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第一話「虚無へようこそ」

 このVRゲームを一言で言い表すなら、「虚無」であろう。


 まず、その世界において君の身体は無い。


 何? 意味が分からない?


 安心したまえ、それはこのゲームをプレイした者全てが抱いた感情だ。



 ゲームを起動した瞬間、君は身体の無い虚構の空間へ放り出され、絵を描くことを強いられる。


 身体がないのにどうやって絵を描くのかって?


 大丈夫だ。とりあえず滅茶苦茶に暴れ回れば、目の前の虚構にぐちゃぐちゃの線が描かれる。


 ここまでプレイした君。

 おめでとう。君はこのゲームのほぼ全ての工程を終えた。


 おっと。世界が生成され始めたようだな。


 見たまえ。何の変わり映えの無い草原が延々と続く……何?丘がある?

 レアワールドだな。是非、先ほどの落書きのスクショをこの非公式の攻略ウィキのワールド解析板に貼ってくれ。


 さあ、暫く時間を置こうか。








 ……ん?


 ああ、このゲームに「先」はない。


 これで終わりだ。ひたすら、生成された世界を、肉体も無く、ただただ見つめる。


 はっはっは。そう怒らないでくれ。


 「虚無」を感じるという稀有な経験が出来たじゃないか。君は虚無を得たのさ。

 

 何? もうゲームを閉じる? それは結構。


 

 だが。もし。


 もし君に、この「虚無」に抗う気骨があるのなら――この非公式攻略ウィキの、更に深部に来たまえ。


 そこには君と同じく、このゲームに時間を殺された者達が集っているだろう。



         ――非公式「YOU ARE THE WORLD」攻略ウィキトップページより抜粋













 とんでもない虚無を味わった。

 それが俺の第一の感想だった。


「頭おかしい……このゲームに攻略とかあんのかよ」


 VRダイヴ状態のまま、ブラウザを起動し検索をかけた結果、出てきたのが先ほどの攻略サイトだ。


「虚無を打破する為のファーストステップ……」


 そこに置かれたファイルの数々を見て、俺は察した。


「成る程、データ改造……MODか!」


 それもう別のゲームやろうぜ!?というツッコミをグッと抑えつつ、説明文を読み上げていく。


「まず下地となるMOD……おお、一括でいけるのか。なになに。これを導入すればある程度のゲーム性が確保できます……なお数分で飽きて虚無に沈みます……駄目じゃねぇか!」


 その下には幾つか別のMODが並べられており、中にはゲーム内で将棋が出来ます、といった「いやもうそんなんだったら将棋ソフト入れるわ!」と突っ込まざるを得ないような物もあった。


「MOD開発者用、マルチMOD……もうこれ一からゲーム作った方が良いんじゃないかな……」


 どうしてネットにはこんなにも努力の方向音痴が溢れているのだろうか。


「まあ、とりあえず下地のMOD入れて遊んでみるか……」


 幾つかの導入ステップを経て、俺はもう一度あの虚無を起動した。







「身体が有る……」


 いや当然っちゃ当然なのだが、あの虚無を味わった直後だとこんな事でも感動してしまう。


「おお、絵が描きやすい……!」


 デフォルト(データ未改造)の状態では周囲は完全な闇だったのだが、分かりやすく白い画用紙のような物が眼前に浮かんでおり、アバターの手にはペンらしき物が握らされていた。


