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伝説勇者のヒミツに乱回転

 

 その戦いは熾烈を極めていた。

 かたや龍皇の若かりし姿と最強海魔。

 かたや世界最古の勇者伝説。

 両者の闘いは、初めは互角だった。


 しかし徐々に勝負は勇者優勢へと傾く。

 龍皇とリヴァイアサンが弱い訳ではない。

 むしろ、現代の人間では太刀打ちできない。


 ここで一度、リーヴァに問いかける。


「お前は一体何者なんだ?」

「この光景見りゃわかるでしょ」


 説明を極限まで排除した彼女の言葉。

 8000年前のこの景色こそ、彼女の正体。

 血縁者や他人の空似では一切ない。

 炎剣の勇者・レーヴァテイン。

 それが俺の後輩の相棒、リーヴァの真実。


 ……だがやはりおかしい。

 この戦争は人間とモンスターの争いだ。

 それも古代の、文献でしか確認できない戦争。

 そんな時代から人間が生きている筈がない。

 龍皇やリヴァイアサンはモンスター。

 だからそ寿命が長い、それだけだ。


「さて、一旦停止しよう」


 そう言うと、情景の全てが停止した。

 木々のざわめきや吹きすさぶ風。

 流れる雲も……龍皇達もまとめて。


 こんな能力をリッカは持っていない。

 過去を見せ、そこから情報を引き出す。

 それが記憶情報への潜航能力。

 これでラナも救出できたのだ。

 今回も同じ要領だと思っていた。


 しかし何かが違う。

 アビス達の記憶を辿っているのは確かだ。

 にも関わらず操っているのはリーヴァ。

 全てリーヴァが操っているように見える。


 いや、実際に操っている。

 この空間にリッカの意思はない。


「8000年前の記憶を3つ同時再生してるし」


 俺の思考を読み通しているかのように言う。


「普通なら脳みその中まで丸焦げになる」

「なっ…………!」

「そうならないようにアタシがいる」


 この記憶潜航はそんなにも危険なのか?

 確かこれはサキュバスの固有能力。

 リッカ以外にも強いサキュバスならできる。

 そもそもリッカはセイントデビルは進化した。

 開発中とはいえ、固有能力は制御下にある。


 なら、外のリッカは一体どうなっている?

 そんな強烈な負担を強いて無事なのか?

 あの戦いの時も、そんな……。


「違う。これは8000年と言う深すぎる記憶と、主に私と龍皇のせい。普段はこんな事にはならない」


 そう聞いて少しだけ安堵した。

 アイツは元々体が弱い。

 今でこそ鍛えて強くなったが、非常時ともなれば何が起こるか心配だ。




「片方はアタシの記憶。勇者とは何か、人間が何をしたかがわかる記憶」


 人間が何をしたのか。

 勇者伝説に関する文献にも書いてある。

 魔王に抵抗し、多くの犠牲を経て勝利した。


 本を読めばわかるがこれは当事者の記憶。

 つまり、肌感覚で当時がわかるのだ。

 こんな機会はなかなか無い。

 しかしなぜそんなものを見せる必要が?


「もう片方はアビスと龍皇の記憶。魔王の真実と、モンスターがどんな存在かがわかる」


 ……個人的にはこちらの方が気になる。

 龍皇とリヴァイアサンの視点から見る魔王。

 何故文献にあるような暴走に至ったのか。

 その本懐、俺は確かに覗き見たい。


 さらにこの目的は魔王の打倒方法を探す事。

 こちらの方がより長く魔王を見続ける。

 必然的に、こちらを見るべきでは無いか?


「さあ、どれを選ぶ?」


 いや、少し考えろ。

 ここからが本題とリーヴァは言った。

 ならばこれまで見せてきたものは。

 何のためにあの光景を見せた。


 俺はあの光景を見て、何を思った。

 リーヴァの正体に触れ驚愕。

 龍皇とアビスの過去を覗き少し感動。


 ラナの母親を初めて見て。

 魔王の予想外な一面に触れた。

 ……これだ。最も違和感のある光景。


 文献の魔王は残酷な存在として描かれた。

 開戦後から彼は変わっていったと。

 しかし世界は既に戦争が始まっている。

 なのにあの優しさは説明がつかない。

 文献の魔王と龍皇達の知る魔王。

 それが、どうしてあんな笑顔を作れる?


「両方だ」

「ほーう、正解」


 どれを選ぶとリーヴァは言っていた。

 どちらを選ぶではない。つまり、リーヴァはこの選択肢を作っている。


 そしてリーヴァはこの反応だ。

 どうやら俺の回答は正解だったようだな。


「じゃ、先にアタシの記憶だ」



 * * * * * * * * * *



「"リーヴァ"初戦より帰還しました」

「愛称で呼ぶな、情が湧くぞ」


 魔王の根城と違い、広く薄暗い一室。

 鉄錆のような臭いが充満している。

 空気の環境も劣悪でむせそうだ。


  一番近いところは、マキナのラボか。

 あそこも少しすえた臭いもしたが、こことは比べ物にならないほど居心地の良い場所だった。


「レーヴァテイン、右前腕と腹部に深刻な破損あり。また全79箇所に微細な損傷」

「修復が必要か……工房に入れ」


 リーヴァ以外には男女が一人ずつ。

 女性は若く、男は壮年だ。

 女性には既にリーヴァと呼ばれている。

 しかし、それを男に窘められる。


 と言うより、人として扱われていない。

 まるで命なき物に対するような口調。


 しかもそれが当然のような扱いだ。

 対してリーヴァは何も言わない。

 ただ無言に、前だけを見据えている。


「この頃は感情なかったからなー」


 過去の自分を見て感慨に耽っている。

 再び俺は置いてきぼりだ。


「何さその目は」

「いや、結局何が何だか」

「仕方ねーなー……」


 頭を描いてため息混じり。

 彼女の正体は、8000年前の勇者だった。

 しかしそれだけでは終わらない。


 まだまだ何かを隠している。

 と言うよりは説明する事が多すぎるのか。

 だからこの形式でついでに自己紹介か。

 やる気なく適当に吐き捨てるように、次なる自分の情報を開示した。


「人造人間ってわかる?」

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