新戦術で攻略開始!
「「虚影召喚で武器を作る!?」」
俺の提案を聞いた二人は驚愕した。
それは旅立つ数日前。
修行が終わってすぐの事だ。
「ダメか?」
「逆にあと何日だと思ってんの?」
リーヴァの言い分もよくわかる。
出発までさほど時間がない。
ゴーレム術も使えはする。
しかし、俺には向いていない。
ネムとの戦いで使用を禁止された。
だからこそもう一つの武器として。
それが俺の考えだった。
「全く先輩は」
「アンタも大概アホよねぇ」
「……すまん」
サレイは腕を組んでため息を吐く。
リーヴァは眉を潜めつつ首を傾げた。
俺がどんな無茶を言っているかは承知だ。
それでも体得すれば武器になる。
戦闘術は鍛錬のおかげで上達している。
普通の比では無い成長率だ。
確実に教えに恵まれた。
しかしそれでも足りない。
「協力したいのは山々よ? でもねぇ」
前置きをしてリーヴァは話し始めた。
曰く"今の人間に虚影召喚は使えない"。
シズマが使えるのは混血だからと言う。
俺には使用できないと釘を刺される。
それでも俺は諦められなかった。
強くなりたいという信念一つ。
そんな俺の様子を見てか、二人は呆れた表情を崩さないまま口を開いた。
「仕方ない、乗ってやる」
「その試みは結構面白そうだし」
その返事に深く頭を下げる。
気恥ずかしくてありがとうと言えない。
彼らはそれすら見通していたようだ。
二人は微笑みながら肩を組んできた。
「じゃあまずは基礎の基礎からね!」
「あんま先輩に失礼するなよ?」
「お手柔らかに頼む」
「うん! めっちゃ憂さ晴らしする!」
* * * * * * * * * *
中々に上手くいった。
一撃で壊れたが、何とか機能した。
普通の盾より格段に脆い。
それでも攻撃は防ぐ事ができる。
虚影召喚に要する鋳型。
シズマがラナで整形したそれを、意思持たぬ武器で作り上げる。
後は戦闘に応じて鋳型に魔力を注入。
簡易的な装備を作り、応戦する。
「虚影召喚を身につけたって事!?」
「そうなるな」
武装召喚は文字通り武装専用の召喚術。
サレイのみが扱える特殊技能だ。
対してシズマは魔術を剣に成形している。
どちらかと言えばこれに近い。
虚影召喚は複雑な技術。
今の俺ではシズマのようには行かない。
だからこそ、一般的な武装に目をつけた。
世に広く出回っている通常の武器ならば、その用途もわかりやすい。
つまり情報を鋳型にしやすい。
実際、形を維持するのも楽だった。
「そんな! だってあの術は!」
「曲がりなりにも天才って事だ」
「チィッ……!」
彼女が言いかける。
おそらくリーヴァと同じ懸念だろう。
その言葉の意図は未だ不明だ。
だが、その規模を限定化させれば。
やり様はいくらでもある。
シズマの言葉を借りるならこうだ。
「フン、でもあんまり硬くはないね」
「突貫で身につけたからな」
「それなら——ッ!」
まだ呼吸は整いきっていない。
体力の消耗も激しい。
今が勝機、彼女はそう考えたようだ。
再びシズマはその手に魔力を練り上げる。
形作られるのは剣ではなく、槍。
身の丈の倍ある巨大な突撃槍。
一点突破で打ち砕くつもりのようだ。
俺は再び虚影召喚を発動する。
目前に現れる断絶。
その内側から現れる槍に見合った大盾。
彼女の笑みは消えない。
俺の盾の脆さを知っているからだ。
槍と盾とかぶつかり合う。
……だが。
「この術の特性を忘れていないか?」
槍は盾を破壊できない。
衝撃を逃がされ、盾の前に停止する。
一瞬シズマは唖然とした表情を浮かべる。
しかし数秒とせず事態を理解した。
そう、虚影召喚にはシズマも利用した二つ目の能力が存在する。
「まさか……本物の盾!?」
「メリッサが選んでくれた逸品だ」
異空間への収納能力。
シズマが白濁の宝石を隠していた術。
ただ、これが召喚以上にきつい。
複雑ではないのだが異物感が半端ない。
体内にそのまま盾が入っている感覚。
一度は大量の武装を収納しようとした。
しかしあまりにも不快で頓挫した。
思考に負担が出るレベルだ。
新しい戦法を思いついて正解だった。
「虚影武装:長剣」
使ったからには隠す必要もない。
全壊剣と召喚した剣の二刀流。
シズマの複数の刀には苦労させらた。
あの剣捌きが真似できるとは思えない。
それでもサレイから教えてもらった。
「片方で押さえ——」
「……!」
「もう片方で攻める!!」
大した型の名前など無い。
二刀流の基礎の基礎。
突発的な戦術ながら通用した。
サレイ達に鍛えられただけの事はある。
予想以上の効果だ。
相当のダメージが入ったはず。
だがこれも徒労となる。
白亜の地面に触れた瞬間回復される。
地面と接している限り、彼女は倒せない。
「ハァ……ハァ……ふ、フフ……」
シズマが不敵に微笑む。
しかし、その声は余り耳に届かない。
俺はある閃きに支配されていた。
地面と接している限り。
自分の観察に、疑念を覚える。
「その力で、私は倒せるの?」
そして考察する。
一連の戦闘で起きた出来事を。
曖昧な答えが俺の思考を埋め尽くす。
「ああ、やっと気付いた」
まだ確信は持っていない。
しかし体は勝手に動き始めていた。
俺の突撃を防ぐシズマ。
その防御を崩し、彼女の肉体を空中へ打ち上げるように打撃を加える。
「お前の攻略法……弱点がな」
「ぐっ……!!」
無限に回復し続ける厄介な敵。
そういう敵ほど攻略法は案外陳腐だ。
空中で無防備なシズマ。
俺は跳躍し、追撃を加える。
これ以上は時間を割く暇も無い。
彼女の目的は俺の足止め。
これ以上乗る訳にはいかない。
「——行くぞ、覚悟しろ」
この瞬間、シズマ攻略への連撃を始める。





