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サキュバスだって夢を見たい!

 

 カレンダーにバツ印を書き入れ13日目。

 収穫祭当日まであと1日。


 当初の余裕は一切なくなった。

 役場では催しの参加手続が開かれている。

 当然、その中にはミスコンも含まれる。


 ラナと金銀姉妹の出場登録は済んでいる。

 カナスタは家庭の事情でダメになった。

 アルラウネ界の貴族もお固いのか。

 そして、肝心のリッカは。


『何も引っ込まない……1ミリも……』


 結果が出ない努力に打ち負かされていた。

 それを未知の単位で表現する。

 相当凹んでいるのだろう。


『ナタリーは完璧に仕上げたのに』

「……ナタリー?」


 多分ナタリアの事だな。

 お前らいつの間に仲良くなってたんだ。

 この10日間ほぼ毎日一緒にいたが。


 そう、ナタリアの擬態は完璧になった。

 触らない限りスライムだとはわからない。

 髪をあえて水色のままにすることで幻想的な雰囲気を醸し出している。強力なライバルだ。


『何がダメなんだろ』

「魔力の使い方とかじゃないか?」

『言われた通りにやってるし』

「どんな感じなんだ」

『人の型を思い浮かべてそこに魔力注ぐの』


 わからん。人の型って何だ。

 型紙とか金型みたいなものか。

 人の形の金型に、魔力を注ぎ込む?

 ……やっぱりわからん。


 試しに俺も逆をやってみる。

 頭の中にドラゴンの型を作り上げる。

 そこに魔力を注ぐイメージ。


 ——すごい。

 何も変わらないじゃないか。


『やっぱ種族の差なのかなぁ』

「でも(オーガ)族と差はあんま無いだろ」

『それ言ったら人間との差も薄いですー』


 まぁそれはそうだが。


『……よし、休憩終わり』

「まだやるのか?」

『ちょっと諦めがつかないから』


 軽く絶望しているのに諦めてない。


 ——ならば付き合おう。

 彼女が諦め疲れ果てるまで。

 最後の瞬間まで付き合おうじゃないか。



 * * * * * * * * * *



『ごめん、結局身につかなかった』


 祭りを明日の朝に控えた夜。

 みんなで準備した食事を囲む。


 結局、日が沈むまで練習はした。

 だが一切の成果が出なかった。

 そのせいか、リッカは意気消沈している。


「何、本番直前の夕方まで受付はやってる」

「——ふぁい、お」


 この程度しか応援してやらない。

 正直、希望的観測はできない状況だ。

 それでも最後の瞬間という訳ではない。

 諦めるにはまだ早い。


 いざとなったら、運営に金でも積もうか。

 シーシャの依頼で貯金はあるし。


『はぁ……擬態がこんなに難しいなんて』


 リッカがポロリと愚痴を漏らす。

 その言葉に、ラナは耳をひくつかせた。

 何か気になる言葉だったのだろうか。


 というか、どうやってるんだそれ。

 耳だけピクピク動かすって。

 鼻ならまだわかるが。


「リッカさん、ちょっと勘違いしてます」

『え? 勘違い?』

「——ん」


 ラナが説教じみて語る。

 何だ、やっぱり間違っていたのか。

 どうりであやふやすぎる説明だと——。


「理想の姿を思い描くのです」


 ——あれ、もっとあやふやになった。


「私はアリク様と旅がしたかった」

『だから人の姿になったの?』

「アリク様もそれを望まれてましたから」

「——アビスも話したかった、から」


 わかるのかリッカ。

 俺にはさっぱりわからないのだが。

 つまり、理想が姿形に影響するのか。


 人間なんて努力しても夢が叶うかわならないどころか、叶わないほうが多数派だ。

 それを平然とやってみせろと。

 ……酷な事を。


『理想の自分……やってみる』

「食事中だぞ」

『いま! やりたいの!』


 そしてリッカもリッカだ。

 やる気になった彼女は珍しい。

 だが火がつくとここまで努力家になるとは。


 少しだけ身体を力ませる。

 眉間に少しだけシワが寄っている。


 ……魔力が著しく減少している。

 おかしい、確かに変身すると数値は下がる。

 だが減ることはないはずだ。

 彼女の肉体に、何が起きている?


 俺はその変化を観察した。


『あーダメだ』


 おい。

 何も変わってないが。


「魔力はごっそり減ってるんだが」

『だって私を召喚してるの私だし』

「いや、それとは関係なく」


 リッカを召喚しているのは彼女自身だ。

 召喚を保つのも彼女の魔力である。

 だが、こんなに著しく減らない。


 しかも何だ? この感覚は。

 いつも以上にリッカが魅力的に見える。

 おそらく誘惑(チャーム)だと予想はつく。

 だが、こんなにも彼女の誘惑は強烈だっただろうか? 全力でももう少し薄かったような。


 ……まずい、ドキドキしてきた。

 当の本人は何も気づいていないようだが。


『もうパッと人間に変われたらなぁ」


 その瞬間を俺は見逃さなかった。

 愚痴の延長で吐き出された一つの言葉。


 変化はほんの一瞬で。

 見逃してしまうほど早く。

 まるで、言葉に従うかのようだった。


「……おい、変身してるぞ」

「冗談は良くないと思うんだけど」


 やっぱり、自身の変化に気づいていない。


「いやいやいや! 出来てます!」

「——ん! かが、み!」

「……マジ?」


 三人で騒ぎ立て、やっと彼女は姿見を見る。

 角が無くなり、強調される美しい髪。

 翼が消えてはっきりとした腰つき。

 尻尾も跡形もない。


 残ったのは、人間の少女の姿。

 ……この姿でも一番美人だ。


「出来てるじゃん!!! 何で!!?」


 キンキン叫ばなければ。

 普通に近所迷惑になる音量だ。


「喜ばないのか?」

「こうふわっと変身できちゃうと」

「実感が湧かないか」


 まあそうだろうな。突然だったし。

 何より、三人と変化の様子が違った。


 スライムは形態変化で形を変える。

 ラナとアビスは変身の際に光を放つ。

 それに比べ、今のリッカは一切の予兆もなく人間態へと変身してしまった。


 やはり種族の差なのだろうか。

 何か研究できそうだ。


「というか、本番はここからなんだし」


 そういえばその通りだ。

 彼女の目的は常時召喚状態になる事。

 そしてミスコンに出る事。


 まだ両方とも夢半ばである。

 あわよくばミスコンで優勝してしまえ。


 身内がライバルだらけだが。


「疲れたから寝る! おやすみ!」

「だから食事中。ってかそれ俺のベッド」


 言うより早く、リッカは寝息をかいた。

 全く、どこまでも人騒がせな奴だ。


 ……ご両親に連絡しなきゃ。

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