『目覚めた才能』と『天性の才能』と『ある意味才能』
第1ポイント、自己紹介。
第2ポイント、歌唱。
第3ポイント、パフォーマンス。
全てを総合し、観客からの投票が多い者。
その人物がミス・バックスに選ばれる。
ちなみに俺とアビスには投票権がない。
ついでにナタリアの旦那さんにも。
理由は当然、投票先が限られるから。
協力者の枠に投票権は与えられないのだ。
「——素晴らしい歌でしたシーシャ様! 続きましてエントリーナンバー21! リッカちゃんの歌です!」
歌う順番はナンバー通りではない。
第二、第三の順番はくじ引きで決まる。
残りはリッカ、ラナ、マキナである。
リッカにとってはキツイ壁だな。
確定した実力を持つラナ。
そして、耳栓を渡してきたマキナ。
この二人が待ち構えている。
「歌に自信のほうは?」
「今までの子達とは曲調違うけど一応」
「それは楽しみですねぇ」
「任せてよ」
「それでは歌ってもらいましょう!」
自信があるのか。
しかし、今までと違う曲調って何だ?
顔なじみの面子だけでも整理してみよう。
シーシャは歌劇の名曲。
ナタリアは童謡。
金銀姉妹は謎の怖い民謡。
ちなみに、演奏は全て生だ。
「それじゃ……いっきますよー!!」
……は?
一気にリッカのテンションがぶち上がる。
省エネテンションはどこやった。
「会場の皆さんも! 向こうにいるお客さん達も! 自由にノってくださいねー!!」
この曲調、このテンション。覚えがある。
大陸中心の大都会で流行ってるヤツだ。
アイドルソング。
確かそんな名前だった気がする。
無駄に高いテンション。
少し恥ずかしくも、乙女チックな歌詞。
リッカのイメージを良い意味でぶち壊すような、甘ったるくも爽快感のある声。
「サビ行くよー!!!」
いいじゃないか、こういう路線も。
今までの中で一番伸び伸びとしている。
そんなに眩しい笑顔は初めてだ。
「ありがとーーう!!!!」
リッカは笑顔を崩さず歌いきった。
舞台を駆け回り、観客を盛り上げる。
確かにこれまでの歌とは全く違う。
そして、それが観客達に受け入れられた。
これは強いぞ。最高の武器だ。
ラナの歌唱力と並ぶかもしれない。
だが、少し悔しいな。
お前のそんな才能に気づかなかった。
それとも隠してきたのだろうか。
「凄まじいパフォーマンスでした! 続きましてエントリーナンバー5! ラナちゃんです!」
「はい!」
堂々と舞台に上がるラナ。
やはり緊張のカケラもない。
「頑張って歌います! 聞いてください!」
真面目に愚直に響く言葉。
確かにリッカの歌は素晴らしかった。
だが、ラナも負けてはいない。
一番近くで聞いてきたから間違いない。
ラナの声は、天性の才能だ。
* * * * * * * * * *
とんでもない戦いになってきたな。
リッカの歌で会場のボルテージは最高潮。
そこにラナの美声が響き渡った。
現在、異例の小休止が挟まれている。
観客のテンションが上がり過ぎたためだ。
その間に俺は牛串の買い足しだ。
アイツら多分腹ペコだろう。
今のうちに飯の確保だ。
屋台に並んでいると、話が聞こえる。
どうやらミスコンの話題らしい。
「さっきの二人やばかったな」
「両方とも可愛いすぎか! 投票どうする?」
「それでも俺はナタリアさんかなぁ」
「俺はリッカちゃん! タイプど真ん中!」
……少しだけ鼻が高い。
二人とも可愛いでしょう。
俺の友人のモンスターなんですよ。
「そろそろ休憩終了です! マキナちゃんの歌から再開します!」
危ない危ない。
マキナの歌を聞き逃すところだ。
牛串の皿を手に、場所取りした机に戻る。
その瞬間、また話が聞こえた。
さっきと同じ男たちだ。
「……席、戻るか?」
「戻っても戻らなくても同じだろ……」
一体何を話しているのか。
俺にはさっぱり理解できなかった。
席につきマキナの登場を待つ。
ついでに手渡された耳栓を探しす。
……無い。どこかで落としたか?
まあ、歌を聞いて欲しく無いからだろう。
聞かれたくない恥ずかしさはわかる。
それなら聞かなかった事にすればいい。
舞台からもかなり離れている。
「お待たせしました! 大トリです!」
「いや何故」
「くじ引きですので……オチも必要ですし」
「ボクの歌はオチじゃないのですが」
軽いコントを始めた。
というか歌にオチなんてあるのか。
何故司会者は知っているんだ。
そういえば前回大会も出たんだっけ。
観客達はマキナの歌を知っているのか。
「皆様、覚悟はよろしいでしょうか」
「一応本気で歌いますので」
覚悟?
本気?
後者はわかる。
だが前者を客に要求する歌とは一体。
なんだ、このひりつく第六感は。
何も起きてないのに後悔の念が生まれる。
一体、何が起こるんだ?
「……それでは、聞いてください」
次の瞬間、彼女は"何かをした"。
他の出場者とやっている事は変わらない。
しかし同時に何もかもが間違っている。
俺の鼓膜は飛びかけている。
他の観客も、目を剥いていたり歯を食いしばっていたり。まず歌を聴いている反応ではない。
音痴とか、そういう次元ではない。
お前はお前で普段の声はどこやった?
というかそれ、本当に声か?
鼓膜破損寸前の俺には理解できない。
「——はい! 終わりです!!」
「皆様無事でしょうか!!?」
無事です。短い曲だったおかげで。
ただごっそりと体力が削られました。
トマト投げ祭りのせいで元から無いのに。
これで第二審査は終了だ。
次が最終審査、そして投票へと繋がる。
俺には見守ることしか出来ない。
と、思っていた。
「アリクさん! アリクさんはいますか!」
スタッフが叫んでいる。
何かと思えば俺の名前だ。
当然、俺の身に覚えはない。
「俺ですけど」
「至急舞台裏まで来てください!」
「理由を教えてくれ」
「リッカさんが倒れました! 先程の休憩直後に!」
俺は耳を疑った。
リッカが、倒れた?





