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黒幕僧侶と屍人の腕

 

「また私の邪魔ですか〜」


 余裕たっぷりの笑顔でネムが口を開く。

 黒幕が板について来た。

 まるで狙ったかのような登場だ。

 俺達を観察していたのだろうか。


 1ヶ月、何もしなかった訳ではないらしい。

 ネムは逃走の際に腕を切り落とした。

 しかし今の彼女は五体満足である。


 義手か、それとも移植したか。


「村の人はどうしたのですか!?」

「その姿、随分と醜いですね〜」

「答えてください!!」


 挑発のようにラナの姿を茶化す。

 心理を逆撫でるのが上手い。

 ラナの思考はネムに支配されかけている。


 それを抑えるため、彼女を制止する。

 策もなく挑発するはずがない。


「まだ生きてんじゃねーの?」

「数名は残念ながら〜」

「そりゃ仕方ねーし、死ぬほうが悪い」

「頑丈なら生存できたのに〜」

「だよな!」


 相変わらず倫理観が欠如している。

 抑えの効かない狂犬、イゴウ。

 手段を選ばなくなった策士、ネム。


 ある意味最悪の組み合わせだ。


「何故、あんな惨たらしい事をする」

「ひと月の研究成果ですよ〜」


 やはり、取り逃がすべきではなかったか。

 憲兵さんに突き出しておけば良かった。


 腕の切断という予想外の行動。

 それにより彼女の逃走を許したのだ。

 結果、この惨状がある。


「呪術の生贄って血生臭いですよね〜」

「……そう、だな」

「生き埋めにしたり腹を裂いたり〜」

「随分と具体的だな」

「何故か、わかります?」


 わからない。

 わかりたくもない。

 だが、知らなければ解決には繋がらない。

 生唾を飲み下し、黙ってその理由を聞く。


「力をより多く収集できるからです〜」

「どういう事だ?」

「恐怖の感情を増幅させる事で、呪術に必要な力の回収量が格段に飛躍するのです〜!!」



 世紀の大発見をしたかのような反応だ。

 しかし、その内容は余りに陰惨。


 あの男ですら変わり果てていたのだ。

 その理由が恐怖の増幅。

 どれ程おぞましい目にあった?

 死亡した人々は、あれ以上の仕打ちを?


 考えるだけで虫唾が走る。

 怒りが心の底から湧き上がる。

 抑えろ。ネムに感情を見せてはいけない。


「この村一つ潰せば完了なのですよ〜」

「それでこんな事をしているのですか!?」

「人道的でしょ〜?」


 人道的? この惨状が?

 ……ふざけるな、どこが人道的だ。


 お前の憧れるダヌアは、まだマシだった。

 まだ他者の命を尊重していた。

 だから人命被害が少なかったんだ。

 それに比べ、お前はどうだ。


「今は些か分が悪いですね〜」

「分が悪い? どーゆー意味だ?」

「こっちが押されてるって意味ですよ〜」

「それならそー言えし!」


 本当ならば逃すわけにはいかない。

 だが今回は様子を見る。


 男のように、恐らくまだ生き残りがいる。

 居場所を知るのはネムとイゴウの2人。

 まずはその場所を暴く事が先だ。


 イゴウを抱え、片腕を上げる。

 切断されたほうの腕だ。

 俺はその腕に愕然とした。


「お前、その腕——!」

「気づきましたか〜?」


 血色の悪い肌色。

 薄紫の少し洒落たネイル。

 ネムと違い、細く長く伸びた指。


「ダヌアさんの腕です〜!」


 ダヌアの特徴と一致していた。

 飾ったネイルの色まで完璧に一緒だ。

 だが、彼女の体はまるまる食われている。

 腕なんて残っているはずがない。


 ならば、どこで手に入れた。

 蘇生魔術の副産物か?

 あそこまで精巧に作り上げられるのか?


「ではまた〜!」


 真相を聞けぬまま、彼女達は姿を消した。



 * * * * * * * * * *



「報告は以上だ、マキナ(・・・)

「お疲れ様です」


 辺りの敵をキマイラで掃討し、帰還した。

 当然ラナの姿は元に戻っている。


「彼はこちらで保護したわ」

「わざわざありがとう」

「お礼でしたら言う相手が違いますよ」

「回路を繋いだリッカを褒めなさい」

「ちょっ、そう言うのいいから!」


 アビス達も行動を起こしていたようだ。


 おかげでマキナ達と連絡ができる。

 その上、保護した男を村の外へと脱出させた。彼は待機していた憲兵に引き渡されたようだ。


 おかげでシーシャの指示を仰げる。

 何より前回以上の人質の数だ。

 死人も出ている。

 あまり長引かせるわけにはいかない。


「僧侶達の潜伏先はわかったかしら?」

「今はカラスで探っている」

「了解です。続報がありましたら」

「ああ、報告する」


 状況によっては強行突入もあり得る話だ。

 村の周囲に続々と兵が集められている。

 人質の保護が確認でき次第だが。


 こちらも侵入している事がバレている。

 バレたからには温存する必要もない。

 数羽のカラスを使い、村人を探す。

 ある程度の当たりはついた。


 村人の保護は俺達に任されている。

 恐らくネム達との激突は避けられない。


「可能な限り支援するわ」

「ありがとう」


 その為にも今は準備を整える。

 村人の場所が判明次第、そこへ向かう。

 疲労の回復はあまり望めない。

 それでも休まないよりはマシだ。


「自分は外でも見張ろうか」

「そうだな、俺も付き合おう」

「エル君は休んだほうが」


 そう、休む前にやる事があった。


「メイサ、話がある」

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