龍皇、出陣!
体力の限界など忘れていた。
蓄積されたダメージも消し飛んだ。
リッカが地面に刺した全壊剣を引き抜く。
そのままブライへと斬りかかる。
交わる一対の全壊剣。
彼はこの剣の性能を発揮できている。
だが、こちらの剣が破壊される事は無い。
姉妹剣だからだろうか?
交えただけでわかるブライの経験値。
筋力はシズマを下回るが、腕前は真逆。
剣術を基本に取り入れているだけはある。
それでもサレイよりは下。
にも関わらず、妙な威圧感がある。
何かを隠しているのは明白だ。
『挨拶も無しか?』
不意打ちをしたお前が何を言うか。
へらへらと笑いながら攻撃をいなす。
離れた当初はただ問題のある人物だと、人間の範囲で思っていた。
しかし彼の策が明るみになるうちに。
俺以外のメンバーが散っていくうちに。
ブライという存在の危険性を知る。
だが、気づいた頃には遅かった。
「退け! 小僧!!」
背後から迫る低い声。
俺はそれに応じて身をかがめた。
不意に空振りするブライの剣。
大きく隙が生まれた彼の体。
そこに強烈な跳び蹴りが入る。
足だけを龍の鱗に包んだ男の姿。
それは間違いなく龍皇の足だった。
協力は嬉しいが、何故?
協力しないと言ったのは龍皇だ。
「かつて魔王様に仕えた我が問う」
『あァ?』
「貴様は何故、その力を欲す?」
……そういう事か。
初めて知った事実である。
別段意外という訳では無い。
暗黒龍の寿命は人間の比では無い。
それに龍皇レベルの実力者であれば、魔王の配下であったとしてもおかしくは無いだろう。
『当然、理想の為だ!!』
龍皇の問いにブライは答える。
当然両者とも攻撃の手は止めない。
「そんな下らぬ事の為に、血縁者を傷つけたか!」
『……今なんつった?』
拮抗すると同時に声色が変わった。
ここまで激しい龍皇も珍しい。
ブライが腹の底から怒りを表すのも同じく。
それ以上に拮抗しているのも不可思議だ。
龍皇の強さは既に何度も確認している。
人の姿でも彼は無双していた。
俺の観測が見誤ったか?
龍皇の言葉に相当腹を立てたらしい。
ブライの攻撃は一層激しくなっていく。
それを寸前で躱す龍皇も凄まじい。
やはり最強種族の統率者は伊達では無い。
その瞳は確実に反撃を狙っている。
『俺の理想が下らねェだとォ!?』
「それでは過去の魔王と何も変わらん!」
『うっせェなぁ!!』
乱撃から一度大振りへ。
縦一線に振り下ろさせる全壊剣。
これを跳びのき躱す龍皇。
剣先は空振り、地面へと突き刺さる。
それだけで白亜の地面は陥没した。
大きな地響きを立ててヒビ割れていく。
本人よりもあれのほうが脅威だ。
「気を付けろ龍皇、その剣は」
「分かっている!」
余計なお世話である事は理解している。
しかし常に接近戦で戦っている。
いつ攻撃が命中してもおかしく無い。
暗黒龍の鱗は絶大的な防御力を誇る。
代わりに治癒能力は龍でありながら低い。
ラナの背中の傷から俺は学んだ。
ワイバーンであれば、あの程度の傷は数日で跡形もなく完治する。
現状唯一暗黒龍を攻撃できる剣。
あの剣は天敵だ。
それを知ってなお接近戦を止めない。
先程の言葉が気にかかる。
過去の魔王と同じとは、一体……?
「アリク! シズマが!!」
リッカの必死な声に呼び戻される。
放心状態から帰ってきたようだ。
腕の中には目を開けたまま動かぬシズマ。
おびただしい量の出血を伴っている。
もう彼女は手遅れだ。
一切の魔力を感じられない。
完全に枯渇した状態からの攻撃。
人間に攻撃するのとさほど変わらない。
諦めかけたその時。
「まだ、生きてる!」
俺と目を合わせリッカは叫ぶ。
僅かな一瞬、俺はそれを疑った。
彼女は既に事切れていると。
それでもシズマは瞳で訴え続ける。
気が動転して判断が鈍った可能性もある。
しかしその瞳に淀みはない。
まるで確信を抱いているかのように。
ならば俺は彼女を信じる。
第一、魔術ならリッカの方が詳しい。
「治癒と蘇生、魔力回復がうまくいけば!」
「一人でできるか?」
「……うん!」
「なら回復に専念してくれ!」
指示を出すと同時に変身を解除する。
セイントデビルの複雑な能力。
今の彼女はかなり精密に操作できている。
S級の貫禄がやっと見えてきた。
俺が手伝える事は無い。
あっても邪魔されないようにする程度。
つまり、龍皇と共に勇者を倒す。
俺に残された最後の仕事だ。
そこにもう一体のモンスターが並び立つ。
アビスだ。
ラナと戦った際の消費を回復したらしい。
「行けるか、アビス?」
「——ん」
「ならお前には攻防両方を頼みたい」
「————ん!」
一瞬のうちに戦闘形態へと変身し、龍皇とブライの戦闘へ参戦するアビス。
俺も負けてはいられない。
「龍皇、ここは協力しよう」
「……足手まといになるでないぞ」
「当然だ」
ブライの戦闘力は未知数。
かつての彼では無い事は確かだ。
だからと言って負ける訳にはいかない。
因縁の対決を始めよう。





