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囚われの龍と召喚術師

 

 ラナの手を取り導かれるまま走る。

 先程まで山岳にいたはずが、今は違う。

 何一つ景色の無い闇。

 背景に黒以外の色がない。

 いつの間に変化したのかすら不明だ。


 見えるのは俺とラナの姿だけ。

 それが逆に不自然だった。

 俺達を照らす物は何もない。


 体力の消耗を感じない。

 記憶という概念的な場所にいるからか。

 ともかく、今はラナの後を追う。

 彼女は言った、後一歩だと。


「後どれだけ走ればいい?」

『わかりません!』

「何?」

『いつの間にかあそこにいたので!』


 なるほど。

 結局ラナ自身は知らないという事か。

 ……少し嫌な予感がする。


「なあ、俺達はどこに走っているんだ?」

『わかりません! でも多分こっちです!』


 やっぱりそうか。

 アテは無いが、何一つ疑う事も無く。

 彼女は俺の手を引いて走る。


 まあ別に構わない。

 ラナが自ら進んで走る道だ。

 決して情でついて行く訳ではない。

 ただ、彼女の勘は当たる。

 俺は信頼している。


『たぶんここ……だと思います』


 そして今回もまた、勘は当たった。

 最後の最後に自信無く言うラナ。

 だがどう見ても合っている。


 暗黒龍の像のようなもの。

 巨大な像に無数の鎖が伸びている。

 恐らく暗黒龍の鋳型。

 これを使ってラナの肉体と精神を切り離し、魔力を注ぎ込む事で暗黒龍のようなものを使役している。


 なら半分透けたラナは何者か。

 恐らくは感情や魂と呼べるモノ。

 奪われた方に感情は無い。

 寝たきりのラナも生命活動がある。


 つまり、このラナは肉体に残ったカケラ。

 切り離し、鋳造し、使役する。

 その過程で生まれた残滓。


「どうすればお前を助けられる?」

『……わかりません』

「だと思った」


 予想通りだ。

 カケラの存在は把握していた。

 感情があると仮定した作戦である。


 当然、無かった時の策もある。

 ただし非常に面倒だが。


『アリク様、何を?』

「俺が何の対策もせずに来たと思うか?」


 透けたラナの手を取る。

 そして暗黒龍の像にも手を当てる。


 準備は整った。

 俺は大きく深呼吸する。

 研究はしたし仮定も立てた。

 だが検証はしていない。


 ぶっつけ本番だ。


「今、元に戻してやるからな」


 俺は小さく呟いた。

 同時に全身を駆け巡る激痛。


 内部から魔力を全て吸い上げる。

 そして、残った情報と感情を繋ぐ。

 それが俺の策だ。


『アリク様!?』

「ぐ、っっ!!!!」

『何をしているのですか!』

「お前とお前の体を繋ぎ直してる!」


 虚影召喚は鋳造である。

 鋳型に魔力を注ぎ込みそれを動かす。

 ただし、常に鋳型が必要だ。

 着ぐるみにも近いかもしれない。


 だからまずその材料を全て取り除く。

 その中に正しい材料を注ぎなおす。


 説明は簡単。

 だが、いざやるとそれは地獄だった。

 召喚術よりも膨大な魔力を使用する術。

 魔力で暗黒龍の形そのものを維持するのだ。

 流れ込む量も尋常では無い。


『人間の体じゃ持ちません!』


 ラナは叫んだ。

 確かに暗黒龍から流れ込む力は膨大だ。

 胸焼けと共に強烈な吐き気もする。

 外で暗黒龍が暴れる度に痛みが走る。


 だがその程度では諦められない。

 血管が音を立て千切れようと。

 例え心拍が異常なリズムを刻もうと。


 ラナを助けたい。

 全てが始まったあの時のように。


「俺に任せてくれ!」


 無意識にそう叫んでいた。

 瞬間、手の甲に温かいものが落ちる。

 無理やり首をひねって振り返る。


 ラナの瞳に、涙が光っていた。

 彼女は顔を上げ笑顔で言う。


『好きにして下さい!』


 意図せず俺は笑みを零した。


 そのまま目を瞑り、再び叫ぶ。

 言葉には何の意味もない。

 ただ苦痛に耐える為の絶叫。

 魔力を吸い尽くす。


 俺の体も軋んでいく。

 だが像を繋ぐ鎖も軋んでいる。


 だんだんと思考が真っ白になっていく。

 それでも、決して手を離さず。


 その時は訪れた。


 ——グオオォォォォ!!——


 咆哮と共に、鎖が弾け飛ぶ。

 その勢いで俺の体も吹き飛ばされる。


 一瞬ラナの手を離してしまう。

 だが再び彼女は俺の手を掴んだ。

 先程とは別、像があった方向から。


「ハァ……ハァ……」

「あ、アリク、様……?」


 ……ラナだ。


 透けていない。

 無感情でもない。

 意識もしっかりある。


 暗闇の中にラナがいる。

 その顔をくしゃくしゃにしながら。


「ラナ!」

「わぷっ!」


 思わず彼女を抱きしめた。

 色んな感情が混ざりきっている。

 柄でも無い事をしているのは承知だ。

 それでも抱きしめずにはいられなかった。


 ラナも全く抵抗しない。

 だが照れる様子も余り無い。


 抱きしめておいて何だが、恥ずかしい。


『アリク、終わった!?』


 リッカの声が響く。

 それと同時に俺はラナを離す。

 恥ずかしさで死ぬところだった。


 一方ラナは少し物足りなそうだ。

 ……何故かは不明だ。


『シズマの暗黒龍がボロボロになってる!』


 外の様子が実況される。


 内部の魔力を全て吸い上げた暗黒龍の影。

 おかげでかなり強度が落ちたらしい。


 代わりにシズマが完全にキレたようだ。

 早く戻れと救援要請が来る。

 戻り方は恐らく夢と変わらない。

 あとはラナだ。


「大丈夫ですよアリク様、起きたらすぐに飛んで行きますから」


 肉体に残る感情と情報を繋ぎ直した。

 これでバックス領にいるラナは目覚める。

 そう、ラナの身体はまだ向こうにある。


 領地は今、モンスターに襲われている。

 その数は前代未聞の大群。

 サレイやマキナは確かに強い。

 だがきっと手こずっているはず。


「先にテキトーに暴れて来い」

「はい! 任せて下さい!」


 準備運動代わりだ。

 恐らく体も鈍っているだろう。


「そ、その代わりっ!」


 別れ際、ラナが俺を呼び止める。

 それは珍しく"お願い"だった。

 彼女の願いとあれば叶えなければ。

 ……かなり高難度だが。


「任せろ」

「ありがとうございます!!」


 会話を交わし俺は意識を浮上させる。

 ラナの救出は成功した。


 後はブライ達だけである。

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