ゴーレムも簡単に攻略できる。そう、召喚術ならね
シーシャに案内され地下へと向かう。
「アリクさんは、召喚術師なのですよね?」
「そうだが?」
「実はボク、ゴーレムマスターなんです」
マキナが話しかけてきた。
短い髪とボーイッシュな容姿だが、所々に女性らしさが垣間見える。
黄色い蝶の髪留めが特徴的だ。
ゴーレムマスターか。
理由は不明だが、大昔から因縁がある。
何故か召喚術師と"仲が悪い"で有名だ。
「フフフ、まあ因縁とか気にせずに」
「ああ、互いに楽しもう」
恐らくは『何かを使役する』という一つの特徴で張り合っているのだと思う。
彼女の言う通り、気にせず戦おう。
「両者、前へ」
地下にこんなだだっ広い空間があるのか。
照明もしっかりついている。
ルールは至ってシンプルだ。
一番最初の召喚物が先に倒されたら敗北。
つまり、最初に召喚したモンスターを守りながら戦うという事だ。
「またよろしくな、ガルーダ」
小回りやスピード面からガルーダを選ぶ。
本当ならラナや他の最強クラスを使いたいところだが、広いとはいえ地下だ。
どんな被害が起きるかわからない。
「私はゴーレム一体で行きます」
そう言って二つのボトルを取り出す。
片方は土、片方は水が入っていた。
「なかなか強気じゃないか」
「一つのゴーレムをカスタムして戦うのが、ボクのスタイルなので」
ボトルを開け、中身を地面にこぼす。
混ざり合った土と水とがうねる。
生成を見るのは初めてだ。
人の形に変わり、巨大化する。
巨大化する。
巨大……になりすぎでは?
「大きさに規定はありませんから」
素直にラナを使えば良かった。
* * * * * * * * * *
「避けろガルーダ」
ガルーダの背に乗り、低空で飛行する。
さっきまで俺がいた場所に、ゴーレムの拳がめり込んでいる。
巨大ゴーレムの攻撃は重く遅い。
だが、まだ真価を発揮していない。
マキナの言う通り、ゴーレムの強さはカスタム強化できる事だ。
「『構築:速度強化』」
ゴーレムの肩に乗るマキナが唱えた。
体格に反して速度が増していく。
ラッシュが地面を砕く。
だが、ガルーダの速度にはまだ遠い。
避けるのは簡単だ。
「『超力と剛力、一対の門番よ。我が下に膝をつけ』」
俺も二度目の召喚を行う。
『何さ……ってうわっ!』
『ゴルドラ姉!? 全くまた変なタイミングで呼びましたね!』
「スマン、足止め頼む」
勝利の法則は既に決まっている。
ただ、良い戦いも期待されているのだ。
一方的に倒すにはまだ早い。
『まぁ、農作業よりはマシか』
『えぇ、戦場に感謝を……アハッ』
戦闘狂だが、こいつらの戦いは絵になる。
シーシャも満足するだろう。
『ゴルド姉! バリアお願い!』
『シルバゴ! 突っ込み過ぎ!』
『片腕ブッ砕いてくるだけだから!』
『全く……援護するよ!』
流石剛力のシルバゴ。
ゴーレムの拳と撃ち合っている。
ただコイツらも強いからな。
間違えて倒すなんてこともあり得る。好感度は上がらないくせに、戦闘力ばっか強くなる姉妹だ。
『バリアが持たない! うわっ!』
『ゴルドラ姉! きゃっ!』
流石にナメすぎたか。
カスタムが積まれたゴーレムの一撃だ。
その体格差に姉妹揃って吹き飛ぶ。
「『仕事だ、可愛らしきスライム』」
スライムを召喚し、クッションにする。
『ってて……サンキュ、アリク様』
『出しゃばり過ぎました……』
「いや、大丈夫だ」
金銀姉妹の戦闘をねぎらった。
だが、決着のためにもう少し居てもらおう。
そろそろ潮時か。
拮抗という面での魅せる戦いは終わり。
次は鮮やかな攻略をお見せしよう。
「もっと強いモンスターを召喚しても良いのですよ?」
「ああ、そうする」
口では言うが、この場で強さは必要ない。
ゴーレムの強さがカスタムなら、召喚術の強さは適材適所の応用性。
頭を使えば正攻法以外の勝ち方もある。
「『炎精よ、爆ぜよ』」
詠唱と同時に熱風が吹き荒れる。
炎の精霊・イフリートの召喚術だ。
熱風が一箇所に集まり、炎の巨影を作る。
大きさは眼前の巨人と同等だ。
「ゴーレム相手に炎ですか?」
「…………」
「はぁ。失望しました」
彼女はこう思っているだろう。
土と水でできたゴーレムに、炎の精霊が何の意味があるのかと。
彼女の予想通り、イフリートは押し負ける。
そのままゴーレムは拳を構えようとした。
が、異変は突如起こる。
「……う、動かない!?」
全身にヒビが走り、動きがピタリと止まる。
その場にパラパラと砂粒が落ちていく。
これが俺の策だ。
「水や土は火を消す。それは当たり前だ」
「なっ……!?」
「だが、逆も然りだ」
ゴーレムの構成材料は土と水。
土は肉体を、水は機動性を生む。
その水がなくなれば一体どうなるか。
そこに残るのは、ただの砂の塊だ。
「シルバゴ」
『何でございますか?』
「スマッシュだ」
* * * * * * * * * *
「良い戦いでしたよ、二人共」
シーシャに褒められながら、俺は砂まみれのマキナを抱え上げる。
良かった、普通に意識はあるようだ。
結構高い場所から落ちたから心配した。
「本気を出さないなんて、残酷ね」
「ここが崩壊したら危険だと思って」
「あら、意外と考えていたのね」
ゴーレムが破壊できる程度だからな。
ラナなんか、たぶん羽ばたきした瞬間に俺たちは生き埋め確定だろう。
そのラナは……うそ、寝てらっしゃる。
俺の勇姿、見てなかったのか。
「出してなかったのですか? 本気」
「あー、すまん」
「……少し興味が湧きました」
決して彼女が弱い訳ではない。
ゴーレムマスターとしては一流だろう。
「約束通り、あなたを支援するわ」
「ありがとうございます」
「その代わり、何かあったら手伝ってね」
領主の娘が支援者か。
相当動きやすくなりそうだ。