元パーティ仲間と欲望の盾
倉庫の外へとメイサを連れ出す。
敵を一掃した事もあり平和そのものだ。
俺も休みたいけどこちらが先決。
解決しない限り、ゆっくりは休めない。
メイサ・バカルディアという女の本懐。
何故勇者から離れたのか。
どうして俺たちに協力するのか。
目的や動向、何もかもかわからない。
再会時に装備が貧相になっていた理由も。
だから今、全てを問いただす。
彼女を"敵ではない"と受け入れるために。
「他にも女の子がいるのに逢い引きかい?」
「そんなのじゃない」
相変わらず掴みどころのない性格。
しかし、もう思い通りには行かない。
今回は状況が状況なのだ。
相手は勇者パーティでも危険な二人。
その上で最強の盾使いもいる。
もし3対1になれば、場面次第で苦戦する。
大勢の命がかかっているのだ。
何かあったら、今すぐにでも敵対する。
「お前の目的は何だ」
「守る以外に何があると思う?」
「誰を守ろうとしている」
「恥ずかしくて言えないなあ」
クソ、この状況でもそんな態度か。
お前の精神力は鋼鉄製なのか。
仕方ない、なら話題を変えよう。
「何故、勇者様達は俺を追放した?」
「言っていたろう? 使えないからだよ」
「俺は……結構貢献したつもりなのだが」
コイツも俺を追放した一人だ。
他の奴らは俺に罵詈雑言を浴びせた。
だが、彼女はそれすらなかった
「——違うんだ」
あの時、メイサは俺を無視した。
そこに誰もいないかのように。
「ブライの言葉には真意がある」
「つまりあの時から何か企んでいたのか?」
「恐らくだけどね」
そんな彼女を、再び信頼できるのか。
いつの間にか俺の疑惑は変化していた。
外側から内側へ。
自分に対する疑心へと変わっていた。
メイサの言葉を信じるのは簡単だ。
俺が受け入れればいい。
ただそれだけの事なのだ。
何なら少々辻褄も合う。
何もないタイミングで俺を追放した。
しかしあの時点で企んでいたなら。
思い出の島だ、俺は止めていただろう。
そう考えれば俺は確かに使えない。
いや、邪魔だな。
「自分には、守りたいものがある……いや、何かを守りたいとしか考えた事が無いんだ」
不意に、彼女は自らを語り始めた。
メイサにしては珍しい。
細かい事を考えはするよ。
彼女はそう付け加えた。
だが全ては守るという命題に帰結する。
彼女はそういう、度し難い存在だ。
「自分はネムと同じだ」
「そんなわけあるか」
「君にはわからないだろうけど」
その言葉が、俺とメイサの心の距離を如実に表しているように思えた。
「ネムや自分はそんなに欲が無い」
「…………」
「だからかな? ダヌアが羨ましいのは」
「強欲だったからな、あいつは」
ネムがダヌアに固執する理由がわかった。
無欲な者からすれば憧れるだろう。
ある意味、無欲故の欲望か。
パーティにいた時は、俺もそうだった。
いまいち自分の欲望を理解できない。
ただ勇者様の命令通りに動く。
そんな状況下に置かれていたのだ。
それが、解放された今はどうだ?
畑を耕し、気の合う仲間と談笑する。
今、俺の欲は満たされている。
「だからこそ、自分の欲を守りたいんだ」
「誰かを守りたいって欲か?」
「その通り。わかってるじゃないか」
彼女も欲望を満たしたいのだろう。
守る対象はわからない。
でも今は、彼女がどうしたいかわかる。
にも関わらず、彼女は丁寧に話を繋げる。
俺が理解しているのを知らないように。
「約束しよう。破ったら殺してもいい」
物騒な言葉と共に、そのまま続けた。
「自分は、絶対に君達を裏切らない」
* * * * * * * * * *
「作戦は言った通りよ」
まずは人質の救助。
安全が確保されるまで戦闘は後回し。
安全確保の後、改めてネム達と戦闘する。
十中八九、ネム達は妨害してくるだろう。
その妨害は俺とメイサで食い止める。
つまり村人達の保護は、ラナ達と外で待機するシーシャ達の兵団に任された。
要所でマキナも戦闘に加わる。
どうやら秘密兵器があるらしい。
……結局お守りは使わなかったな。
「そっちは任せたぞ」
「当然よ。私を誰と思っているのかしら?」
「俺の有能な上司、だろ?」
「及第点ね」
結構褒めたのに及第点か。
態度が尊大なのは前の上司と変わらんな。
まあ中身は全然違うのだが。
良い上司の下に来ることができたよ。
「村人の安全が最優先だ」
「はい!」「——了解」「オッケー!!」
ラナ達は皆個性的に返事する。
対してメイサはただ一度だけ頷く。
ゴーレム越しにマキナの呼吸が聞こえた。
「では、作戦開始です」





