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サモナー・ミステリー・レポート 〜魔法少女と勇者の野望〜

 

 数日後、俺はシーシャの邸宅にいた。

 右腕は包帯で巻かれ首から下げている。

 ここまで大袈裟な問題ではない。

 が、一応の処置らしい。


 魔力も戻り、召喚術も使える。

 何なら肉体に呪術の抗体ができた。

 もう今後は呪術に遅れを取る事もない。


「アリク、今回もお疲れ様」

「ああ」

「今回は『特に』ね」

「本当ですよ! お給料弾んで下さい!」


 隣でラナが騒いでいる。

 事件が終わって数日はここにいた。

 アビスとリッカには留守番を頼んでいる。


 と言うのにも理由がある。

 まずは事後処理と対策についてだ。

 呪術を用いて行われたテロ行為。

 これはバックス領だけではなく、大陸全土に報じられる事件となった。


 当然各領地も危機感を覚える。

 要はそれの沈静化に駆り出されていた。

 各領地のお偉いさんは中々の迫力だ。

 アレとシーシャは渡り合ってるんだよな。


 そして、理由はもう一つ。


「あなたに会わせたい人間がいるの」


 シーシャはそう言ってある人物を呼ぶ。


「メリッサ、入って来なさい」

「わかったよ」


 メリッサと呼ばれた女性が入ってくる。

 鉛色の髪が揺れる。

 俺とそこまで変わらない身長の女性。

 腕には小さな盾が備えられている。


 服装は女性用の給仕服。

 白いレースがひらひらと揺れている。

 中々似合うじゃないか、メイサ(・・・)


「メリッサ・バックス。私の給仕兼養子よ」

「よ、養子?」

「年上の養子がいて悪いかしら?」


 おかしくは無い。バックス領の法的にも。

 だが給仕だけではなく養子にするとは。

 何かの保険か、それとも世話焼きか。



 戦闘後、メイサは生死の淵を彷徨った。

 正直助かる見込みはなかった。

 泥で体の内外を丁寧に破壊たのだ。

 特に魔力の流れは完全に崩壊していた。


 それでも彼女はこうして立っている。

 だが、もう過去を問い詰める事はできない。


「お初にお目にかかるね、アリク君」


 確かに彼女はここにいる。

 だが、メイサ・バカルディアは死んだ。

 彼女は"メイサ"の記憶を失ったのだ。

 かつての彼女はもう帰ってこない。


 それは敗北と捉えるべきか。

 それとも勝ち逃げと捉えるか。


「エル君、でいいかな?」

「好きにしろ」


 しかしどうにもメイサが残っている。

 性格や言動、口調なんかもそうだ。


 そして何より腕の盾。

 以前と比べて随分と小さくなった。

 だが、どうやら気に入っているらしい。

 守りへの依存も変わらない訳か。


「おかげで私が男っぽい少女好きという噂が立ち始めたわ……」

「マキナもそういう系だもんな」

「困ったものよ」


 マキナに比べ、容姿は女の子らしい。

 だが一般的にはかなりボーイッシュだ。

 確かに噂されてもおかしくない。


 両方ともクール属性だしな。

 シーシャも属性はクールだが。



「で、そこにいる簀巻き女は」

「いつの間に来たのかしら」

「本当ねぇ」

「いや、あなたよあなた」


 さて、最後の問題だ。

 正直個人的には一番の問題である。


 ネムが命を懸けて復活させた女。

 魔術師ダヌア・マヒート。

 シーシャからすれば命を狙われた相手。


 今でこそ腕を灰色の謎物体で体ごと固定されているが、いつ妙な行動を起こしてもおかしくない。


「三日間も尋問してくれたわぁ」

「情報提供、感謝するわ」


 やはりシーシャも懸念があるようだ。

 というか仲良くなれる気配がない。

 言わばこの2人はは水と油。

 相容れるには時間がかかりそうだ。


 それでも情報提供は事実らしい。

 果たして信じるに足るかは不明だが。


「次に動くのはホノンって人物らしいわ」

「あなたには分かるわよねぇ」

「……ホノン・ソルドック」


 勇者パーティの射手。

 最も影が薄く、最も謎に包まれた人物。

 俺もあまり会話をした事がない。

 話していたのはダヌアと勇者様くらいか。


 ネムやイゴウのような残虐性は無い。

 ダヌアのような危険も感じない。

 そんな彼女が動くのか。


 少し不思議な気分ではある。


「何でアイツなんだ?」

「……あの子、後が無いのよねぇ」


 ダヌアの言葉に、少し引っかかった。

 後が無いとはどういう事だろう。

 何か失敗でもしたのだろうか。

 パーティを追い出される寸前とか?



 真偽はともかくダヌアの情報はわかった。

 さて、ここからが本題だ。


 大事件の渦中にいる危険人物。

 だが暴れる事無く投降し、拘束された。

 そんな彼女の処遇である。


 当然だが無罪放免の訳がない。

 投獄が妥当だが、利用価値も危険度も高い。

 一権力が握るには手に余る存在だ。

 果たして、どんな判断を取るのか——。


「ダヌアはアリクが監視して欲しいの」


 おかしい、耳でも悪くなったか。

 それともシーシャの頭が悪くなったか。

 俺が監視するとか聞こえたのだが。


 冗談かとその瞳を見る。

 いつもながら真っ直ぐな瞳だ。

 嘘を言っている人間の顔では無い。

 本気なのかシーシャ。


「私は何でもいいわよぉ?」


 そりゃ監獄よりはマシだろうな。

 でもお前と俺って相当仲悪いじゃん。

 人としての相性も最悪だし。

 ここは組んで互いに利のある状況をだな。


「拘束具はマキナの特注品。装着されている以上、一切の魔力を使えない」

「とんでもない代物よねぇ」

「だから安全面は完璧よ」


 簀巻きにするように固定された黒い布。

 これによりダヌアは実質足しか使えない。

 腕を上げる事すらできない。


 確かに安全面は申し分ない。

 魔術無しの彼女など少しうるさい程度だ。


 でもまたあの村に荷物が増えるのか。

 正直これ以上危険因子を増やしたくない。

 ただでさえ迷惑をかけて住んでいる。

 それにラナも露骨に嫌そうな表情だ。


「別に同居しろという訳ではないわ」

「なら大丈夫です!」

「何で!?」


 本当に何故かよくわからない。

 ラナよ、どうして大丈夫なんだ。

 さっきまで嫌そうだったじゃないか。


 しかし、話はかなり進んでしまった。

 最早俺が管理するのは確定らしい。

 元敵対者で一番苦手な人物の監視。

 ……今までで最も嫌な仕事だ。


「妙な動き見せたら暗黒龍の餌だからな」


 ネムが残した置き土産。

 ダヌアの復活と、ホノンの活動開始。

 まだおちおち休む暇は無いようだ。


 そして遠のく初期のスローライフ計画。

 ……畜産に挑戦したいんだけどなぁ。

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