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極悪格闘家と最古の蘇生儀式

 

「『合成されし幻獣よ、暴れ狂え』」

「焼いても焼いても減りません!」


 キマイラを駆り、眼前の敵をなぎ倒す。

 ラナは火炎放射と怪力で無双する。

 それでもアンデッドの数は減らない。


 一体どれだけ用意したんだ。

 どこから集めてきたんだ。

 俺ですらやっと2000集めたというのに。

 この数は明らかに"万"を超えている。


「でもこれ、前にも覚えがあります!」

「山での事件だな」

「流用したということでしょうか?」

「恐らくそうだろうな」


 しかし前回と今回は危険性の意味が違う。

 前回は過剰に増殖した獣が起こす獣害。

 ある程度は自然が関わっている。


 比べて、今回はほぼ人の手によるものだ。

 アンデッドは本来自然には存在しない。

 呪術で作られたモンスターだからだ。

 だが意図して生まれたわけではない。


 言わば、アンデッドは副産物。

 その副産物がこれだけ存在する。

 元からいた者ではこんなに集まらない。

 数年かけて野良アンデッドを集め続けた俺だからわかる、これは何者かがわざと量産したものだ。


 恐らくは何らかの実験。

 魂を完全蘇生するような実験だろう。


 つまり、犯人はアイツだ。


「人影が見えます!」

「よし、このまま突っ込むぞ」

「はい!」


 ラナの言う通り、目の前に人影がある。

 先程の男とは明らかに様子が違う。

 恐らくは、このアンデット達の主だ。


 少しずつ見えてくるその実体。

 高い身長とボサボサの髪。

 褐色で割れた腹筋。

 鋭くギラついた目の女。


 違う、ネムではない。彼女は——。


「久しぶりだな! モヤシ男ォ!」


 イゴウ・モルツ。

 勇者パーティの格闘家である。


「イゴウ、なぜお前がここにいる」

「ネムと一緒に来ただけだし」

「ネムもいるのか?」

「アタシが魔術を使うわけねーし?」


 胸を張って言うような事じゃない。

 が、確かにその通りだ。

 イゴウは魔術の類を一切使えない。

 何ならその区別すらついていない。


 今もこの呪術を魔術と勘違いしている。

 まあ広義で言えば同じなのだろうが。


「コイツ等と暴れろって頼まれたからなァ」

「村の人もあなたが消したのですか!?」


 いや、それは無いはずだ。

 あったとしても確実に黒幕がいる。

 イゴウにそんな事を考える思考は無い。


 だが今の言葉が彼女の逆鱗に触れた。

 いや、ラナ自身にだろうか。

 ともかくイゴウの顔に苛立ちが浮かぶ。

 彼女の怒りはいつも理不尽だ。


「っせーガキだな、死ね」


 そう言ってイゴウは腕を振り下ろす。

 指示に従い、アンデッド達が襲いかかる。

 しかしラナには一切歯が立たない。


 燃やされ、焦がされ、潰される。

 明らかに少女の見た目とかけ離れた力。


 周囲に俺以外の人間はいない。

 それに今回は正体がバレる危険性も低い。

 珍しく存分に暴れ回れる戦場だ。

 小さな体に、暗黒龍の力を宿して。


「オイオイオイ随分強ェじゃねーか!」

「当然です!」

「んじゃ……アタシが出るしかねーなァ!」


 高みの見物を決め込んでいたイゴウ。

 だが、遂に彼女も動いた。


 不意に真上からラナへと飛びかかる。

 ラナもガードするが、そこは格闘家。

 腐っても人間離れした攻撃力だ。

 ガードの上から殴りつける。


 俺はアンデッドの処理で手一杯だ。

 既に複数のモンスターを指揮している。

 イゴウはラナに任せるしか無い。


「ハッハァ! どうしたクソガキィ!」

「ラナ!」


 攻撃のラッシュに耐えるラナ。

 大したダメージにはなっていない。

 だが、一向に攻めへと転じない。


 彼女は待っているのだ。

 攻めへ転じる、そのタイミングを。


「私も、本気を出します!」


 一瞬、攻撃が止む。

 同時に彼女は体内の魔力を爆発させた。

 吹き飛ばされるイゴウ。

 ラナの全身が、光に包まれる。


 今までは龍へ姿を戻すだけだった。

 だが、今は違う。


「ンだその翼はよォ!?」

「本気を出すと言いましたから!」


 頭部から生えた鋭い角。

 巨大な漆黒の翼。

 腰から伸びる太く長い龍の尾。

 靴ごと変化した足の鉤爪。


 今のラナは龍ではない。

 しかし、人間ともかけ離れた存在。

 戦闘用の新たな姿だ。


 ラナ曰く『龍人態(ドラグーン)』。

 いかにも彼女らしい命名センスだ。


「行きます!!」


 ここから一気に形勢は逆転する。

 暗黒龍の力を全て引き出せる訳ではない。

 それでも攻撃は人智を逸した破壊力だ。

 イゴウのガードを上から弾く。

 意趣返しめいた攻撃も当然可能だ。


 速さも段違いに進化している。

 目で追うのがやっとの速度。

 そこから繰り出される強烈な一撃。


 生半可な守りでは意識を刈り取られる。

 イゴウも理解しているようだ。


「ぐっ、マズいな……」

「もう1発参りますよ!」


 宣言通りに飛び蹴りを見舞う。

 鋭い爪を向けた飛び蹴り。


 加減はしているが、必殺の威力だ。

 生身の肉体ではいくら防いでも無意味。

 勝負あった。


 ——かに思えた。


「全く危ないじゃないですかぁ〜!」


 周囲のアンデッドで防壁を築く。

 それにより、ラナの攻撃は防がれた。

 代わりにアンデッド達の肉片が弾ける。


 この悪趣味さ。この隙の無さ。

 脳が判断するよりも早く理解する。


 ネム・カーラ。黒幕のお出ましだ。

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