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先輩モンスターの人間擬態講座〜先輩との接触編〜

 

「紹介しよう、アビスだ」

『いや存じてるこの子』


 あれ、面識あったっけ。


 早朝にリッカのわがままを聞いて数時間。

 考えながら農作業をしてもう昼過ぎだ。

 お昼ご飯は食べ損ねた。


 彼女の言う常時召喚の状態。

 ラナやアビスと同じ状態という事だ。

 正直、メリットはあまり無い。

 彼女がこれを求める理由もわからない。


「お前の場合、擬態の必要はないだろ」

『いや角! 翼! しっぽ! あとエルフ耳!』

「些細な差だと思うけどな」

『そうでもないって……「あいつサキュバスじゃね?」って目で見られるし』


 との事だ。

 つまり人間に擬態したいらしい。

 金銀姉妹も同じような見た目なのだが。

 あーでも羽と尻尾は生えてないか。


 つまり4つ揃うと偏見の目があるのか。

 確かに特徴的だからな。

 角じゃなく頭にも羽生えてるのもいるが。


「——何、する?」

「人間の姿になりたいんだと」

『……おねがいします』

「————ん」


 今更だがこの二人で大丈夫だろうか。

 かたや未だ世間知らずの最強海魔。

 こっちは社会不適合気味の淫魔。


 でもラナは駄目だしな。

 それに比べアビスがモンスターなのは周知の事実になってるし、何より解除してもサイズはそれなりだ。


 一応適任ではあるのだが。

 果たしてどうなるか。


「まずは変身を解除してくれ」

「ん——どっち?」

「ヒトデのほうだ」


 リヴァイアサンになったら家が壊れる。


 まあ起こる事はラナが人間に擬態した時を反対にしたような事でしかない。

 全身が光り輝き、モンスターへ戻る。

 それだけだ。



『うわ! ヒトデ!?』

『————?』

「こっちの姿は見た事ないか」

『でっか、ちょっと怖……』


 確かに初見は少し怖いかもしれない。

 でも中身はアビスと同じだ。

 喋れない分、身振り手振りが活発になる。


「よし、戻ってくれ」

『————?』

「今のを見て変身のコツわかった? つて」

『え、何言ってるかわかんの?』

「最近はふんわりとだが理解できる」


 俺も正直なんで理解できるのか不明だ。


 でもまあ、分かるならそれでいい。

 スケルトンも身振りである程度わかるし。


「——わかった?」

『ううん、さっぱりわからない』

「————むぅ」


 頬を膨らませアビスが拗ねる。

 今のは確かに言い方が悪かったと思う。


 頭を撫でて彼女の怒りを鎮める。

 まあそう怒るな、物を教えるのは難しい。

 お前も言葉を覚えるのに苦戦してるし。


『魔力がしぼんだのはわかるんだけどなー』

「まあアビスは元がS級だからな」

『やっぱ見本にならなくない?』

「と言っても他には……あ」

『え、心当たりあるの?』


 あるといえば、ある。

 だがアレこそ参考になるのか?


 ……試してみるか。



 * * * * * * * * * *



「おーい、いるかー?」


 訪れたのはごく一般的な村の家。

 ここは畜産業を営んでいる。

 今くらいの頃合いは休憩時間のはずだが。


「誰だ……って召喚術師さん!?」

「そろそろアリクって呼んでくれても」

「ああすみません」


 顔を出したのは冴えない一人の男。

 まあ村人Aみたいなものだ。


 だが、村では恐らく俺と一番接点がある。

 村長以上によく話す間柄だ。

 先に注意すると、召喚術師ではない。


「今日はラナちゃんとマキナさんは?」

「ラナは昼寝、マキナは報告で昼前には中心街へ戻ったところだ」

「で、代わりにその女の子を」

「人聞き悪いなオイ」


 これくらいの軽口を叩く仲ではある。


「で、お前の"嫁"は?」

「今台所にいる。呼ぼうか?」


 わざわざ呼ぶのは手間をかける。

 家の主に事情を話し、室内へ上がった。

 奥から水を流す音がする。


 さて、今日は元気だろうか?

 この前は雨で少しゆるゆるだったが。


「あー、マスター」

「今のマスターはこいつだろ」

「彼は旦那様よー? ね、あなた?」

「あはは……」

「随分と幸せそうだな」


 普通にそこにいた。

 夫婦関係は良好そうだ。


 まさか本当に妄言を実現するとは。

 ひょっとすると何かの才能かもしれない。


『……じゃん』

「ん? 何か言ったか?」


 リッカが何か言いたげだ。

 溜めて溜めて、彼女は心情を放つ。


『スライムじゃん! がっつり水色じゃん!』

「でも人間にある程度変身してるし」

『いや凄いけど!』


 見事な美少女に変身したスライム。

 名前はナタリアと名付けられた。


 そう、この村人というのは『彼』だ。

 スライムを嫁にするとのたまったあの男。


 そして彼は見事にその夢を叶えた。

 見事なスライム娘に成長させたのだ。

 しかもたった数ヶ月で。


「こいつに変身を教えてほしい」

「私にできるかしらー」

「なぁに、お前ならできるさ」

「あなた……うふふ」


 おしどり夫婦特有の甘い空気だ。

 アビスに比べればランクの差も狭い。

 何ならナタリアのほうが低い。


 良かった、丁度いい先輩がいて。


『何で変身前からこんなに疲れるの……』


 リッカが泣き言を言っている。

 頑張れリッカ。

 擬態したいって言い出したのはお前だ。

 俺は応援するからな、一応。

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