大混戦オールスターズ! 〜後編〜
最高速で飛行するアビス。
俺達と並行して飛ぶ龍皇の巨躯。
その速度はラナのそれを超えている。
眼下には草原を埋め尽くすモンスター。
一体どこから湧き出たのだ?
しかし、前例は一度だけある。
山一つを荒らし尽くすモンスターの群れ。
あの時は呪術の影響だった。
原因は違えど状況は近い。
元凶を処理すれば事態も収束するはずだ。
『あ、あった!』
「着陸しろアビス」
『————!』
中心街を発ってわずか数分。
ポツポツと小さな建物が見える。
そこを埋め尽くすモンスター達も。
状況は中心街に比べかなり酷い。
……しかし、街の様子は妙だった。
悲鳴よりも怒声の方が多く響いている。
着陸すると、原因は判明した。
「負傷者は医療魔術が使える者の元へ!」
「戦える奴は可能な限り戦え!」
「武器になりそうな物を集めろ!!」
女子供関係なく、村に響く声。
その声はどうにも好戦的に聞こえる。
俺の知っている村人達と少し違う。
それでもそこにいるのは、俺にとっては見覚えのある顔ばかりだ。
「おや召喚術師様!」
「村長、これは?」
一番お世話になった村長がこちらに気付く。
右手に酷く変形したクワを持って。
容姿も気持ち若返って見える。
どうやら村人達は"応戦"しているらしい。
しかも予想以上に善戦できている。
その理由を聞き、俺は少し納得した。
この村は既に2度に及ぶ襲撃を受けている。
初めて村に訪れた時のオーク。
そしてダヌアの未完成アンデッド。
両者共に危機一髪の状況だった。
そして身についた危機に対応する力。
最早この村は、ただの辺境では無かった。
「村が無事で良かったな」
安堵をそのままリッカに振る。
俺が安心するのは少し恥ずかしい。
少々見栄を張ってしまっていた。
しかし、そのリッカはと言えば。
『えぐ、えっぐ……』
「どうした、悪魔の娘よ」
『だっで、村が無事で嬉じぐで……』
「貴様とは異なる種族だぞ?」
『種族とが関係ないじぃ……』
龍皇がフォローに回る程泣いていた。
村長は話を続けた。
この現状を支える理由がもう一つある。
それがこの村の最前線にいると。
辺境村の外れ。
最早あの草原に近い場所。
そこに彼らはいた。
ごく普通な男と、普通であれば性別の無いスライムの女性のペア。
「行くわよあなたー!」
「来い! マイハニー!!」
彼らがたった2人で最前線を支えていた。
あの男とナタリアの夫婦である。
普段はのほほんとした夫婦。
その2人がモンスターを蹴散らす。
中々感慨深い光景だった。
「あ、マスター!!」
『久しぶりナタリー!!』
「リッちゃんまで!!」
会話しながらオオカミを叩き潰す。
腕をハンマー状に変形させて。
確かにスライムは不定形なモンスターだ。
でもこんな特殊能力は存在しない。
恐らく彼女特有の能力である。
だが、支えているとは言え漏れがある。
それを後ろの村人が処理している状態だ。
かなり綱渡りな戦い方をしている。
このままでは決壊してしまう。
なるべく彼等の負担を減らさなければ。
「俺にも助力させてくれ」
「いいですけど、この後戦うのでは?」
「この村を守りたい奴は他にもいる」
どこか呼び声が聞こえるようだった。
俺の手のひらにある召喚陣。
そこが少しだけ熱く感じるようだ。
まずはホブゴブリン。
「『出でよ、強く賢き地霊よ』」
彼らは村の初期から生活を手伝ってくれた。
「『肥えた蛮族よ、剛腕を奮え』」
次にジャイアント・オークのウィル。
俺の旅を初めから支えてくれた仲間であり、最古参のモンスターだ。
「『仕事だ。可愛らしきスライム』」
そして、スライム達。
この村で初めて召喚したモンスター。
召喚数は当然。
「『5000体、来い』!」
あの日と全く同じ量である。
指示も当然、村の外敵を排除する。
一気に5000と3体。全員頼りになる仲間達だ。
……どうも魔力の減りが少し多い。
いや、理由は明白だった。
「お前は呼んでないぞ」
『こいつぁアッシなりのケジメです』
「……お前らしいな」
普通のスライムの中に、最強の彼がいた。
あの時の独断のケジメをつけるらしい。
相変わらず堅苦しい性格だ。
でも力を貸してくれるなら嬉しい限りだ。
これだけいれば村も確実に安全だろう。
あとは、コイツの気持ちだけだ。
「お前はどうする、リッカ」
戦場を眺めるリッカに声をかける。
一番最初に村が気になったのは彼女だ。
戦力としては重要な存在。
それでも彼女の意思を尊重したい。
だからこそ、俺は問いかけた。
本当にやりたい事を聞くために。
『私も村を守りたい』
「…………』
『でも、私にはやらなきゃいけない事がある』
その瞳は決意に溢れていた。
宿した使命をそのままに、彼女は叫ぶ。
『みんな、この村の事を頼んだよ!』
『当然ですねー』
『腕が鳴りますなー』
『俺達が何とかする』
『リッカさん、親父の事は頼みやす』
既に交戦しながら彼等は口々に返事する。
言葉の雨が、リッカは更に強くする。
最早引っ込み思案な少女はいない。
強く凛々しいセイントデビルがそこにいる。
一粒の涙と共に彼女は笑う。
リッカを象徴しているようだ。
努力と苦悩を重ねた成長。
それが彼女の強さの証。
「頑張ってね、リッちゃん!」
前線で戦うナタリアの言葉。
その言葉で、彼女は完全に吹っ切れた。
頬の涙を拭い、俺の目を見て言う。
『行こう、アリク!』
束の間の第二の故郷での会話。
しかし、無駄な時間では無かった。
安堵と勇気、そして覚悟を与えてくれる。
これだけあれば俺達も安心して戦える。
敵は最早眼前にいる。
僅かにその異変も目視できる距離だ。
後は、俺たちが決着をつける。
それだけだ。
——グォォォォォ!!——
暗黒龍の咆哮が響いた。





