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先輩モンスターの人間擬態講座〜収穫祭と覚悟発動編〜

 

 少し昔の事になる。

 最強スライムが悠長に喋り出した頃の話。


「お前、どんどん強くなるな」

『そいつぁ親父の育て方が良いんでしょう』

「そうでもない。資金不足だし」


 当時まだ修行を終えた程度だ。

 魔力は凡々。モンスターも弱かった。

 金銀姉妹も野良のドワーフに負けていた。


 それでも何故か、彼らは俺について来た。

 弱い召喚術師である俺に。

 その理由を問いたことはあまり無い。


『親父も意地悪な質問をしやがる』


 俺はスライムに怒られた。

 膝の上で、渋い声で喋るスライムに。


『あっし等スライムは、単純な存在です』


 確かにスライムは群れから離れると自らの形を見失い、不定形な存在に成り果てる。

 だからスライムは基本群れで過ごす。

 自らの形を見失わない為に。


 彼は例外だ。

 たった一匹なのに形を失わない例外。

 だから俺はコイツを選んだ。

 形を失わないように強くしたいと。


『今のあっしは親父に影響されてます』

「俺に?」

『そう、最強になって欲しいという願いに』


 これは他のモンスターも変わらない。

 スライムはそう続けた。


 未だ俺の考えはこの頃のままだ。

 モンスターが俺の望みに影響されるなら。


 俺も、モンスターの気持ちに応えたい。



 * * * * * * * * * *



『角ひっこめー、翼ひっこめー』


 間抜けな言葉を呪文のように口にする。

 リッカは変身の練習中だ。

 俺たちには見守って欲しいという。


 言われた通りたまにアドバイスする程度。


「お茶が入りましたよー」

「ありがとうナタリア」


 人ん家の庭でやる事じゃないと思う。

 しかし家主が使ってくれと言ってきた。


 その家主は牧場へ行っている。

 ナタリアに手を出すなと釘を刺された。

 人妻に手なんて出すか。


 倫理的には当然アウトだし。

 ただでさえ狭い村だ。

 スキャンダルなんか起こすか。


『やっぱ無理だ』

「お前が始めた事だろ?」

「もう少し頑張りましょ? お茶ですよー」

『……ありがとスライム』


 少し上がった呼吸をお茶で落ち着ける。

 汗ばんだ表情が扇情的だ。

 少し甘い香りもする。


 ……誘惑(チャーム)漏れ出てないかこいつ。

 いつもは抑えてるはずだが。


「できると思うんだけどな」

『無理無理、才能薄いっぽい』


 才能か。

 少し複雑な話題ではある。


 ラナやアビスは元からモンスターとしてのランクが高く、擬態や変身ができてもおかしくない。

 スライムも不定形なモンスター。

 環境に合わせて姿を変える。


 それに比べサキュバスはどうか。

 確かに高い潜在能力はある。

 しかしそれは幻惑などのお話。


『うまくいかないもんかなー』


 変身能力とは無縁の才能である。



「そういえば収穫祭をご存知ですかー?」

「回覧板で見たな」

『ちょっと待って、私の変身は?』


 御茶請けがわりの話が来た。

 どうせだし、この話に花を咲かせよう。


 収穫祭とは、バックス領で年に一度行われるその年の農作物に感謝を伝える祭りらしい。

 バックス領民の殆どが集まるとか。

 かなり賑やかな祭りのようだ。


 あわせて様々なイベントも開催される。

 俺が知っているのは牛乳早飲み。

 あとは泥沼相撲とトマト投げ。

 正直よくわからないものばかりだ。


「ミスコンっていう催しがあってー」

「ミスコン……?」

「バックス領一番の美人を決めるらしいの」


 それは少し興味がある。

 バックス領一番の美人を決めるのか。


 俺が知ってる催しより余程面白そうだ。


「ちょうどいい、出てみるか?」

『誰が』

「リッカが」

『あー私……はぁ!?』


 そのイベントなら適任だろう。

 あとはマキナ、シーシャも美人だな。

 アビスも美人だが……出すには少し心配だ。


「ラナは美人というより少女感強いもんな」

「歌の審査とかもあるんだってー」

「それならラナも……お前は歌得意か?」

『ちょっと待って! え? 私出るの?』


 妙に慌てている。嫌なのだろうか?

 まあ確かに恥ずかしがりなところはある。

 でも今回はその殻を破るチャンスだ。


 ……そうか、自信がないのか。

 自己評価低めだしな。

 なら少しだけ背中を押してやろう。


「だってお前、俺が契約してるモンスターの中じゃ1番美人だぞ?」

『…………!?!?』


 嘘は言ってない。

 何なら俺が知る中で一番の美人は彼女だ。

 当然、誘惑の能力は関係なく。


 光の加減で幾多の色に輝く髪。

 普段は眠そうだが大きく綺麗な瞳。

 指先も足先も美しく伸びている。

 体の丸みも黄金律的に保たれている。


 サキュバスの特性なのかもしれないが。

 いや、でもサキュバスでもこんな美人は滅多にいないしな、少なくとも見たことのある中では。


『私、少しココロ読めるんだけど……』


 あ、そうだった。

 少し恥ずかしい分析をしてしまったな。


 リッカの顔もよく見れば真っ赤だ。

 確実に引かれたな、これ。

 反省しよう。


「モンスターが出られるか曖昧なのよねー」

「そうなのか……残念」

「ラナちゃん達なら出られるかな?」

「まあ、擬態してるしな」


 どうやらナタリアも出場したいらしい。

 人妻がこの手のコンテストに出ていいのか?

 モンスター云々関係なく。


『それ、いつやるの?』

「再来週の今日よー」


 リッカがこの手の話題に食いつくとは。

 少しだけ意外だ。


 だがこの話だと出場できるかどうか。

 良い機会だと思ったのにな。


『私、間に合わせる』

「一体何に」

『ミスコンに』

「まさか……擬態をか?」

『うん』


 え? 本当に予想外だ。

 背中を押してやっただけなんだが。


 まあ、珍しくやる気を出している事だし。

 俺も協力しなきゃな。


「手伝おう」

『ありがとアリク』


 目標は二週間後。

 その日までに擬態を完璧に仕上げる。


 ……少しワクワクしてきた。

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