勇者パーティは危険と認定されるようです
つかの間の休息。
サレイが来てから色々あったものだ。
やっとスローライフが戻ってきた。
あの夜、少々意外な事が起きていた。
役場に爆弾など無かったのだ。
ネムのブラフか、意図があるのか。
どちらにしろ未だ役場は立入禁止だ。
しかし、サレイの計算だと勇者パーティは今後1ヶ月は行動しないだろうと言う。
ネムは腕を切断した。
だが、呪いは僅かに発動していた。
微量でもその効果は凄まじい、らしい。
少なくともネムは最低1ヶ月動けない。
治るまでは勇者様も動かないだろう。
何せ、勇者パーティの参謀だ。
……やっぱあの矢、やばいな。
「マキナさん、大丈夫ですか?」
「この程度で休むほど……いたた」
俺たちはマキナを中心街へ緊急搬送した。
下手をすれば命に関わるひどい傷。
村にそのレベルの医者はいなかった。
マキナを見たシーシャの表情は忘れない。
唇まで青くなった彼女の表情を。
しかし今ではかつての元気を取り戻している。かなり無茶をするようになってしまったが。
今も畑でラナ達と戯れている。
辛いのであれば休んでほしい。
「で、サレイは行くのか?」
「あの勇者パーティを見過ごせない」
「あんなパーティ、前代未聞だっつーの」
「まあ勇者の所業ではないな」
玄関先、荷物を背負ったサレイ達と話す。
今回の事は彼らの領主に報告するらしい。
なので、早くもお別れだ。
どうやらこれで、俺の所属していた勇者パーティは名実共に危険集団への認定が会議されるらしい。
盗賊や犯罪組織と同じ扱いだ。
他の勇者を名乗る人々に申し訳ない。
だが、奴らが異質すぎたのだ。
「また揉み消されないか?」
「その時はその原因を追求するさ」
何とも頼りになる言葉だ。
しかしサレイの交友はどうなってるんだ?
領主と仲が良いのはまだわかる。
だが原因を追求できるような友人とは。
コミュ力の塊かこいつは。
懐から取り出した何かを眺めながら、サレイはぽつりと呟く。
「同じ勇者として、許す訳にはいかないし」
……ん?
今、何か妙な事を言ったな。
まるでサレイも勇者のような口ぶりだ。
それにサレイの眺めている物。
なんだろう、どこか見覚えがある。
確かあれは勇者に選ばれた人間のみが持つことを許される、貴重な勲章だったような。
いや、まさか。
「ひょっとしてお前も、勇者なのか?」
「言ってなかったっけ先輩」
「言ってなかったわよバカサレイ」
「言ってなかったなアホサレイ」
とぼけた表情でサレイは言う。
何で重要な情報を別れ際で知るんだよ。
何ならリーヴァが教えてくれて良かった。
「黙ってれば罵る材料になるなって」
コイツもコイツで良い性格してやがる。
今回の事件ではだいぶお世話になったが。
勇者の称号は滅多な事では与えられない。
恐らく現在も所持者は百人を切る。
なのに、勇者様のような人物が現れた。
もしこれ以上問題が起きれば、勇者という称号への信用問題に発展するだろう。
「称号の剥奪とかはできないのか?」
「まず無いと思う。そもそも前例が無い」
「そんなもんか」
「ま、今回をその前例にすればいい」
やけに頼もしいな。
だが実際はどうなる事か。
まあ、今はコイツのほうが詳しいだろう。
それならコイツに任せよう。
「あ、そうだ」
「どうした先輩?」
「お前勇者なんだろ? 俺の汚名が晴れてクエスト行けるようになったら、パーティ組まないか?」
何気なく約束してみた。
勇者以外でもパーティは組める。
だがまた下に付くとしたら。
コイツなら、俺は信頼できる。
「まだ称号取って一年だからな。パーティ組めるのは2年目からだし」
「そんな近い未来じゃねーよ」
「それにコイツもいるぞ」
「どうもコイツだよ、後でシメるわサイ男」
勇者の称号にはそんな制約もあるのか。
尚更勇者様がどう獲得したのか、疑問だな。
それに、騒がしいのはお互い様だ。
「大丈夫、俺にもアイツらがいる」
背後の窓から、畑を親指で指差す。
「そうしたら賑やかなパーティになるなぁ」
「いいじゃないか」
「アタシも、あの子等となら良いけど」
「ラナと喧嘩してたのにか?」
「あれはじゃれ合いだってーの」
あれがじゃれ合い……?
険悪だった気がするけども。
リーヴァが言うなら間違いないのだろう。
かなり毒舌だが、結構思慮深い。
この根本的な賢さはラナと同じだ。
「……あと、そうだ」
「なんだ先輩」
「その子、結局何者なんだ?」
「何者……いや、なんでもないけど」
「そーそー何でもない何でもない」
少し言い淀んだ。
やはりリーヴァにも秘密があるのか。
「アンタんとこのラナと、大して変わらない存在だよ。アタシは」
ラナと大して変わらない?
確かにパートナーポジションではあるが。
頼りになるのも似ているが。
……まさかモンスター?
いや、サレイは普通の召喚術を使えない。
なら何なんだ結局。
モヤモヤが残る。
結局わからないまま、いつの間にかサレイ達は家から出て行っていた。
挨拶もしてないのに。
まぁ、俺たちの関係はこんなものか。
「アリク様! 来てください」
「だいぶお野菜が大きくなりましたね」
「——と、る?」
外から声が聞こえる。
久々にのんびりするか。
勇者関連の騒動も休止みたいだし。
そろそろ長期休暇も必要だ。
椅子から腰を上げ、皆が呼ぶ畑へと足を運んだ。





