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モンスター強奪作戦 〜切り離された暗黒龍〜

 

 矢に貫かれた腕を抑えるブライ。

 無様にしぶとく、まだ足掻く。

 例え彼が意識を失っても。

 力を封印したはずのシズマが動くのだ。


 狙いは恐怖に怯えるラナ。

 背中の傷に反応し、勇者様が動かした。


 何故傷を知っているのかわからない。

 ラナの口ぶりから読めるものはある。

 それでもまだ暗雲は残っていた。

 結局あの剣は一体何なんだ?


 気絶したブライと動き出すシズマ。

 そして行動不能かな陥ったラナ。

 どこに気を向ければいい。


「変身解除、かな?」


 混乱する広間。

 大きく変化したのはシズマだった。


「サキュバス……!?」

「正確にはハーフサキュバスかな」


 彼女の変化に気づいたのはリッカ。

 同族だから発見できたのか。

 翼に尻尾という組み合わせはよくある。

 だからこそ判別が難しい。


 だが彼女は『ハーフ』と訂正する。

 混血でハーフと表現するのは主に人間。

 半分は人間であると強調したいのか。


「気づいたところでもう遅いけどね」


 シズマは呟く。

 同時に周囲の人々が次々と倒れていく。

 脳を突くような甘い香りを感じた。

 サキュバスの誘惑とすぐに理解する。


 だがこの規模は異常だ。

 残った人間は俺とマキナ、シーシャのみ。

 実力だけならリッカに近い。


 彼女は修行でセイントデビルに進化した。

 そんな彼女と同格だというのか。

 となると危険度はS級。

 どこからこの強さは来ている?


「いっそのこと見せてあげるよ」


 それは探すまでもなかった。

 彼女自身がそれを取り出した。

 いや、出現させたという表現が正しいか。


 しかし彼女は出現させた。

 身の丈をゆうに超える巨大な宝石を。

 強力すぎる魔力の原因はこれか。


「暗黒龍、その影を貰おうか」

「何だかわかんないけど、させない!」

「——!!」


 不吉な言葉にリッカ達は反応した。

 ラナを庇うように立ち塞がる。


「『魂食らう絶壁よ、遮断せよ』」


 デビルウォールを召喚する。

 連なる絶壁、破壊はまず不可能だ。

 だが、彼女は身を弁えていた。


 屈強な憲兵を誘惑だけで気絶させる。

 高い実力は持ち合わせている。

 しかし、俺には一度負けている。

 俺の実力を知っている。


 彼女は戦う気すら無かったのだ。


「『虚影召喚:暗黒龍』」


 巨大な宝石が魔力の乱気流を作る。

 唱えたのはやはり未知の魔術。

 確実に召喚術では無い。

 召喚陣すら展開されていない。


 代わりに、地面を黒い亀裂が走る。

 実体のない亀裂はぽっかりと穴を開け、そこに大量の魔力が流れ込んだ。


 そして中から何かが浮かび上がる。

 その様は確かに召喚術のようだ。

 現れた何かの正体。

 その姿に、俺達は唖然とした。


「石を使ってもこの負担か……きっつい」

「どういう、事だ?」


 ラナだ。

 ラナがそこにいる。


 あり得ない光景だ。

 彼女はリッカ達の後ろにいる。


 同じモンスターが同時にいるのはありえる。

 だが、全く同じ個体は2体といない。

 いないはずなんだ。


「ラナさんがもう1人……?」

「半分は正解かな」


 最悪な予感が脳裏をよぎる。

 まだ魔力はラナに流れている。

 それ以外の反応を感じない。

 デモンズウォールを解除する。

 リッカとアビスも同時に振り向く。


 そこにはしっかりラナがいた。

 ラナが……倒れていた。

 咄嗟に俺は駆け寄り、抱き上げる。


「——ラナ?」

「呼吸も意識も無い!」


 ピクリとも動かないラナ。

 それでも生命活動は残っている。

 未だ魔力も消費されている。


 虚影召喚、この魔術をそう呼んでいた。

 しかしこれは召喚術などでは無い。

 もっと別に分類される魔術だ。

 召喚術にこんな効果は存在しない。


 これが秘密兵器・シズマの正体か。

 この全く未知の魔術が。


「暗黒龍、真の姿を現しなさい」


 シズマがもう1人のラナと目配せする。

 そしてパチッ! 強くと指を鳴らす。


 瞬間、文字通り周囲は暗転した。

 光がもう1人のラナに吸い込まれる。

 そう見紛うような赤黒い闇。

 中心の魔力が膨張する。

 ラナが元の姿に戻る時と同じだ。


「何の冗談かしら?」

「冗談なんかじゃ無い」

「では本当にラナさんは……」


 シーシャ達の視線が刺さる。

 俺は、何も言えなかった。


 彼女達が信頼できなかった訳ではない。

 だが、ラナも俺もそれを望んでいなかった。

 打ち明けるにはまだ早い。

 決めつけていたのだ。



「ブライは一体何を企んでいる?」

「……そうだね、教えてあげようか」


 問いかけると、シズマはたっぷりと間を取って話し出した。


「勇者は希望の象徴。願うのは平和」


 説明しながらシズマはブライを抱えた。

 まだ彼が意識を取り戻す様子は無い。

 ラナを利用して逃走するつもりだ。


「平和な世界の王様になりたいのさ」


 戯言を並べる。

 世界の王だと?

 元から平和な世界で?


 ふざけるな。

 ラナを、返してもらおうか……!


「アビス、行けるか?」

「——ん!」


 シズマが暗黒龍のラナに飛び乗る。

 追跡のため、アビスは元の姿へ戻る。


 あのラナからは意思を感じない。

 命ぜられるがまま巨体で邸宅を破壊した。

 翼を羽ばたかせ、飛び立つ大きな影。

 それを追って俺達も飛ぶ。


 眼下の街は大騒ぎになった。


「暗黒龍だぁぁ!」

「逃げろ! こっちに来るぞ!!」


 領主邸から飛び立った暗黒龍。

 暗殺未遂の騒ぎがあったばかり。

 パニックになるのも当たり前だった。


 中心街とはいえ小さな街。

 暗黒龍なら十数秒で出られる。

 領から離れる事すら容易だ。


 その肉体を逃走の為に活用される。

 シズマが背を叩くと、暗黒龍は振り向く。


「暗黒龍、街を焼け」


 暗黒龍は巨大な火炎弾を放った。

 ワイバーンのそれと比にならない。

 街を飲む、超巨大な火炎弾。


 再び身を翻し彼等は逃げ出す。

 眼前にはラナの後ろ姿と巨大な火炎弾。

 避けて追えば確実に間に合う。

 だが避ければ大惨事になる。

 最悪の二択を迫られた。


 俺は、俺は……。


「……アビス、街を守れ!」

『——!?』

「今は街の安全が先決だ!」


 彼等を追いたい。

 それでも踏みとどまった。

 追跡し、街が消し炭になったら。

 ラナはどう思う。


 それが脳裏によぎった瞬間、俺はアビスに指示していた。

 アビスは応え、火炎弾に突撃する。

 彼女の強度ならこの程度造作もない。


 俺は手近な建物の屋上に飛び降りた。

 その頃にはもう暗黒龍の姿は無い。

 唇を噛み締めた、その時。


「届けぇぇぇええ!!」


 1本の矢が青空を裂く。

 意味もわからず、的も無い。


 残り僅かな命を散らすようだった。

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