召・喚・連・鎖!
「『這い擦れ、毒沼の大蛇よ』!」
シズマが動いた。
彼女が召喚したのはバジリスク。
巨大な蛇のモンスターである。
かなり高ランクのモンスターだ。
ワイバーン以外にも召喚できたのか。
だが俺予想も定まった。
彼女は所謂『脳筋』のようだ。
高パワー、高性能のモンスターに拘る。
その気持ちはたしかによくわかる。
しかし、そこにも弱点はある。
「『幻想の大翼よ、天上を駆けよ』」
例えばバジリスクの弱点。
それは鳥系のモンスターに弱い事。
ワイバーンと同じだ。
流石にガルーダでは不足。
戦闘力の高いグリフォンで迎撃する。
ちなみにガルーダよりグリフォンの方が格上だが、グリフォンではワイバーンに勝てない。
不思議な力関係である。
「『炎精よ、爆ぜよ』!」
不利と見てシズマは召喚を重ねる。
俺も使役しているイフリートだ。
低級だが体格も攻撃力も高い。
「『魂食らう絶壁よ、遮断せよ』」
その攻撃は面による打撃的なもの。
人の築いた壁なら破壊できる。
だが魔族製の生きる強固な壁はどうだ?
広範囲攻撃では突破など不可能。
それに……。
『背後が疎かですわよ!』
「ちっ……!!」
カナスタが追撃を加える。
植物である為、本来であれば炎精のイフリートは愛称的に最悪だ。
だが多少消耗しつつも肉体を維持している。
その理由に、シズマも気づいたようだ。
「魔術なら火でも吸収できるのね!」
『ご名答……ですわ!』
「ぐっ、うう!!」
蔓で肉体を絡め、地面に叩きつける。
中々えげつない攻撃だ。
アルラウネの能力は魔力吸収。
生態においてはアルラウネに軍配が上がる。
だからこそできた奇襲である。
それでもシズマは一筋縄では無い。
即座に彼女は一本の剣を生み出した。
橙色に鈍く輝く剣で、彼女は蔓を切断する。
瞬間、切断面から小さな火が上がる。
『熱ちちっ!』
「やっぱりね!!」
普通の火では有効打では無い。
だからこそ、彼女は刀身自体に赤熱する程の高温を纏わせたのだ。
やはり強い。
油断も隙もあるにはある。
しかし完璧に対処されていく。
「『呪縛払う石像よ、出土せよ』」
幾ら魔力を吸収しても回復される。
なら使用自体を封印すればいい。
多数のカース・トーテムによる制限。
これで多少の抑制にはなる。
俺はそう思っていた。
「ふんっ!」
「なっ——!?」
だが彼女は更に上を行った。
これまでには無かった対処法。
彼女はトーテムを蹴りの一撃で破壊した。
この行動には俺も唖然とする。
これまで封印しきれない事や召喚が解除されてしまう事はあった。
それでも破壊された事は一度も無い。
モンスター同様、魔像は粒子となり消える。
「魔術を封印する像、噂通りね」
「知っていたか」
「使ってくるとは思わなかったよ」
「俺も一撃で破壊されるとは」
「やり様はいくらでもあるという事!」
言いながら彼女は俺に斬りかかる。
空で、地上で、モンスター達が闘う。
召喚術師同士の戦いはこうなる。
それでもここまで大規模にはならない。
乱戦の中、次なる召喚陣を展開する。
対して彼女は剣を一文字に振るう。
「『白き骸達よ、働け』」
剣戟を避け、詠唱する。
現れる三体のスケルトン。
超近距離戦状態で現れる新たな戦闘員。
それも骨とはいえ歴戦の強者達だ。
卓越した剣捌きでシズマを翻弄する。
その剣術は明らかに俺より上だ。
4対1で繰り広げられる接近戦。
ギリギリながら攻撃をあしらうシズマ。
まだ動けるか……ならば。
「『総動員だ』!」
剣士型スケルトンをありったけ召喚。
スケルトン達は乱れぬ動きでシズマを的確に追い詰めていく。
俺がこの攻撃を乱す訳にはいかない。
一度後方に退避する。
だが一体のスケルトンが目配せしてくる。
当然目は無く、その眼窩でだ。
彼女に隙ができている。
上から攻撃を加えろ。
そんな指示が聞こえてくる。
経験値では彼等の方が高いはずだ。
ならば彼の指示通りに。
俺は跳び上がり、頭上から剣を振り下ろす。
「ぐっ!」
間一髪で防がれる。
それでも彼女の肉体は軋んだ。
重量による強烈な一撃。
多少ダメージにはなっているはずだ。
「まだ沈まないか……!」
「当然、常に魔力が供給されてるからね!」
「やはりそこが厄介だな!」
「そこだけじゃ、無いっ!!」
咆哮と共に剣を弾かれる。
俺の肉体は空中に投げ出された。
生まれる大きな隙。
当然シズマが見逃す筈は無い。
俺の腹部に蹴りがめり込む。
カース・トーテムをも砕く強烈な蹴り。
その衝撃に一瞬目の前が歪んだ。
スケルトンの方向に吹き飛ばされる。
まずい、衝撃吸収をしなければ。
「『仕事だ。可愛らしきスラ——」
間に合わない。
腹部への一撃が呼吸を困難にしていた。
発声の動きが鈍い痛みに変わる。
スケルトンを巻き込み地面を転がる。
耐久度の低いスケルトンが消滅していく。
どれ程吹き飛ばされただろうか。
「とどめっ!!」
必死に立とうとするが痛みに膝が笑う。
目の前にはシズマが迫っている。
避ける事はできない。
剣を拾いにいく時間も無い。
一か八か、俺は賭けに出た。
彼女の攻撃に手をかざし、絶え絶えの息を絞り出すように詠唱する。
瞬間、掌がまばゆく輝いた。
「なっ——!」
「……何とか、成功したな」
彼女の刃は届かない。
掌から出現した"盾"によって防がれる。
当然、盾の類を持ち合わせていない。
今この場で作り出したのだ。
呼吸と整え、痛覚を抑える。
「『虚影・武装召喚』」
これが俺の新たな戦法だ。





