格下勇者と謎の大剣
最高速へ達するガルーダ。
このまま突っ込めば間に合う。
いや、この速度ではもう止められない。
建物に激突し、ガルーダは消滅する。
だがコイツもそれは覚悟済みらしい。
非常に男らしい鳥である。
なら、俺に出来るのは衝撃吸収だ。
「『仕事だ。可愛らしきスライム』」
五匹のスライムを召喚し、衝撃に備える。
超速で迫り来る建物の窓。
はっきりと見え始めた勇者様とホノン。
絞られた弓から矢が射出される。
だが、その矢はひどく震えていた。
狙いが定まらなかったのか?
しかしパレードが行われているメインストリートにはと飛んで行く。
矢は爆薬等の付いていない通常の物。
それでも殺傷能力は備えている。
「マキナ」
「大丈夫です、人には命中してません」
ゴーレム越しに声が返ってくる。
しかし周囲は大騒ぎだ。
矢が飛んできたのだからおかしくは無い。
だが狙撃は失敗。
パレードの警戒は防御へと変わる。
「くっ……!」
「アリク、貴様!!」
「随分ド派手な登場だなぁ」
勢い任せに俺は窓へ飛び込んだ。
さて、コイツらはどうする?
「勇者様……」
「作戦通りにはならねーな、やっぱ」
「ならば加勢を!」
「お前は次の狙撃ポイントに行け」
諦めないという選択肢を取るらしい。
勇者様が俺の前に立ち塞がる。
どうやらホノンを逃がすようだ。
勇者様が自ら囮になるとは。
相当ホノンに入れ込んでいるな。
それとも囮になる程の価値があるのか。
善意というのはまず無いだろう。
「マキナ、第2撃に備えろ」
「了解しました」
パレード側に伝え、勇者様と向き合う。
彼は背中の大剣を抜き、俺に突きつけた。
「例の特殊兵器はどうした?」
「別の場所で待機中」
「それで勇者様1人か。随分余裕だな」
彼は誰も彼もを雑魚と罵る。
中でも俺への評価は非常に低かった。
パーティ所属中は彼へのご機嫌取りでまともに召喚術を活用できなかった。極大召喚使うとキレるし。
実力の差ははっきりと現れている。
若干厄介な程度だ。
先に仕掛けてきたのは勇者様だった。
体格に似合わぬ大剣での一閃。
余りにものんびりした攻撃。
運動神経が並の俺でも目視で回避できる。
攻撃されたなら、こちらも反撃だ。
召喚陣を地面に展開する。
右腕はまだ本調子に戻っていない。
実質的なハンデ戦だ。
「『まつろわぬ屍よ、生者を捕らえよ』」
それなら少しトリッキーに戦おう。
地面の召喚陣からアンデッドを召喚。
街へ来てすぐの時、泥棒を捕まえた技だ。
これで攻撃して来た勇者様を拘束する。
前のめりの体勢で固定された。
まだこちらの攻撃は終わっていない。
次は頭上に召喚陣を張る。
「『呪縛払う石像よ、出土せよ』」
カース・トーテム。
普通は魔術封印用の魔像だ。
だが今回の用途は魔術と関係無い。
特殊な素材で作られた魔像だ。
それを頭上へ落下させる。
自分でも中々凶悪と思える技だ。
勇者様相手でも無いと使う予定は無い。
出土と言いながら空中に現れる魔像。
この圧撃にどう答える。
「ブッ壊れろ!!」
そう叫び、勇者様は大剣を振る。
するとカース・トーテムは一撃で消滅した。
やはり厄介な部分は健在か。
「ビビって声も出ねぇか?」
「呆れて物も言えないだけだ」
荒々しく品のない戦闘スタイル。
普通ならあれで魔像は破壊出来ない。
なのに規定ダメージを超えたその理由。
それは、恐らく大剣にある。
勇者様自身は脅威ではない。
だが彼の持つ大剣には謎が多い。
振り回すだけで異常な威力が出る。
この効果で勇者様は生きているようなもの。
まあ、お陰で自らの実力を過大評価しているような面も多々あるのだが。
つまり実体のあるモンスターは若干不利。
カーフトーテムでは歯が立たない。
……それならば。
「『炎精よ、爆ぜよ』」
非常に狭い一室。
だが、少々無理矢理召喚する。
炎の精霊・イフリート。
マキナとの戦闘以来久々の登場だ。
コイツの肉体は全て炎でできている。
「ぐ、っぁあああ!!!!」
獄炎の熱に焼かれる勇者様。
その悲鳴を俺は初めて聞いた。
彼が苦痛に声を上げる時が来るとは。
しかし俺も無事では無い。
巨大な体を無理矢理押し込んだ一室。
そこに俺もいるわけだ。
つまり、非常に熱い。
それを何とかスライムの防壁で守る。
衝撃吸収に召喚したスライムだ。
「クソッッ!!!」
吐き捨てるように勇者様は叫ぶ。
「テメェだけは俺が絶対に殺す!!」
呪詛の混じった言葉と共に、イフリートの攻撃で満身創痍の勇者様はとんでもない行動に出た。
剣を強く握り暴れるように振り回す。
当然イフリートにダメージは行かない。
ゴーレム戦時のように実体を与えていない。
だが、彼の目的は別にあった。
異常な破壊の力を持つ大剣。
それで部屋を……建物を傷つけまくる。
「この建物ごと、ぶっ潰れろ!!」
叫ぶと同時に足元が抜ける。
俺も勇者様も空中へ放り出された。
* * * * * * * * * *
気がつくと俺は瓦礫の中にいた。
幸いにも無傷。
辺りにはスライムが一匹残っていた。
どうやら俺を守ってくれたらしい。
残りはダメージで消滅したか。
イフリートの召喚も切れている。
実体を持たせないとすぐ消滅する。
なので別に特別な事では無い。
勇者様は逃げたのか?
それとも瓦礫の下敷きか?
どちらにしろ周囲に見当たらない。
あの傷で遠くには逃げられないはずだ。
捕縛するために周囲を探す。
そんな時、マキナの声がゴーレムから響いた。
「……リさん! アリさん!」
「何だ?」
マキナが焦った様子で叫んでいる。
どうやら非常事態らしい。
「そっちに勇者様でも行ったか」
「いえ、違うのですが……」
「なら何だ」
その問いかけに彼女は答える。
「ダヌアさんが逃走しました!」





