対召喚術師用秘密兵器、出撃!
ホノン達が何処へ行ったのか。
恐らくはここ、バックス邸の見える位置だ。
ダヌアの牢からはどちらも同じ距離。
普通ならどちらに行くか迷う。
「ご無事で何よりですアリク様!」
「もーどこ行ってたの?」
俺は選択する事なくシーシャ邸にいた。
そこには護衛のモンスター達。
そしてマキナが待っていた。
どうやら何度か呼び出したらしい。
連戦と監視のせいで気付かなかった。
ゴーレムに着信履歴でもあれば。
悪い事をしてしまったには変わりない。
一応言い訳を挟む。
「主犯と実行犯とダヌアの相手をだな」
間違ってはいない。
が、ダヌア以外を知る人がここにいない。
せめて金銀姉妹がいれば。
彼女達はシーシャ達を警護している。
流石本職が番人なだけある。
本職をこなす場面はあまり見ないが。
それはさておきマキナが口を開く。
「その3人はどうしたのです?」
「逃げられた」
「すみません、ボク耳が遠いのですかね」
「だから逃げられたんだって」
「……マジですか」
これも間違ってはいない。
ダヌアとホノンには逃げられ。
謎の少女も暗躍している。
彼女が暗躍しているという事は、おそらく司令塔としての勇者様もいるに違いない。
「でも大丈夫だ」
「何がです?」
そう、俺はツイていた。
追跡を選ばなくて正解だった。
何故なら。
「奴らはここにいる」
ラナ達がざわめく。
この反応も全くおかしくは無い。
邸宅の警備は非常に厳重だ。
俺だって非常時以外は入るのに手間取る。
それでも奴らには前例がある。
そもそもあの検問を抜けたのだ。
何かの技術を習得している可能性はある。
しかし、気配遮断は下手なようだ。
ホノン不在ではこんなものか。
「そろそろ出て来たらどうだ?」
「随分と警戒してるのね」
聞いた事のある声。
それでも生で聴くのは初めての声。
夢の中の少女と全く同じ声色だ。
勇者様は言った。
彼女が俺用の秘密兵器であると。
秘密兵器の割には随分あっさりな登場だ。
扉の陰から出てくる姿も少しダサい。
白い魔術装束の少女。
夢の中では判別不能だったが、この場で見るとその装束が召喚術用だとわかる。
やっぱり俺の普段使いとダダ被りだ。
俺の後任の召喚術師。
俺の知らない、最後のパーティメンバー。
「シズマでいいのか?」
「いいよ」
「そうか」
淡白な会話だ。
だがこれだけで十分だ。
俺が名前を知っている事に驚きもしない。
中々肝の座った少女である。
夢の印象だと、発言権も強いらしい。
それだけ実力もあるのだろう。
「お前が対俺用の秘密兵器と聞いたのだが」
「確かに、そうではあるかな」
否定はしなかった。
兵器扱いでいいのか、彼女は。
どこか感情自体が希薄な感じがする。
ネム以上に自分自身へ興味が無いような。
ネムと同タイプだったら厄介だな。
あのしぶとさはこりごりだ。
単純な厄介さなら勇者様のが上だが。
俺の質問に答えながら掌を構える。
召喚術師の戦闘態勢だ。
「……戦えばわかるかな」
あまり表情を変えず彼女は呟く。
この場でやる気らしい。
なるべく荒らしたくは無いのだが。
致し方ない。
俺は構える事なく、アビスに指示を出す。
「アビス、戦闘モードだ」
「——ん」
「え?」
シズマは素っ頓狂な声を上げた。
指示通り、アビスは自らの姿を変容させる。
ラナの習得した戦闘形態への変身。
アレをアビスにも覚えさせた。
何せアビスのもう一つの姿——リヴァイアサンは、強いがあまりにも巨大すぎる。
暗黒龍であるラナが小さく思える程だ。
そのせいで高速飛行しか役割が無かった。
そして、相変わらずの吸収力。
ラナですら結構な時間を要した。
それをアビスは2日でマスターした。
「聞いてない」
「何がだ」
「女の子達がモンスターだって」
「ボクは違いますよ」
「わ、私もです!」
取り繕うようにラナが語る。
人間ロールプレイが上手くなったものだ。
突然の変身に慌てるシズマ。
残念ながらそれはお前の失策だ。
情報収集を念入りにするべきだったな。
秘密兵器のはずが、もうボロが出た。
「し……仕方ない」
彼女の腕が淡く光る。
どうやら召喚術を使うらしい。
……なるほど、魔力量は確かに多い。
質も俺の魔力によく似ている。
珍しい人材を見つけてきたものだ。
「『荒ぶる飛竜よ、君臨せよ』」
相性と同時に小型の龍が姿を現わす。
群生の龍、ワイバーンだ。
危険度はAの上位といったところ。
並の召喚術師なら切り札レベル。
それを彼女は一度の召喚で6匹出現させた。
実力は確かなようだ。
こうでなくては。
「ワイバーン、そいつら全員倒せ」
「アビス、相手をしてあげろ」
「——ん」
危険度A上位6匹に対しアビスのみ。
戦闘モードとはいえ、実力の全てを引き出せるという事ではない。
遅れは取らんだろうが手こずるはず。
ならばこちらも数で対応だ。
「ラナとリッカはアビスのサポートを」
「わかった!」
「ボクはどうします?」
「屋敷の捜索を頼む」
各々に指示を出す。
今のマキナなら勇者様も敵ではない。
いっそ倒してしまっても構わない。
それにマキナ不在ならラナも変身できる。
彼女が変身すれば簡単に片付く。
更に、この指示にはもう一つ意味がある。
「そうはさせないね」
シズマは再び召喚陣を展開した。
数体のスケルトンで道を阻む。
……まんまと引っかかってくれたな。
彼女の今の行動、これで勇者様もこの屋敷へ侵入しているのがほぼ確定した。
そうでなければ道を塞ぐ事もない。
スケルトン程度ならマキナは一撃だろう。
だが少しでも消耗させたくない。
それに、低級アンデッド程度で足止めを狙うとは俺達も舐められたものだ。
「お前もな」
言い返し、俺もスケルトンを召喚する。
しかし数も質も彼女の比ではない。
歴戦のスケルトンを数十体。
これで無理矢理道をこじ開ける。
「マキナ、先に行け」
「ここは任せます」
すれ違いざまにマキナと会話する。
格下とはいえ勇者様は厄介だ。
武運を祈る。
そして、改めてシズマと対峙する。
さて、試してやろうか。
俺を対処する為にスカウトされた少女。
その実力を。





