最強召喚術師は勇者パーティの予知夢を見る(断言)
「イゴウがやられたか」
俺は今、恐らく夢を見ている。
しかもタイプで言えば悪夢。
俺からすれば最悪の夢だ。
場所は生い茂った森林のキャンプ。
俺も見た事のある光景だ。
森林地帯の割に害獣も虫も少ない地帯。
確かに身を隠すには良い場所だ。
「雑魚共が無駄死にしやがって」
「自由にさせたのは勇者様だろうに」
「そう言うお前は何故出ない?」
「射手とは好機を待つ者」
話しているのは勇者様とホノン。
相変わらず荒々しい口調。
しかし妙に理知的な言葉遣い。
実際には余り賢いわけではない。
だが、言葉遣いで相手を掌握する。
自身を上に、他者を下に。
そうやって自らの支持者を増やす。
かつては俺もそうだった。
ネムやメイサもその被害者に含まれる。
イゴウやダヌアには余り効果が無かった。
ホノンは……どうだろう。
元々押しに弱い感じがする。
「貴方はそれで後悔しない?」
話を聞き、勇者様の背から少女が現れた。
そんな、まさか……。
…………誰だ?
名前も顔も見た事が無い。
俺の存じ上げない謎の少女。
夢は夢、現実とは違うという事か。
俺の知る勇者パーティに彼女はいなかった。
「好機が来なかったらどうするの?」
優しい口調でホノンに問いかける。
しかし瞳に宿った生気は薄い。
粟色の髪、年齢は擬態したラナの姿に近い。
まだ幼さの残る少女である。
やはりその姿に記憶は一切無い。
パーティにいるという事は役職持ちか?
服装は魔術師のそれに似ている。
だが魔術を使う者は大体同じ服装になる。
普通は黒や灰色だが彼女は白が基調だ。
……差し色は違うが、俺とお揃いか。
「石ころ風情に託す願いなど無い」
「長生きしたいでもいいんだよ?」
「……無用だ」
ホノンの堅物も変わらないようだ。
石ころとは白濁の宝石か。
では託す願いというのは何だ。
確かにネムはダヌアの復活を願っていた。
だが、ダヌアとイゴウはどうだったか。
願いの話を聞いていない気がする。
ダヌアに一度尋問をするべきか。
……でも確証が夢の内容だからなぁ。
「貴様等! 何を!?」
「無駄に長生きするなら夢叶えて死ね」
「シズマはどうすればいいか?」
何やら勇者様がホノンと肩を組む。
……そういえば、彼女は勇者様の『お気に入り』だったな。
そのお気に入りに"死ね"とは。
相変わらずの男だ。
そして自らをシズマと呼ぶ少女。
彼女の名前という事か。
うーん、やはり覚えがない。
「丁度良い——お前のお披露目もすっか」
「ブライの思うままに」
分かる事は1つ。
どうやら彼女も掌握されているようだ。
* * * * * * * * * *
寝苦しい。
何かこう、むわっとする。
布団を蹴飛ばし勢いよく起き上がる。
「げ、起きた!」
「あらあらぁ」
2人の声がベッド脇から聞こえる。
横を見るが、ラナの姿は無い。
というか太陽がだいぶ昇っている。
いけない、自由とはいえ寝すぎたか。
だがまずはこの二人に説教だ。
「……ダヌアがやるのはまだ分かる」
「正しい評価ねぇ」
「でもリッカは何でだ」
「ふ、ふふん、えっとね」
必死に言い訳を考えるリッカ。
考えるなら素直に言え。
どうせダヌアに唆されたのだろう。
身動きが取れず、攻撃もできないダヌア。
やはり俺への恨みはあるらしい。
だが彼女自身は何もできない。
そこに、最近悪戯にハマったリッカだ。
「悪気は無かったの! 本当に!」
「1週間飯当番お前な」
「マジで言ってらっしゃる!?」
敵だぞソイツ、罰も当然だ。
なぁに、お前の料理は美味い。
それに作る量も何て事ないだろう?
俺にラナにアビスにお前。
マキナと金銀姉妹、ホブゴブリン達。
あと一応ダヌア。
ほら、たった10人前だ。
彼女の落胆を見たところで話題を移す。
「なあダヌア」
「何かしらぁ?」
「少し質問だ」
折角彼女がいるのだ。
色々聞きたいが、まずは一番の謎。
勇者様の背後にいた少女についてだ。
「シズマって、誰だ?」
「……あらぁ」
やはり何か知っているようだ。
ニタリと笑い、こちらを見つめる。
早く教えろと俺は催促する。
「言ってしまえばアリクの代わりよぉ?」
「召喚術師という事か」
「そういう事になるわねぇ」
俺の代わりになる召喚術師か。
パーティでは余り強さを求められなかった。
なら最強なんて雇うなと今なら言いたい。
彼らの目的は経験値稼ぎだった。
他にも何かあるかもだが、俺は知らない。
召喚術師で白装束とか。
ますます俺とキャラがかぶる。
何故今更召喚術師を雇ったのか。
再びダヌアに問いかけた。
「私を味方と勘違いしてなぁい?」
……そうだったな。俺も忘れていた。





