大怪鳥VSワイバーン! 召喚術師空中戦!!
攻撃が交わる。
重い全壊剣から繰り出される一撃。
しかしシズマは絡めるように弾いていく。
俺の防御と一緒、意趣返しか。
純粋な筋力は恐らくシズマの方が上。
だが反撃できない訳では無い。
問題は決定打だ。
必殺の一撃に届かない。
やはり付け焼き刃の技術では限界か。
——いや、それは無いはずだ。
「はァッ!!」
サレイに龍皇、金銀姉妹。
全員が達人級、その教えを貰ったのだ。
「くっ、流石に重いね……!」
「お前もよく防ぐな」
「年季の違いって奴!」
剣が弾かれ、再び交わる。
互いに決定打に欠ける迫合い。
肉弾戦において俺達は互角らしい。
だが彼女には通常の魔術がある。
これによる遠距離攻撃、牽制。
そこが最も厄介だ。
ならばこちらも召喚術で対抗する。
「『翡翠の翼よ、その身を翻せ』」
敵が遠距離の優勢を取るのなら。
こちらは制空権をいただこう。
召喚したガルーダの背に乗り飛翔する。
高速の飛行力に、魔術の弾も追いつかない。
こちらの攻撃手段はガルーダの生む風。
砂でも風に乗り高速で飛べば刃物になる。
加えて稀に急接近しての斬撃。
ガルーダの速度で威力も増している。
「そっちが空なら……!」
これでは意味が無い。
シズマもそれに気づいたようだ。
すかさず彼女も召喚陣を展開する。
いつの間にか変換も解除したか。
通常なら戻るまでかなりの時間を要する。
やはり召喚術も筋が良い。
だが……。
「小さくても龍! 鳥に負けるか!」
「それはどうかな?」
彼女が召喚したのはワイバーン。
確かに強力なモンスターだ。
彼女の相棒とも呼べる存在だろう。
しかし時に性質を見極める事も必要だ。
特に野生下における関係性は。
「召喚術師の割に」
「くっ……」
「モンスターには詳しく無いようだな」
ガルーダはワイバーンの天敵。
餌場が同じならワイバーンは餓死する。
それ程の相性的な差がある。
その速度に追いつけないのだ。
物事には例外がある。
それがガルーダとワイバーン。
10体でやっとガルーダ1体を倒せる関係。
「とどめだ」
背を撫でて指示を出す。
ガルーダはそれに応じ最高速に到達する。
超速による巨鳥の突進攻撃。
相性最悪のワイバーンがもろに攻撃を食らう。
当然ひとたまりもなく召喚解除。
空中に放り出されるシズマ。
すかさず俺は拾いに向かう。
……この行動が甘かった。
彼女は空中で身を翻し叫ぶ。
「変身、解除!!」
その言葉が示す通り。
彼女の背から翼と細い尾が出現する。
同時に黒く艶のある一対の角も。
以前よりサキュバスとしての特徴が濃い。
召喚を使わず、こちらへ突っ込む。
「自前の翼とは厄介だな!」
「半モンスターを舐めるな!」
このままでは振り落とされる。
それでは彼女の思い通りだ。
……ならば、それを利用しよう。
「『変換開——』」
「同じ手は食らわないよ!」
手を掴んで彼女の召喚陣に介入する。
以前と同じ召喚封印だ。
だが当然彼女も対策を打っていた。
ここまで予想通り。
「サキュバスの力……使いたく無いけどね」
そう言って彼女の瞳が妖しく光る。
サキュバスの術、その基礎。
しかし異性の人間相手なら十分な効果。
俺も例外なく動けなくなる。
そのまま彼女は力任せに俺を落とす。
俺も負けじと彼女の腕を離さない。
落ちるなら一緒に落ちてもらおう。
リッカはラナを抱えるので精一杯だった。
その薄い翼では、俺とシズマの二人を持ち上げるには力不足だろう。
予想通り立て直せず落下する俺達。
地面と激突するのは意外と早かった。
転がりながら衝撃を逃す。痛い。
「ハァ……ハァ……!」
「ぐ、っ」
「まだ動けない、よね……!」
先に立ち上がったのはシズマ。
彼女の言う通り、俺はまだ動けない。
術と痛みによる体の痺れ。
回復にはまだ時間がかかる。
だが彼女のダメージ量も大きい。
ふらりと立ち上がり、剣を振り上げる。
……この時を待っていた。
「な、何!?」
慌てたように彼女が声を上げる。
その腕や体に触手のような蔓が絡みつく。
それは彼女の術中に入る直前。
俺はあるモンスターを召喚していた。
無防備な俺に、思考の鈍ったシズマが攻撃を加えてくる。
ここまでが俺の予想通りだ。
『お初にお目にかかりますわね』
サキュバスに似た性能を持つモンスター。
エネルギーの吸収量では僅かに少ない。
だが、戦闘面ではサキュバスに勝る。
『私の名前はカナスタ』
「……アルラウネ!」
『ご名答ですわ!』
当然彼女もその正体を知っている。
人型の植物モンスター、アルラウネ。
リッカの陰に隠れがちだが、搦め手での戦闘となれば彼女を忘れてはいけない。
アンデッド戦でも活躍してくれた。
同時に俺の痛みと痺れも引いていく。
地面に転がる全壊剣を握る。
形勢逆転だ。
これで、やっと——。
『……待ってアリク!』
リッカの声が届く。
その声は僅かに怯えている。
まだ、まだ何かあるのか?
俺は周囲を観察する。
気付くのには数秒も要らなかった。
いや、何故今の今まで気づかなかった?
その異変は最初から起きていたのに。
『地面からシズマに魔力が!』
「やっと気づいたね!」
白亜の地面から魔力が注がれる。
その道筋は全てシズマ。
彼女を回復させる為に伸びている。
「随分としぶといな」
「足掻くよ、私は」
「……流石だ」
全快したシズマにため息が出る。
改めて彼女の異名を思い出す。
対召喚術師用秘密兵器。
その言葉に偽りは無かった。
いくら逆転しても対策がある。
いくら攻めても決定打を潰される。
彼女との相性は最悪だ。
……仕方ない。
ブライとの戦いに隠していたのだがな。
「なら、俺も全力で倒す」
お前もまだ隠し球があるのだろう?
なら、俺も手の内を全部使う。
その意気でお前と戦う。
だからかかって来い、全力で——!!





