"急募"畑から出てきた激レア素材の使いかた
オリハルコン。
冒険者ならば誰しもが欲しがる最強素材。
『世界最硬』と謳われる鉱物である。
「何でオリハルコンが畑に……」
俺の思った事をラナは代弁してくれた。
整地作業が終わり、耕している時のこと。
カツンと硬いものがクワに当たった。
拾ってみるとそれは鉱石。
鑑定能力を持つモンスターに見せてみたらオリハルコンだという。正直信じられない。
「アリク様、これどうします?」
確かにこれは最強素材だ。
だが実のところ俺は別に必要ない。
「お前の鱗のほうが硬いもんな」
「はい、伸縮性もありますし」
ここにオリハルコンより強力な素材をポロポロ落とす奴がいるからだ。
ただし、この素材は俺しか知らない。
暗黒龍と俺だけの秘密である。
「売るか……? でも勿体無いなぁ」
正直いらない。
これを使わない最強装備が手元にある。
「貧乏性ですよ、使わないじゃないですか」
「いつか使うかも知れないだろ」
「そう言って私の鱗で作った装備も使ってませんよね?」
「あれはほら、汚したくないから」
その素材を使った装備すら未着用なのだ。
こんな俺がオリハルコンを使う日なんて絶対来ないのはわかっている。
が、手放せない。
「何が問題って、村じゃ売れない事だな」
「この村、道具屋さんありませんからねぇ」
これこそ村唯一の問題点だろう。
消耗品を買い足そうにも道具屋が無い。
肉屋じゃ鉱石は売れないしなぁ。
元旅人だが、旅には不便な村だ。
永住する事になったら道具屋を開こう。
「中心街まで売りに行きますか」
「その途中で何人の盗賊と出くわす?」
「あっ……」
没だな。手間がかかりすぎる。
「じゃあ、モンスター片っ端から召喚して、いるって方に渡すとか!」
「前に欲しがってた金銀姉妹はもう入手済」
「あっ…………」
鉱石を欲しがるモンスターの方が貴重だ。
「村の人に渡すか」
「そうしますか」
* * * * * * * * * *
「まさか誰一人受け取ろうとしないとは」
「謙虚な方とご老人、そもそも冒険者じゃない人ばかりですからねぇ。ここの人」
君たちが使ってくれと言われた。
だからいらないんだって。
……なんて、言えないよなぁ。
「いっそ元の姿に戻って噛み砕いちゃいましょうか」
「流石にそれはもったいない」
コイツならやり兼ねないから困る。
加工後のコレを破壊できる唯一の種族だ。
処遇が決まるまで触らせないでおこう。
ラナと頭を並べ悩んでいると、畑につながる戸が開いた。
ホブゴブリンに昼前の水やり任せたっけ。
『終わったのですなー』
『疲れましたねー』
「丁度いい、一緒に考えてくれ」
大地を司る精霊達だ。鉱物にも詳しい。
意外な使い道を知っているかもしれない。
当然、俺も考える。
売りに行くにしてもかなり重い。
しかも結構目立つ大きさだ。
鱗の情報を秘密にする関係で、ある程度の鍛冶スキルは持っている。オリハルコンの加工も経験済みだ。
でもやはり使う程のものではない。
結局鱗でOKになる。
『オリハルコンて汚れにくいんですねー』
『絶対錆びないしなー』
錆びないのは知っている。
が、汚れにくいというのは初耳だ。
確かに汚れているのを見たことがない。
勇者様の持ってる剣が、何故かオリハルコン製だった。滅多に戦わないので宝の持ち腐れである。
しかし、汚れにくいか。
何か有用なアイテム、あっただろうか。
「そういえば、農具ってお古でしたよね」
「まあ、貰い物だしな」
「だいぶガタガタ言ってますよね」
……え、マジ?
ラナの言いたいことはよくわかる。
だが、そんな使い方をしていいのか?
確かに買い直さなくていいのは魅力的だ。
でも水で洗えばいいんだぞ?
本当にいいのか?
* * * * * * * * * *
「おや召喚術師殿、真新しい農具ですな」
数日後、俺たちは畑に苗を植えていた。
道具も新調したため、作業もすこしやりやすい。手も錆び臭くならないし。
「変わった色の金属ですなぁ」
「あ、あはは……」
こうしてオリハルコンは生まれ変わった。
"世界最硬の農耕具"として。





