最強モンスター大戦 〜暗黒龍VSリヴァイアサン!!〜
「……ふぅん、よく来たね」
そこには草原があるはずだった。
俺とラナの旅が始まった草原。
多くのモンスターと緑に囲まれた場所。
しかしそこに緑は無かった。
あるのは、一面の乳白色。
村から見えた明らかな違和感。
俺達はその正体を目の当たりにした。
草木も岩も、動物すらいない白亜。
指し示していた座標との印象が、俺の脳に強烈な違和感を植え付けている。
それでも石はこの地を示していた。
白濁の宝石は今も発熱する。
——グルルルゥ……——
ラナが威嚇するように喉を鳴らす。
以前は暗黒龍の形として不完全だった。
しかし、今の彼女は本物と全く遜色無い。
背中の傷に至るまでラナそのものだ。
恐らく戦闘力もラナと同等だろう。
暗黒龍の中では非常に若い彼女。
だがその強さは俺がよく知っている。
故に救出対象でありながら厄介だ。
二重の意味で敵対したく無い存在だった。
「我が娘を冒涜してくれたものだ」
「娘……まさか、暗黒龍の?」
だがこちらの戦力も侮るな。
戦闘は俺とアビス。
そして奪還は今日の為に鍛えたリッカ。
彼女達も危険度はラナと変わらない。
加えて傍観者としてだが龍皇。
直接協力はしないと約束したが、それでも最強種族の統率者である。
シズマもそれに気づいたらしい。
俺達との戦力差を計算したようだ。
それでも不敵な表情を崩さない。
自分の置かれた立場を理解している。
ラナは武器であり、人質なのだ。
この場にいるのはシズマとラナだけ。
そこで俺は問いかける。
「ブライはどこにいる?」
するとシズマは、小さく微笑み答えた。
「聞くだけ無駄よ」
「どういう事だ」
「召喚術師達はここで死ぬのだから」
「なるほど、冗談は下手か」
互いに挑発し、牽制する。
最早話しても無駄と完璧に理解した。
話で解決する気など無かったが。
そのままシズマは前に手をかざす。
召喚陣は修復されている。
つまり普通の召喚も使えるという事だ。
手をゆっくり振り上げ、声を張った。
「……行くよ、暗黒龍」
——グォォォォォ!!——
ラナが咆哮を上げる。
こんな光景、地獄よりも酷だ。
彼女と完全に敵対する日が来るとは。
だからこそ最速で終わらせたい。
今すぐ彼女を奪還したい。
焦りは禁物だ。
俺は感情を噛み殺し、声を上げる。
暗黒龍に純粋な強さで対抗する。
人間だけでは到底無理な話だ。
それでも、俺はその不可能を超える手段をよく知っている。
「行くぞ、アビス」
「————ん!」
満を持して、アビスが変身を解く。
姿を変えるのはヒトデではない。
龍皇も認めるもう一つの最強。
その体格は無人島と変わらない。
白濁の宝石で封じられていた海の大怪物。
リヴァイアサン。
体格だけならラナの数十倍。
村からもこの姿は見えるだろう。
彼女の背に、俺は飛び乗る。
シズマもラナに騎乗している。
最強モンスター同士の一騎討ちだ。
当然俺達も乗っているだけでは無い。
最初に仕掛けたのはシズマだった。
「貴方は魔術が苦手だったね」
語りながら無詠唱で小さな火炎弾を作る。
大きいが速度の遅いリヴァイアサン。
火炎弾の弾幕を避けることは出来ない。
「ああ、確かに苦手だ」
「なら大人しく食らいなよ」
だが、ただ食らうわけがない。
魔術は彼女のいう通りからっきしだ。
召喚術の代わりにほぼ捨てている。
しかし立ち止まってはいられない。
その為に、俺は鍛えたのだ。
「今の俺にはこれがある」
サレイとリーヴァに託された剣。
その梱包を、今、全て引き剥がした。
姿を現した灰色の長剣。
禍々しい気配が周囲を覆い尽くす。
すかさずそれを握り、火炎弾を切る。
周囲の火炎弾もろとも消し去る特殊な剣。
俺よりシズマの方が詳しいだろう。
その予想はどうやら的中したようだ。
彼女の表情が僅かにこわばる。
「全壊剣……?」
「お前の兄と同質の剣だ」
……いけない、つい口を滑らせた。
精神的なプレッシャーにはなるだろう。
彼女の兄が持つ剣の姉妹剣。
そして彼女とブライを結ぶ秘密。
瞬間、攻撃の手が一時的に弱まる。
俺はアビスに指示を出し触手を振る。
「覗きとは、気持ち悪い趣味を」
会話しながらラナを旋回させる。
暗黒龍のほうが小回りは効く。
だが、触手を脅威としているのは事実だ。
このまま攻撃を続ける。
そして、まずは隙と疲労を蓄積させる。
『乗れ』
『え、私が!?』
『おいて行くぞ』
『わ、わかった!!』
地上で待機していたリッカと龍皇。
彼女達も地上を離れ空中へ。
空を飛べないリヴァイアサンとは対照的に、ラナよりも巨大な体格で俺達を観察する。
リッカの出番はまだ早い。
だが地上にいるよりは素早く動ける。
確かに直接協力はしていない。
ナイスアシストだ。
だがそれでいいのか龍皇。
協力しないと言ったのはあなただが?
まあいい。
今は俺達のやるべき事に集中だ。
「行け、アビス」
「奴らを殺せ、暗黒龍」
互いに指示を出す2人の騎手。
その指示に、2体のモンスターは応える。
——キィィィアア!!——
無数の触手から光線を放つアビス。
——グオオァァァ!!!——
それを迎撃する為に火球を放つラナ。
両者の攻撃力は互角に近い。
防御力も同じく、未だ無傷だ。
空を制し縦横無尽に攻撃をする暗黒龍。
海の頂点に立ち、陸でもなおその強靭な力を振りかざすリヴァイアサン。
最強級モンスター同士の戦い。
未だ作戦実行には早い。
今は、戦況を読み続けるしかない。





