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決戦再開 〜記憶を添えて〜

 

 意識が浮上していく。

 同時に元いた空間へ俺の実体が現れる。

 やはり何一つ原理は不明だ。

 魔族が覚える最高クラスの幻惑術。

 最早、人の使う魔術とは比較にならない。


 俺の肉体が作られていく妙な感覚。

 徐々に視界も確保されていく。

 潜る前にも見た白亜の地面。


『ちょ、落ち着いて! ね!?』

「殺す、殺す! 絶対絶対ゼッタイ殺す!!」


 そこには修羅場が広がっていた。

 朽ち果てる暗黒龍の影。

 疲労で動きが鈍いリヴァイアサン。

 巨獣同士の対決は一応の決着が付いた。


 対して人間大の戦闘。

 こちらも熾烈を極めた。


 寄り付く事すら叶わない極限。

 シズマの隙間無い連撃を、全て紙一重の距離で避け続けるリッカ。

 攻撃を捨て、防御のみに専念する。

 おかげでサポートの余裕があったらしい。


 だがそれも限界のようだ。


『しまっーー!』


 一瞬の油断が隙を生む。

 僅かな隙に、容赦無く攻撃は振るわれる。

 食らえばかなりのダメージだ。

 特にリッカの耐久面は未だ心許ない。

 それでも最大限の衝撃耐性を作る。


 だが彼女も運が悪い。

 絶妙に奇跡的なタイミングだった。


 俺の肉体の再構築が完了した。

 自由に動けるのを確認すると同時。

 俺はシズマとリッカの間を割る。


「間一髪、だったな」

『アリク!』

「召喚術師!」


 降り注ぐシズマの攻撃。

 それを盾代割りにした全壊剣で防ぐ。


「良くやったな、ラナは無事だ」

『ほっ』


 伝えると彼女は一気に脱力した。

 まだ会敵中なのだが。


 リッカもアビスも良い働きだった。

 回復の為に一度下がらせる。

 龍皇に彼女達の保護を任せた。


 意外にもシズマは追撃しない。

 ……いや、別におかしくないか。

 シズマの視線が捉える標的。

 それは既に俺へと変更されていた。


 こうなるとリッカ達には目もくれない。


「人の過去を好き放題覗いて」

「くっ」

「ホントに悪趣味だよ、ねっ!」


 容赦無い乱撃が俺を襲う。

 細い体からは想像できない重い一撃。

 同じタイプのリッカと比べかなり強い。

 危険度はリッカより低いはずだが。


 だがそれでも弱点は見える。

 彼女の攻撃は手から放たれる魔法。

 それを弾丸や剣に変えて攻める。


 つまり、弱点はかつての俺と同じ。


「甘い」

「チッ!」


 右腕と左腕。

 これを封じてしまえばいい。


 ブライの物に比べシンプルな全壊剣。

 長剣の形は、攻撃を捌くには好都合だ。

 伸びる腕を絡めるように払う。


「悪趣味はお互い様だ」


 腕と剣での競り合い。

 剣の特性を生かせればこうはならない。

 高威力を使いこなせていない。


 だが目的としては丁度良い。

 最初から傷つけるつもりは無いからだ。

 最低限の攻撃で戦意を剥ぎ取る。

 もしくは戦闘不能にさせる。


 それには全壊剣の効果も役が余剰。

 もう少し低威力で良い。

 だが今はこれ一本で捌き続けた。


 超至近距離で問いかける。


「教えろ、勇者は何をしている?」

「それはっ!」

「隙ありだ」

「————ッッ!!?」


 今までにない程彼女はひるむ。

 その隙を最大活用し、剣を大振りに薙ぐ。

 面の攻撃に吹き飛ばされるシズマ。

 乱撃の射程外へ押し出した。


 この距離なら落ち着いて話せる。

 彼女も理解したのだろう。

 倒れた身体をゆっくりと腕で持ち上げる。



「散々見てきたよね」


 ゆらりと立ち上がりながら呟く。

 その動きはどこかぎこちない。


 笑う(ひざ)を抑えている。

 ブレる声を整える。

 大きく深呼吸を繰り返す。

 全身の身震いを覇気だけで振り払った。


 彼女と目が合ってしまう。

 その目は……表現するのも恐ろしい。

 ぐちゃぐちゃの感情が宿る。


「魔王のやり方を真似るのさ」

「肉体ごとか?」

「肉体も精神も、魔王は非常に優れている」

「俺はそうは思わんな」


 罪悪感と憎悪。

 善意と殺意。

 その他様々な感情が瞳に焦げ付く。

 圧は龍皇のそれに匹敵している。


 彼女は半魔、半分人間だ。

 それに残りの半分はサキュバス。

 どうすればこんな瞳を宿せる?


「私だってそうだよ」

「なら、何故止めない?」


 そのまま口角をニヤリと歪める。

 ただの笑顔ではない。

 これにも複数の感情が宿っていた。


 自己を押し殺し悪事を働く。

 それが彼女の選んだ道。


 その道自体は否定しない。

 他人の為に自分を犠牲にできるのは十分な美徳だと俺は思う。


「兄さんが決めた道だ」


 記憶を覗いた今ならわかる。

 その美徳が彼女を苦しめていると。


 悪への同情が彼女を縛り付ける。

 善人すぎるからこそ悪に手を染める。

 いくら自分が傷つこうと。


「兄さんが望むなら」

「…………」

「どんな悪でも、私は力を貸すよ」

「幸せの為にか?」

「わかってるじゃん」


 シズマが魔術で剣を形作る。

 俺も全壊剣を構える。


 彼女が押し殺した人並みの善意。

 それだけが彼女を止める僅かなカギだ。

 今は偽りの狂気に身を酔わすシズマ。

 彼女と剣を交える事しかできない。


 目を見開き、俺は剣を構えて突撃した。


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