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暗黒龍は草原で歌う

 

 ミスコンの話をモンスター達に伝えた。

 ただ、全員ピンと来ていない様子。

 まあこの反応も当たり前だ。

 俺だって初めて聞いた言葉だもの。


 なので聞いた説明をそのまま語る。

 と言っても一語一句覚えてはいない。

 何となくのニュアンス程度だ。


「美人さんを決める大会、ですか」

「興味のある奴はいるか?」


 この場にいるのは人型のモンスター達。

 金銀姉妹やカナスタ辺りだ。


『アビスは出ないのか?』

「一人で舞台に立たせるのは心配で」

『そうなるわよね……わかります』

「——ん」


 俺だって出させてあげたいわ。

 説明した時の悲しそうな顔、知ってるか。


 アビスは今回裏方で支援だ。

 今は主にリッカの擬態練習手伝いである。

 未だ変身がうまく行く様子はない。

 だがアビス曰く順調らしい。


 ……本当か? 何を根拠に?

 わからないが、ひょっとするとモンスターに理解できる何かがあるのかもしれない。


『わたくし! わたくし出たいですわ!』

「あーやっぱ食いついて来たか」

『擬態なら少し経験もありますの!』

『経験っつーかそういう生態なだけじゃね』

『人をおびき寄せて生気吸うんですよね』


 今でこそ彼女の肌は健康的な緑色だ。

 しかし、アルラウネの擬態は凄まじい。

 それこそ日常に溶け込む程には。


 前任のアルラウネを少し思い出す。

 彼女の夫は人間の男だ。

 最初は彼も彼女の正体を知らなかった。

 擬態時に街で出会ったとか言っていたし。


 それが今では子供まで……。

 よかったなぁ、アイツ。


『私達は角さえ隠せばいいですし』

『隠さなくていいんじゃね、仮装って事で』

『ゴルド姉は楽観視しすぎです』


 ゴルドラの意見もその通りだ。

 彼女達は角くらいしか人との差異はない。


 正直擬態なしでもいける。

 前の買い出しも帽子被っただけだったし。

 だがシルバゴの言う通り、バレが怖い。

 まだ大会規定もわからないし。


「一応できるんだよな、擬態」

『まあ一応』

『私は出来ませんよ、ゴルド姉頼りです』


 ああ、そうだったな。

 改めてこの姉妹の役割分担を思い出す。


 魔術と特殊能力で支援するゴルドラ。

 力任せに敵や障害をねじ伏せるシルバゴ。

 なので妹のほうは魔術を一切使えない。


 ……普通反対だよな、性格的に。


「その擬態、他のモンスターには?」

『悪いなアリク様、擬態能力は鬼用なんだ』


 そうですか。



 * * * * * * * * * *



『で、真夜中に何で草原に呼び出した?』

「いいだろお前夜行性なんだから」


 その夜。

 リッカを呼び出して村外れの草原へ来た。

 無理をしたからか、少々疲れている。


 だが、少しだけ付き合ってもらおう。


「あ、アリク様!」

「——やっと、来た」


 先にいたのはラナとアビス。

 リッカの憧れる常時召喚組だ。


『……私、エサにでもされるの?』

「し、しませんよ!?」

「——食べな、い」


 俺が使役しているモンスターには、ラナとアビスの正体はバレている。

 両方とも危険度S級モンスター。

 野生下ならエサ確定の最強クラスだ。


 リッカが確かめるのもよくわかる。

 だが残念ながらエサではない。

 ラナの口から、集めた経緯が語られる。


「あれって、大勢の前で歌うんですよね?」

「ミスコンだろ? そうなるな」

「緊張しないように練習したくて」

『暗黒龍も緊張するんだ……』

「しますよ!」


 そう、今回はラナの歌の練習だ。

 正確に言えば人前で緊張しない練習だが。


『この子、歌上手いの?』

「聴けばわかる」

「——ラナのうた、好き」


 草原の少しだけ小高くなった場所に立つ。

 俺たちはそれを見上げる形だ。

 星と月、遠くの山々の陰影が美しい。


 ラナの歌は何度も耳にしている。

 仲良くなった当初は毎日のように聴いた。

 今でこそ人前ではあまり歌わないが、人のいない空を飛んでいる時とかはよく歌っている。


 夜空を背にラナは深く息を吸う。

 一つ一つ、言葉を紡ぐように歌い始める。


「上手だろ」

『……うん、びっくりするくらい上手い』

「————ん」


 普段の印象には似つかない歌声。

 優しく、しかし力強く心に響いてくる。

 暗黒龍や人間なんて種族は関係ない。

 これが彼女の本当の特技だ。


 伴奏なんて必要ない。

 風の音すら、彼女の声を際立たせている。

 俺も、ラナの歌声は大好きだ。


『歌唱審査ってみんなやるのかな……』

「そうじゃないのか?」

『うわぁ、自信無くすわ』

「今更何を怯えてる」

『だってさー』


 肩を叩いてリッカをなだめる。

 確かにラナの歌声は素晴らしい。

 リッカにも負けない魅力はきっとある。


 あとたったの二週間。

 されど二週間もあるのだ。

 本番までに、必ず見つけ出そう。


 やがてラナの声が止む。

 全て歌い終え、少し恥ずかしそうだ。


「だ、大丈夫でしたか?」

『ヤバかった……いい意味で』

「——素敵、な声」

「あとは人数が増えても歌えるかだな」

「うぅ〜! 緊張する事言わないで下さい!」


 ……ラナもラナで何とかしなきゃな。

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