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平穏と急転の音がする

 

 体力切れ程度で死ぬわけがない。

 それでも2日は寝ていたらしい。


 リッカの勇姿は見届けた。

 そこまでは覚えている。

 だが、結果発表まで体力が持たなかった。

 優勝者を知ったのは目が覚めた直後。


 つまり、今さっきである。


「凄かったんですよ、リッカさんの前も」

「……なあマキナ」

「何です?」

「お前、何でイベント終わりの時に限ってには必ず我が家にいるの?」

「何ででしょうね?」


 いつも一騒ぎ終わると数日はいるよな。

 まあそれはどうでもいいか。


 俺がいなかった間、俺が寝ていた時。

 会場はかなり白熱していたらしい。

 確かに全体的なレベルが高い気がする。

 最後の投票まで接戦だったとか。


 それでもしっかりと順位はついた。

 意識は落ちていたが、歓声は覚えている。

 人の声で地響きが起きたのは初体験だ。


 その戦いから見事一位を掴んだ者。

 彼女の足音が、玄関に響いた。


「あ、優勝者」

「……おはよう、アリク」


 あまり意外性はない。

 優勝したのはリッカだった。


 俺もあそこまで体を張ったのだ。

 優勝くらいしてもらわないと。


「ま、2位と一票差だけどね」

「それでもお前の勝ちだろ」

「あんま勝ち負けとか考えられないな」


 2位は知り合いではない女性。

 リッカが倒れた時、真っ先に俺のワガママを受け入れてくれたあの女性らしい。

 舞台裏の出来事なのに運命を感じる。


 他のメンバーも健闘した。

 意外なのがラナとシーシャの順位。

 ラナは6位だったが、シーシャは最下位。

 どうやら幼い感じは投票されにくいらしい。

 確かに、ロリに投票するのは勇気がいる。



 ……あ、そうだ。

 マキナに面白い事を聞いた。

 真実かどうか確かめてみよう。


「リッカ、スカウトされたんだって?」

「大陸の中心でアイドルやらないかって」


 歌唱で彼女が見せた意外な一面。

 最後のパフォーマンスで魅せたアレ(・・)

 それが観客席のある人物を痺れさせたらしい。

 まさかのガチアイドルの誘いである。


 しかし、リッカはそれを保留した。

 理由はまだマキナも知らないらしい。

 それを聞くのが、俺の役目だ。


「だって、アンタのモンスターだし」


 ……マジか。


「いや確かにそうだが」

「始まるんでしょ、新しい戦いが」


 俺の反論も聞かず、彼女は畳み掛ける。

 ずっとお世話になりっぱなしだった。

 次は私がアンタを支える番だ。

 これがリッカの意見である。


 妙な責任感を抱えている気がする。

 そんな必要は全く無い。

 リッカはやっと自分の夢を叶えたのだ。


 引っ込み思案を解消できた。

 常時召喚状態にもなれた。

 サキュバスである事も隠せる。


 もう、彼女を縛るものは何もない。


「お前にはやりたい事をやって欲しい」

「バカ、今更何言ってんの」


 自然に俺の寝るベットへ腰掛ける。

 体温を感じる程、距離が近い。

 綺麗な瞳が俺を見つめる。


 妙に心臓がドキドキする。

 まだ体力が回復しきってなかったか?

 ……いや、これは違う。

 リッカの奴、誘惑を発動している。


 でも何でだ?

 今のコイツはセイントデビル。

 サキュバスの能力なんて完全操作できるはず。


「——これが今、私のやりたい事だよ」


 ヤバイ、呼吸が甘い。

 いやダメだ。ダメなんだ。

 彼女はサキュバスとして扱わない。

 サキュバスである前に一人の少女だ。


 契約の時に決めたじゃないか。

 破ってたまるか。

 なのに少し揺らいでしまう……!


「あの、ボクの事忘れてません?」

「うわっ! な、何でいるのマキナ!?」

「ずっといましたよ」

「……見なかったことにして」


 ナイスだマキナ。

 よくわからないが、誘惑も消えている。


 一体何が目的だったんだ。

 顔も真っ赤だし。

 ……俺の顔は大丈夫だよな?



「ただいま戻りましたー!」

「——帰宅」


 4位も帰ってきたか。

 そして今回の裏の立役者も。


 今回のミスコンはみんなで成し遂げた。

 全員で支え合い、全員で高め合う。

 これが俺の総括である。


 そう考えると、今回はモンスター同士の繋がりが生まれた良い機会だった。

 トマト投げ祭りでも妙な共闘あったし。

 二度と参加したくはないが。


「アリク様!? 目を覚ましたのですか!?」

「ああ、おかげさまでな」

「丁度良かったです! ナタリアさんからスコーンを貰ってきました!」

「——みんなで、食べよ?」


 本当に丁度良いタイミング。

 俺は2日間、何も食べていない。

 流石に腹ペコだ。


「スコーンと言えばお茶よね」

「ボクが淹れましょうか?」

「大丈夫、お茶には少し自信あるから」


 また少し賑やかになったな。

 だがもう慣れたものだ。

 それにコイツらといると少し落ち着く。

 いつ以来だろう、こんな安らぎは。



 しかし、俺たちは事件の渦中にいる。

 ここ最近はさっぱり忘れていた。

 だが、あの事件から一ヶ月。


 奴らが動き出してもおかしくない。

 それを知らせるように、玄関が叩かれた。


「召喚術師様、お目覚めですか?」

「村長、何かまたありましたか」

「いえ、ただ召喚術師様にお客さんが」

「俺に客?」


 村長が少し困った様子で話しかける。

 そんなに不都合な相手なのか。


 その名を村長の口から聞く瞬間まで、俺はただただ呑気であった。


「メイサという女性なのですが」


 その名に全身が総毛立つ。

 疑問と警戒心が俺の心身を覆った。


 メイサ・バカルディア。

 勇者パーティの盾を務めていた人物。

 ダヌアの話では、勇者パーティを抜けた女。


 そして、最強の盾使いでもある。

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