共闘! 龍皇&召喚術師!!
渾身の速度で放つ刺突攻撃。
それを起点に追撃する龍皇の爪斬。
更に畳み掛け、全壊剣を叩きつける。
直後、再び龍皇が火炎放射で応戦する。
初共闘だが連携は上々だ。
さすがラナのお父さん。
攻防から補助まで一切抜け目が無い。
ブライに攻撃の隙を一切与えない。
彼には暗黒龍の肉体を傷つける術がある。
俺もあの剣が命中すれば一撃死。
防御も全壊剣の前では意味を成さない。
攻撃は最大の防御。
至って単純だが、今は有効な策だ。
『うぜェ!!!』
だが付け焼き刃な戦法は容易く崩れる。
彼から放たれた正体不明の波動。
それにより、俺達は吹き飛ばされた。
痛みはないが距離を取られる。
策とは言っても攻略法では無い。
やはりしっかりと詰めを作らねば。
離れた場所から龍皇と視線を交わす。
『チッ、結局この程度しか奪えねーか』
「やはり貴様、魔王の力を得たか」
まずは龍皇が動く。
魔王の下にいた経験もあり、その戦闘方法には既視感を抱いているようだ。
今の波動も的確に対処している。
その為か、飛ばされた距離も短い。
そんな彼もこの場で決着をつけたいようだ。
「だが自惚れるな小僧」
『一々発言がムカつくな……テメェ!』
「それはお互い様だな、小僧!」
互いに絶叫し、攻撃が交わる。
僅かな動作で剣戟を避ける龍皇。
空振の反動でブライは自由を奪われた。
そこに拳を次々に叩き込んでいく。
シズマですらあの威力だった。
それが最強種族の人間態。
威力も恐らく数倍以上。
『ぎ、がハッ!?』
「今だアリク! 決着をつけろ!!」
当然ブライも苦痛に表情を歪める。
剣を握る手が少しだけ汗ばむ。
シズマとの戦いは不殺を考えていた。
だが今回はそんな余裕も優しさもない。
「ハァッッ!!」
直接人間を殺める感覚。
僅かながら覚悟を要した。
意を決し距離を詰め、全壊剣を振り下ろす。
だが、俺の剣が彼の頭上で止まる。
余りにも異質な物体によって。
彼の背中から出現した第三の腕。
剣はその腕でしっかりと防がれていた。
『そう簡単にくたばると思ったかバァカ!』
「何だ、それは……!?」
『魔王の力ァ舐めんなァ!!』
勢いよく蹴り飛ばされる俺の体。
口の中に血の味がこみ上げる。
だが、俺の攻略法はうまくいった。
「その程度で魔王を語るな」
俺の体力は回復していない。
当然、真正面からトドメなど出来ない。
だから攻撃は龍皇へと任せた。
俺の攻撃は元から罠だったのである。
おかげで龍皇への興味をそらす事ができた。
「灰燼と散れ、そして逝ね」
放たれる龍皇の炎。
しかし牽制で使ったそれとは訳が違う。
口からではなく、突如発火するようにブライの全身を包んだ真っ白な炎。
熱波だけで俺が焼かれてしまいそうだ。
内部からは悲鳴が響く。
その炎は龍皇の意のまま。
睨みつけるだけで発動できるようだ。
この攻撃すら本領には見えない。
仲間でありながら、恐怖を覚える。
『ハァ、ハァ……!!!』
だが、俺は更に驚愕した。
その火が消えた瞬間の光景。
黒焦げになりながらも息のあるブライ。
あの火力を生き延びたと言うのか?
「何と、耐えたか」
『龍皇ォ、ブッ殺す!!!』
咆哮交じりに襲いかかるブライ。
その姿は蛮族と変わらない。
しかし怒りが肉体の枷を外したのか。
明らかに攻撃の反応が良くなった。
流石の龍皇も避けきれない高速性。
そして執拗な龍皇への殺意。
生き延びた理由も知りたいが今は後だ。
殺意も興味も完全に龍皇へと向いている。
これは、またと無いチャンスだ。
俺の手中で魔力が閃光を放つ。
この意図に気づいてくれると信じる。
信じるしか、今は無い。
「『虚影武装:盾!』」
生成した何の変哲も無い丸い盾。
これを最後の力で投げつけた。
『こんな盾で守れる訳ねーだろ!』
盾はブライと龍皇を隠す。
その盾に見舞れる破壊の一撃。
元から脆い盾は簡単に砕け散る。
同時に遮断した視界が回復していく。
そこには既に龍皇はいない。
盾の到着と同時に彼は退避していた。
俺の意図は通じたのだ。
勝利を確信した俺は告げる。
彼の背後から。
「守るのが目的じゃないからな」
盾と龍皇の姿に視線を奪われたブライ。
その散漫すぎる注意力が仇となった。
頭に血が上り俺を完全に見失っていた。
目の前にあるのは、ガラ空きの背中だ。
先程の一撃で覚悟は決まっていた。
腕を生やす暇すら与えない。
『アリク、お前——』
言い終わる前に剣先を首へ突き立てた。
真後ろから全壊剣による不意打ち。
因果応報の最期である。
生の気配も、魔力の流れも無い。
ブライは完全に死亡した。
————終わった。
封印した疲労が一気に押し寄せる。
俺も数歩下がって倒れ込む。
元々彼は致命的に弱点が多かった。
しかし全壊剣が彼の攻略を阻む。
だが、彼は魔王の力を手に入れた。
確かに強力な能力だったが、それは彼の慢心を助長するだけだった。
そして彼は、全壊剣へ頼る事を忘れた。
弱点の補強では無い強化。
それが彼の敗因だ。
「アリク!」
「————おつかれ」
アビスとリッカが駆け寄ってくる。
俺はそれに、笑顔で返す。
限界を超えた俺には、それが精一杯だった。
「シズマは?」
「何とか回復させたけど」
「——たぶん、助かる」
「それなら良かった」
二人の返事に安堵する。
そうか、何とか間に合ったのか。
勇者パーティは壊滅した。
残されたのは勇者の妹ただ一人。
だが、彼女は罪を償う意思がある。
もし目覚めるのが遅くなろうと。
その時は俺も少し協力しよう。
俺は安堵し、前を見つめた。
「良かっ……」
その時、奇妙なものを目にした。
リッカ達のすぐ後ろで何かが立ち上がる。
シズマか? それとも龍皇か?
いや、両方とも離れた場所にいる。
まっすぐ前を見た位置にあるその影。
その場にいるのは奴しかいない。
だが、それはおかしい。
彼の死亡は確認した。
シズマのような回復では無い。
だが、それは現実だった。
受け入れがたい最悪の現実。
『ニィ……!』
首から血を流したまま、死亡を確認したはずのブライが笑顔を浮かべて立っていた。





