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最強守護者と鉄壁の理由

前話、ちょっと多めに改稿しました!

 

「これは、何だい……?」


 メイサが腕の中で声を上げる。

 最強の守護を誇る彼女の防御力。

 それを崩した先にある、彼女の苦痛。


 一体この泥は何だ。

 どうして触れるだけで苦しむ。


 その問いに、立ち上がったイゴウが答える。


「拷問呪術が篭った泥、テメェら用だ」

「随分と丁重な扱いだな」」

「魔術封じを基にして作ったらしーぜ?」


 泥を指に絡ませるイゴウ。

 どうやら彼女にはダメージが無いらしい。

 魔術封じ、サレイの矢に宿った呪術か。


 この泥は生ある者にのみ付着する。

 触れた者に多様な苦痛を与えるという。

 肉体面、精神面は問わない。

 触れた量で苦痛を何倍にもできる。


 全ては恐怖と絶望を増幅させるため。

 腕を失ってもただでは転ばないか。


「ぐっ、ぁぁあ!!」

「テメェの苦しむ顔が拝めて良かった」


 メイサの体に触れて理解した。

 不純物が魔力に乗って体を流れている。

 しかも相当に穢れた魔力の塊。

 予想される苦痛は想像を絶する。


 男の肉体に縫い付けられていた物体に構成は似ている。

 この泥が正体という事か。


「アリク、テメェも喰らえや」


 指に纏わせた泥を飛ばす。

 俺はメイサを抱えたままだ。

 これでは彼女が再び被弾してしまう。


 体を丸め彼女を守る。

 盾では防げなくても、体でなら守れる。


『アリク様!』

『あぶねぇ!!』


 俺はメイサを庇い、金銀姉妹は俺達を庇う。

 考える事は同じだったらしい。

 声一つ上げず彼女達は消滅した。


 助かったが、二人は大丈夫か?


「く……っ!」


 ……妙だ。

 右手に痛みが湧き上がる。

 痛みは耐え難い激痛へと変わっていく。

 俺は泥に触れてない。


「召喚術へ過敏に反応するらしいぜェ?」

「な、に……!?」

「まあテメェの大好きなモンスターちゃん達にはダメージ残らねーから、感謝しろし?」


 何ともネムらしい。

 俺を苦しめる為の調整か。


 少々体勢を崩す。

 それを狙っていたような泥での狙撃。

 前二回とは違い、確実に仕留める弾幕。


 決死の戦闘を覚悟した瞬間だった。


「させない、よっ!」


 俺の懐からメイサが消えていた。

 そして目の前に立ちはだかる最強の盾使い。

 全ての泥を受け止めたのだ。


「ぎ、ぃっ……!!」


 当然先程より大きな苦痛が走る。

 普通なら即死レベルのダメージのはずだ。

 俺でも立っていられるかどうか。


 しかし彼女は立っていた。

 唇を噛み、血を滴らせながら。


「さっきから何のつもりだァ?」

「守っているのさ、守りたいものを」

「ハハ、アッハハハ!!!」


 高笑いをするイゴウ。

 それに微笑みで返すメイサ。

 異様な光景だ。


 だが、その光景を瞳に焼き付ける。

 ダヌアが散ったあの時のように。


 心の何処かで悟っていたのだ。

 メイサは、もう持たない。


「守りたいものって、テメェだろォ?」

「…………」

「テメェは保身で仲間を売ったんだよォ!」

「……ああ、そうだ」



 守りたいものは自分自身。


 そうだ、確かにその通りだ。

 盾という己の在り方を表す装備。

 彼女は「守り」に依存していたのだ。


 守るのは全て自分の為。

 自分の周囲にある全てを失わない為。


「だから彼を見捨てた事を後悔したんだ」

「——あァ?」


 笑みを浮かべたまま、彼女は語る。


「君を見捨てて後悔して、今度は彼らを裏切った。都合のいい考えだろう?」

「お前……!」

「本当に自分は、バカな女だ」


 苦痛が顔を歪めたのか。

 それとも自分の意思なのか。

 彼女は終始笑顔だ。


「これは、贖罪なんだ」


 それは嘘だ。

 俺もお前の周囲に組み込まれていた。

 それが自らの保身の為に失われた。


 彼女は何も得ようとしない。

 だが失ったものを取り戻そうとした。

 欲が自身を破滅させた。

 それだけだ。


「後は任せたよ、エル君——」

「……おう」


 そう言って、彼女は倒れた。


 果たして何を任されたのか。

 メイサから何を託されたのか。

 意味不明なまま肯定してしまった。


「苦痛で召喚術も使えないかァ?」


 目の前にもう一人バカがいる。

 ダヌアやネム、メイサに比べ小物すぎる。


 ああ、確かに頭がボーッとするな。

 これでは召喚術も使えないかも知れない。

 そういう事にしておこう。

 俺にも都合がいい(・・・・・)


 となると肉弾戦しかないか。

 イゴウ曰くモヤシの俺が、その格闘家に。

 そんな奴相手に肉弾戦で勝つ方法は?


 あるじゃないか。


「残念ながら、お前とは違うんだ」

「なっ!?」


 お前と違って単調な戦闘はしない。

 痛む右腕で思い切り彼女を殴る。


 恐らく通常ならメイサ以下の威力だろう。

 だが今はイゴウが派手に転がっていく。

 上々じゃないか、良い発想だった。


「テメェその腕!」

「召喚するにはコンディションが悪い」

「質問に答えろォ!!」

「だから生成したんだよ」


 右手の痛みが引いていく。

 やはりこいつは便利だ。

 ギプスにも武器の代わりにもなる。


「お前を殴り飛ばせるゴーレムの腕(・・・・・・)をな」


 お守り代わりにマキナから貰った小瓶。

 彼女のおかげで使用感は覚えている。

 まるで普段の腕と同じように動く。


 俺の体ほどに巨大な砂の腕。

 小瓶からこれだけの物ができるとは。

 召喚術と違って廃れないわけだ。

 負けてられないな、こっちも。


「メイサはテメェを裏切ったんだぞ!」

「そんなの承知の上」


 右腕を大雑把に振り回して攻撃する。

 それでもイゴウには十分驚異的だろう。


「だがそれ以上に許せなくてな」


 今までにない怒りがこみ上げている。

 なのに、どうも思考がクリアだ。

 スッと冷めたような感覚。


 俺が許せない存在。

 平気な顔で罪なき人を傷つけ。

 人の弱さを攻撃し食い潰す。

 それを高みから見下ろして嘲笑する者。


 つまり。


「お前みたいな奴らが——!」

「ぐ、ハッッ!!?」


 砂の拳を叩きつける。

 回避も防御もできないダメージ量。

 だが、まだ意識がある。


「ハッ……ハッ……」

「お前らだけは、俺の手でぶん殴る」

「ハッ…………!?」

「そうでないと気が済まない」


 倒れたイゴウに拳を振り下ろす。

 地面と砂の拳にサンドされた彼女。

 これで皆の苦痛は返せただろうか。


 気絶したイゴウに、聞く方法は無かった。

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