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仲間達と過ぎゆく決戦前夜

 

 明日の朝に俺は出発する。

 決戦の地、始まりの草原にて。

 全ての決着をつける。


 ……はずたったのだが。


「飲み過ぎだマキナ」

「羽目を外しすぎました……」


 シーシャによって開かれた俺の壮行会。

 という名の大規模な慰安パーティ。

 彼女の直属部下から憲兵まで、バックス領を支える人々が思い思いに騒いでいた。


 マキナも最初は自制していた。

 俺の戦いに同行したかったらしい。

 俺もその気持ちは嬉しかった。


 だが、世話になってばかりはいられない。

 それに自分の研究に依頼された研究。

 彼女自身の予定が詰まっている。

 薄酒を2杯飲んでこの酔いだ。

 マキナには残ってもらう事にした。


「絶対ついて行きますからね?」

「お前は待ってろ」

「心配なんですけど?」

「ここに何かあった時のほうが心配だ」

「……そういう事ですか」


 俺の意図を察してくれたらしい。

 ゲストルームのベッドを明け渡す。

 すると彼女は数秒せずに寝息を立てた。

 やはり疲れていたじゃないか。


 野生のモンスターが凶暴化している。

 並の憲兵では苦戦するだろう。

 いつ人里を襲撃しておかしくない。


 この状況で頼れる相手。

 サレイ達もそうだが、それ以上の逸材。

 それがマキナなのである。

 彼女とシーシャがいれば何とかなる。



「襲わないのかい?」

「冗談は設定だけにしろ」

「記憶喪失は設定じゃないんだよ」


 いつの間にかついて来ていた彼女。

 シーシャの養子兼給仕——メリッサ。

 そうだ、コイツもいる。


「自分の記憶と関係ある戦いだろう?」

「さぁな」

「はぐらかすという事は図星だね」


 記憶を喪失しても彼女は彼女。

 相変わらず苦手な性格をしている。

 しかも、今は記憶の大半を失っている。


 記憶をいち早く思い出したい。

 それがまた彼女に拍車をかけていた。


 最強の盾使いとしての腕は健在だ。

 その強さに彼女自身が驚いていたが。

 攻守一体の強さを持つマキナ。

 防御面で敵無しのメリッサ。

 彼女達がいる限り、この領地は安全だ。


「いつか話してくれるかな?」

「何をだ」

「自分の過去をさ」


 やはり彼女はどうにも苦手だ。


 記憶を失う直前、メイサだった最期の瞬間。

 彼女は不敵な態度で俺を守った。

 まだ意図を完全に理解できないままだ。

 当然だが彼女はそれを覚えていない。


「帰ったら少しだけ話そう」

「本当かい?」

「ここで嘘をついてどうする」


 彼等を倒せば事件は全て終わる。

 彼女も事件の当事者なのだ。

 きっと、何か困難に突き当たるだろう。

 その時は俺も力を貸さなければ。


 俺を助けてくれた恩返という事で。

 無事に帰って来たら、の話だが。


 気が抜け、俺は少しだけ欠伸(あくび)をかいた。


「おや、眠いのか」

「どうにも眠れそうになくてな」

「誘っているのかい?」

「冗談は設定だけに——」


 最近できたいつもの受け答え。

 それを返そうとした瞬間。

 廊下から妙な一団が入ってきた。


「こんなところにいたのね」

「送り狼じゃなかったか……チッ!」

「先輩がそんな事する訳無いだろ」


 シーシャにリーヴァ、それにサレイ。

 彼女達が愉快に会話を重ねている。

 それだけではない。

 龍皇、リッカ、アビス。

 金銀姉妹もいる。


 勢ぞろいするのは初めてだろうか。

 俺のわがままに付き合ってくれた協力者。

 そして、俺にとって大切な存在。

 ここに本当はラナがいるはずだった。


 しかし今は欠けている。

 それが僅かに俺の内心を震わす。


「どうした、アリク」


 龍皇がそれに気づいたようだ。

 彼に隠し事は通用しない。

 初めて抱えたこの感情。

 俺は、それを口にしてみた。


「少しだけ不安でな」


 敵はたった2人の勇者パーティ。

 軽くあしらえるはずなのだ。

 しかし俺は何度となく彼等の逃走を許してしまっている。


 敗北は許されない。

 だが、何が起きるかわからない。

 ……何かを失うかもしれない。


 それが恐怖だった。

 初めて、それを自覚した。


「フン、下らん」


 龍皇はそれを軽くあしらった。

 それに他の仲間達も続く。


「先輩は最強の召喚術師!」

「貴方はもう敵無しよ」


 サレイが鼓舞する。

 シーシャが支えてくれる。


「もっと胸を張れバーカ」

『アリク様が負ける訳ねーだろ』

『私たちがついてます』

「——アリクなら、大丈夫」


 リーヴァが叱咤する。

 ゴルドラが激励する。

 シルバゴが後押しする。

 アビスが不安を拭い去る。


 俺を強くしてくれる仲間達だ。

 彼等がそう簡単に消える訳がない。


「だからもう寝なよ」


 声をかけて来なかったリッカ。

 彼女が俺の額に手を当てる。

 その瞬間、一気に睡魔が増幅した。

 身体のバランスが取れなくなる。


 それをリッカは優しく抱えてくれた。

 ついこの前までモヤシだったのに。


「こ、今夜は近くにいてあげるから、ね?」


 仲間に恵まれた。

 俺は初めて、この事実に自覚した。


 彼等の為にも負けられない。

 もう一度、彼等と笑い会う為に。

 だからこそ今は休もう。


 今は、肩を借りよう。

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