表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/184

三流魔術師&最弱射手VS召喚術師&比較的弱いモンスター軍団

 

 攻撃を避けると、ホノンが矢を射る。

 2人のコンビネーションは上手いようだ。

 しかし戦闘スタイルがお粗末すぎる。

 後衛の射手が前に出ている時点で酷い。

 ダヌアで持っているようなものだ。


 俺はスライムを10匹召喚して様子を見る。

 もっと派手に召喚してもかまわない。


 だが、流石に負担が大きい。

 S級4体に金銀姉妹にイビルアイ。

 戦闘での疲労もある。

 まとめると少し休みたい。


「当たった……!」


 それ以上にこの2人の戦闘力だ。

 たった10匹のスライムに手こずっている。

 ホノンに関しては当たる度に喜ぶ始末。


 何とか残り4匹までスライムを削る。

 ダヌアの息も上がり気味だ。

 実質5匹はダヌアが倒している。

 ホノンは前に出てる割に矢が当たらない。


「『白き骸達よ、働け』」


 決定打は作らない。

 全力で潰す気もさらさら無い。

 ただ少しずつ体力を削る。


「相変わらずウッゼェなぁ!」


 ダヌアがキレ気味に叫ぶ。

 ウザいと思われる程度で十分だ。


「骨の癖に何故弓が上手い!?」

「お前は射手なのに回避が上手いな」


 細身を生かしスケルトンの攻撃をかわす。

 間一髪ながら鋭い身のこなしだ。

 かなり体力は消耗しているが。


 スケルトンの弓が上手い理由か。

 あまり考えた事が無かったな。

 生前の彼等は恐らく無名の兵士だった。

 有名になるとA級程度の危険度はある。


 低級なアンデッドは単純な戦闘をする。

 しかし生前の技巧が僅かに残っているので、たまに強い個体が現れる。


 ……多分そんな感じだ。


「負ける訳にはいかないのだ!」

「何故そこまで最強にこだわる?」

「貴様にだけは……絶対に理解できん!」

「説明されなきゃ分かる訳ないだろ」


 結局何一つわからない。

 何も教えられていないのだから。

 なのに最初から理解できないと拒絶されてしまったら、俺もどうしようもない。


 僅かにモンスターの壁に隙間ができる。

 その隙をダヌアが潜り抜けてきた。


「貴方は召喚術を極めたでしょう?」

「モンスターと仲良くなるためだ」

「それで最強になったんでしょう?」

「結果的にな」

「それが嫌味なのよぉ!!」


 怒号混じりに魔力の篭った拳が迫る。

 間一髪で避けるが、その迫力には気圧されるものがあった。


 俺は理想の過程で最強になった。

 ホノンは過程の果てに最強がある。

 その時、俺は気がついた。

 彼女と俺の大きすぎる隔たりを。


 俺が理解できないと言われた理由を。


「私も王道を歩みたかった!」

「…………」

「だが私には時間が無い!」


 叫びながらも彼女の雰囲気が変わった。

 一本の矢へ白濁の宝石から魔力が流れる。

 その矢を弓につがえ、放った。


 その一撃は想像を絶する。

 狙いの定まらない一矢。

 その風圧にスケルトンは吹き飛ばされた。


 そう、彼女は確かに弱い。

 だがやればできるタイプなのだ。

 それは俺も良く知っている。

 だからこそ俺は混乱していた。

 らしくない彼女の戦闘スタイルを。


「 ならばせめて!死に際の僅かな時間くらい! 最強の座に登りたいのだ!!」


 全てのスケルトンが蹴散らされた。

 ホノンの矢は俺を狙う。

 ギリギリと絞られる細い弦。

 ダヌアはそれを一心に見つめていた。


 ……勇者様も残酷な事をする。

 死が近いと知って急かしたわけか。

 ホノンの目は血走り、鼻血が垂れていた。


 彼女は全く気づく様子はない。


「それが駄目な夢か?」


 何かに(すが)るようにホノンは囁いた。

 彼女は俺の肯定を待っている。

 駄目ではないと言って欲しい。

 それが刺すように伝わってくる。


 ここは甘い夢を見せるべきか。

 それとも辛い現実か。

 俺は選ぶまでもなかった。


「ああ、ダメだな」


 後者だ。

 残念ながら彼女の言葉を飲み込めない。

 時間が無かろうと彼女の行いは悪。

 誰も認めてはくれない。


 俺もやっと少し理解した。

 ホノンはは最強を履き違えている。

 だが、今ならまだ間に合う。


 俺はそれに賭けた。

 彼女が命を賭けるように。

 対して彼女も口を開く。


「なら……なら、私は……!!」


 その言葉は震えていた。

 恐怖と怒り、絶望、悲しみの混じる怨嗟。

 俺が口を開くことはない。

 ダヌアも黙ってそれを見る。


 俺を倒したいならば絶好のチャンスだ。

 しかしダヌアは攻撃して来ない。


 もし、ここにいるのがネムだったら。

 ネムとの戦闘時にダヌアが生きていたら。

 彼女は何を思ったのだろう。


「私はどうすればいいのだ!!?」


 理想の為に身を狂わせたネムが重なる。

 お前もまた、勇者様の被害者か。

 そして俺も彼女を狂わせた一因だ。


 確かに勇者パーティには恨みがある。

 それでも今ならお前は引き返せる。

 ネムのように盲信する事無く。

 ダヌアのように哀れに死ぬ事無く。

 イゴウのように無意味に死ぬ事も無い。


 たった一瞬でいい。

 その弓は、何を射るために握るのか。


「『仕事だ。可愛らしきスライム』」


 大きめの召喚陣を展開する。

 全て予定通りに進んだ。

 後はダヌアに任せる(・・・・・・・)しか無い。


 ……かなり癪に触るが。

 一応因縁のある相手なのに、俺も甘い。


「『3490匹、来い』」


 俺がそう唱える。

 と同時に、スライムは路地を埋め尽くす。

 以前のような広い空間では無い。

 いくら柔らかくても圧力はかかる。


 体力を消耗させた理由はこれだ。

 死に追いやらず、与えるダメージも少なく。

 だが意識だけは刈り取る。


 圧力と窒息による気絶。

 俺はそれを狙っていたのだ。

 そして狙い通りに彼女達は動いた。

 手を叩きスライムの召喚を解除する。

 そこには気を失った2人が倒れていた。


「……行くか」


 まだ俺の役割は終わっていない。

 だがここはひとまず立ち去る。


 俺はその足で、最強のスライムがいるであろう場所へと歩いていく。

 今回の件を説明してもらわないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版が2019年3月9日に発売します!
さらに濃厚になったバトルシーン! 可愛いモンスターたちの大活躍をお楽しみください!!

書影
書籍版の公式ページはこちら



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