すぎない?


「ふむ。分かりやすいし一考の余地ありかもしれぬの。一旦保留するとして……他には?」


 再び数人の手が上がる。


「はいはーい!」


 人ごみをかき分け比較的まともなアバターの女性が出てくる。

 いや訂正。ギラギラの金髪だった。

 顔つきから日本人らしいことは分かるが……こいつ、さては……


「じゃあ、そこの」


「ずばり、トリップ・フォー・セルフサーチね」


 やっぱグローバルマンかよ。

 

「ふむ? ……自分探しの旅、ということかの?」


「そう、私達プレイヤーはこのワールドでのトリップを通じてマイセルフをゲイズするの」


 くろりんが半目になり、俺のアバターをぱしぱしと叩いた。

 通訳しろってこと? しょうがねぇなぁ。


「まぁこのゲーム虚無だし、自分自身を見つめるには適した空間かもしれませんね。で、その設定をどうプレイヤーに伝えるんですか?」


「アイドンノウ!」


「そうか。却下」


 グローバルマンが目を丸くする。

 いやそりゃそうでしょ。俺も思いつかねぇし無理だよ。


「そこを何とかプリーズ!」


 無理だね。無理無理の無理。

 

 納得いかない様子のグローバルマンに全身黄金肌の倉本がそっと耳打ちする。

 一瞬怪訝な顔をしたグローバルマンだったが、やがて俺にキッと向き直った。


「なんだよ」


「お願いします! 先輩!」


 はぁ~~~?

 なんだそれ。なめてんのか。


「スタート画面の真っ暗な空間を拡張してプレイヤーの初期位置を変えるだけでも察しの良いやつには伝わるとは思うがな」


 俺の素晴らしい案をきいてか周囲がざわつく。


「ちょっっろ」「弱点が明確すぎる」


 やれやれ賞賛の声が多くて困るな。

 

「う、うぅむ。では一応保留ということになるのかの?」


 くろりんが困惑した様子で俺にたずねる。


「まぁそうですね。ちょっと伏線めいた意味深なスタートで気を引くのは悪くないかもしれませんし」


「なるほど。……よし、では他に」


 次は先ほど手を上げていた者も手を上げなかった。


「ふむ? おらぬのか?」


 はぁ。

 俺は少しドヤ顔を交えつつ手を上げた。


「お、監督。やってくれるかね」


「ええ。俺の案は、宇宙船の墜落です」


 どや。


「ふむ? なるほど。ではどうやってその設定をプレイヤーに伝えるのじゃ?」


「そりゃあ初期位置に宇宙船っぽいオブジェクトを配置するんですよ。これで初期位置だけでも固定してしまえば森からスタートでリスキル祭り、なんてのを避けられる。ついでにいくつかの初期装備をプレイヤーに違和感なく与えられる」


「ほほう」


「ついでにゴールも作りやすい。ゴールはズバリ、宇宙船の修理。ついでにこの設定を活かしてラスボスも配置できます。修理素材を落とすモンスターの存在を示唆するテキストでも配置しておけば何となく探しはするでしょう」


 周囲からおぉー、と声があがる。

 今度は本当に俺に感心しているようだ。がはは、気分が良いぜ。


「なるほどのぅ。ではその案も保留……さて、他の案があるものはおらぬか?」


 誰からも手は上がらない。

 それを見たくろりんがコホンと咳払いをした。


「うむ! では異世界転移、自分探しの旅、宇宙船の墜落。この三つの案から決めていくとしよう」


 ふむ。

 まぁ宇宙船の墜落になるだろう。

 ……一般プレイヤーからすれば。


「くろりんさん。決定は多数決で?」


「む? そうじゃな。それ以外に何かあるのかの?」


「いえ、手段そのものに文句は無いです。ただ、MOD製作者の票と一般プレイヤーとの票が同じ価値なのはどうなのかなと思いまして」


 納得したような声が各所からあがる。

 だよな?


「作る側次第じゃ机上の空論になりかねませんから」


「ふむ……」


 そこで倉本がはいはい! と手を上げた。


「ふむ。何か考えが?」


「いっかい三つとも作ってみません? どの案も日数同じで作って、出来栄えを見てまた改めて考える、みたいな」


「それができるなら素晴らしいことじゃが……できるのかの?」


 倉本がくるっと振り返る。

 おそらく後ろのMOD製作仲間に伺いをたてているのだろう。


 数分後、倉本がこちらに向き直り、腕で大きく丸を作った。

 オッケーということだろう。


「日数は?」


「一週間!」


「……ふむ。分かった。では決定じゃな! 一週間後、リリースされたMODを各々プレイし、もう一度ここに集合じゃ! 異論があるものは?」


 皆が首を横に振る。

 

「よし! では解散!」

 

 くろりんの一言で、ぽつぽつと人がいなくなっていく。


 俺は「トラックに轢かれるの普通に嫌だなぁ」と思いつつログアウトした。




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