「まあここは雑に済ませて……っと」


 さあ、ワールド生成だ。




 気付けば、俺は草原に立っていた。


「おお……!」


 デフォルトでは、アバターすら無いまま世界を俯瞰ふかんさせられていたのだが、現在は一人称視点になり、足も地面に着いている。


「こっから何をすればいいんだ?」


 とりあえず足元の土を触って見る。


 すると、ボコンッ!と音を立て土が消失し、俺の身体は虚空へと投げ出され、ワールドの底みたいなとこでびよんびよんなった。




 俺はゲームを終了した。






「トラウマになるわ」


 先ほどの状態を例えるなら、ジェットコースターでふわっとなった時の感覚が無限に続く、といったところか。

 恐怖の余韻で未だにキンタマがキュッとなっている。


「何をすれば正解だったんだ……」


 訳が分からなかったので先ほどの攻略サイトの掲示板で相談する事にした。



 【MODの動作に関する報告及び質問総合スレ】



135:名無しの開拓者


 下地となるMODを導入した後ワールド生成して、足元の土を掘ったら虚空に放り出されてワールドの底でびよんびよんさせられました。

 何が原因で起きたバグなのでしょうか。

 それとも仕様ですか?


136:炭鉱マン


 あー、導入前に生成したワールド消してないと生成アルゴリズムがバグるのよ。

 これやっぱトップページに書くべきだよな。

 被害者かなり多い。


137:将棋マン


 新規プレイヤーさんかな?将棋MODをよろしくね。


138:名無しの開拓者


 いや将棋MODはちょっと


139:炭鉱マン


 草

 まあ、アレだ。一旦ワールドデータ全削除して生成しなおしてくれ。


 そうしたら地下部分の土やら石もしっかり生成されるはず。

 もし地下にもっと要素を求めるなら、俺が開発中の洞窟MODと鉱石MODを入れてくれ。


140:将棋マン


 将棋MODも入れてくれ


141:名無しの開拓者


 分かりましたー。


 あと洞窟MODと鉱石MOD入れてみます。ありがとうございました。


142:炭鉱マン


 おう。

 良いユアルライフを。


143:名無しの開拓者


 ユアル?


144:炭鉱マン


 ユーアーザワールド。略してユアル。


145:名無しの開拓者


 なるほど。


146:将棋マン


 あの……将棋MOD……









「さて、と。もう一回やるか」


 もうこうなっては意地だ。

 何としてもこの虚無に抗い、ゲームをしてみせる。


「うらァ!」


 眼前にめちゃくちゃに線を書き殴りワールド生成を開始させる。

 数秒ほどの待ち時間を経て、俺は再び草原に降り立った。


「よっしゃあ! ……あった! 洞窟!」


 ぽっかりと地面に空いた穴。

 見れば、入り口にはご丁寧にピッケルとライトが置かれていた。

 そのピッケルとライトを持ち、洞窟の中へと突入する。


「ライトの照らす範囲せまッ! 洞窟歩きにくッ!」


 洞窟に入って数秒で不満がこぼれたが、俺も一度時間を殺された身。構わず先へ進む。


「お、おお! 何だアレ!」


 道中、周囲とは色が違う、赤茶けた色の石を見かけ、早速ピッケルを突きたてるべく腕を振り上げた。

 だがその腕が天井に引っかかりアバターが上下左右にブルブル震えてうまく振り下ろせない。


「あがががががが」


 頭がくらくらしてくる。

 物理演算ガバガバじゃねぇか。しっかりしろよ。

 

 一旦その場所の石を諦め、もう少し奥に進んでみる。


「お!」


 次はもっと開けた場所で先ほどと同じ赤茶色の石を発見。

 さっそくピッケルを振り下ろす。


 すると、カン!という音と同時に視界の上部に「銅鉱石を手に入れた!」というテロップが表示された。


 早速自らの持ち物を確認する。

 ちなみに、この自分の持ち物欄、というのは下地MODで追加された機能の一部である。


「おお、ちゃんとある」


 まさかアイテムを取得しただけで感動するはめになるとは。

 アイテム欄にしっかりと表示された、銅鉱石をしばし眺めた後に、俺は洞窟の探索へと戻った。






 数分後。俺は再び掲示板に居た。



167:名無しの開拓者


 鉱石掘った後やる事がないんですけど……


168:炭鉱マン


 そっからはまだ開発中




「……もう将棋やろうかな」


 俺はそう呟いた。




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