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暗黒龍、都会へ行く

 

 畑が完成して数日。


 日課の水やり中に手紙が届いた。

 差し出し人の名前には覚えがない。

 仕方なく、役場で問い合わせる。

 するとその場に居合わせた村長が、親切に送り主の素性を教えてくれた。


 "これは、領主様の名前ですよ"と。


「待たせた」

「大丈夫です! どうやって行きますか?」

「空かなーやっぱ」


 手紙の内容はとても簡潔だった。

 会いたいから邸宅に来てくれとの事だ。

 行くのは良いが、日程が問題だった。


 明日ってなんだよ明日って、領地の中心街から一番離れた辺境の農村地帯だそ。

 どれだけ離れてると思っている。


「『翡翠の翼よ、その身を翻せ』」


 生憎、ラナは人間態のままだ。

 無闇に変身を解除するわけにもいかない。


 だから今回は別のモンスターを頼る。

 俺の詠唱に応じ、召喚陣から薄緑色の羽が舞い上がった。


「美味しそうな子ですね……」

「食うなよ!?」

「わ、わかってますよぉ?」


 俺たち二人が乗っても余りある、美しい翼の鳥型モンスター・ガルーダ。

 しかし、野生下ではドラゴンの好物だ。


「西南西だ、よろしく頼む」


 二人で背に乗ると、大きく翼を広げた。

 目指すは中心。遠くから届く明かりでしか存在を確認したことがない、まだ名も知らない領地の心臓部。


 何にせよ、この村に来て初めての遠出だ。

 あまりのんびりしている時間はない。



 * * * * * * * * * *



「意外と早く着きましたね!」

「ああ、ご苦労様ガルーダ」


 陸路だと半日近くかかる計算だったが、やはり空路を選んで正解だったようだ。


 活気ある街に、ラナも瞳を輝かせる。

 人の息遣いを感じる街並みは久々だ。


「ラナは何かしたいことあるか?」

「そうですねー……ん?」


 会話の途中でラナが止まった。

 どうやら何かを感じ取ったらしい。


「アリク様、こちらに向かって走ってくる人がいます。たぶん盗人です」

「え? 見当たらないけど」

「じきに来ますけど、どうしますか?」


 まあ見過ごすわけにはいかない。

 せっかく街にきたのに、犯罪者を見逃すなんて後味の悪い思いはしたくないし。


 さて、どう捕まえようか。

 とりあえず召喚陣を展開しながら考える。


「もうすぐ来ますよ!」

「早いな、ちょっと待て」



 よし、もうテキトーでいいか。


「『まつろわぬ屍よ、生者を捕らえよ』」


 召喚陣を設置し盗人がくるのを待つ。

 詠唱は低級アンデッド用だ。

 唱えはするが、魔力は流さない。

 これにもしっかり理由はある。


 やがてラナの言っていた盗人らしい大男が、こちらに向かって走ってきた。


「『起動』」


 盗人が地面の魔法陣を踏んだ瞬間、無数の朽ちた手が彼の足を拘束する。


 要はトラップである。

 召喚術は使役だけではない。

 こんな使用法もあるという一例だ。


「お前が言ってた盗人ってこいつか?」

「間違いないです。すぐに追っ手もこちらへ来ます」


 彼女の言葉通りに、彼を追っていたであろう憲兵らしき人々が集まってくる。

 これはもう予知だな。


 しかしその量が異常に多い。

 明らかに一人の盗人を追う人数ではない。

 そんなヤバいものでも盗んだか?


「貴様、何者だ」

「通りすがりの召喚術師です」


 手を叩いて召喚を解除する。


 地面から伸びた腕に拘束されていた男は、そのまま憲兵のお縄にかけられた。


「この腕も貴様が?」

「はい」

「……ご協力感謝する」


 高圧的な態度を解き、憲兵は頭を下げる。

 厳つい容姿だが優しさに溢れている。


「君、名前は」

「アリク・エルです。こっちはお供のラナ」

「ん? アリクと言ったか??」


 名前を聞き、憲兵は何かを思い出したようだ。


「シーシャお嬢様が招待した者と同名だ」

「シーシャ……あー、俺その人からお手紙もらってここに来ました」


 シーシャ・バックス。

 手紙に記されていた送り主の名前だ。


 この領地はバックス領という名前らしい。

 地図では名前が見切れてしまっていた。

 その為、地名を知ったのは最近だ。


「大変失礼致した。良ければ屋敷まで案内しよう」

「それは助かります……ですが」


 彼の厚意はありがたい。

 だが俺たちは、ここに来てすぐにやりたい事を決めていた。


「先に買い物をしても良いですか?」

「か、構わんが?」

「よしラナ。好きなもの持ってこい」

「わっかりました!」


 早く買い物を済ませて憲兵に同行しよう。

 あ、ついでに質問もしとくか。


「憲兵さん、この街の名物は?」

「は!? えーっと、パンが美味い!」

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