主人公風後輩、おいしいところは持っていく
「僧侶ネム・カーラ。やはりお前か」
「な、なんで分かったんですか〜!?」
はわはわと慌てる少女。
だが彼女の正体は勇者パーティの参謀格。
実質上のナンバー2。最も危険な存在だ。
「山の事件も港の爆発もお前の仕業か」
「そうですけどぉ〜」
「何であんな事をしたのですか!」
ラナが厳しく追求する。
ここまで怒りに満ちた彼女は久しぶりだ。
彼女ほど敏感ならわかるかもしれない。
ネムの内側に潜むドス黒さ。
深淵に潜む悪意の塊を。
「ダヌアさんを、蘇らせる為です……」
「それで蘇らせたのが、アレですか」
凍結して動かないダヌアのアンデッド。
それがマキナの言うアレだ。
確かに、見た目だけは辛うじてダヌアだ。
輪郭や髪質は近い。
服のように変化した皮膚もそれらしい。
しかし、それは外見だけだ。
正体は心なき傀儡と同じ。
命を求め、彷徨うシカバネ。
これを果たして、ダヌアと呼べるのか?
「あと4000人分で完全復活なんです〜!」
……正気か?
4000人もの命を犠牲にするつもりか?
やはり狂っている。
彼女はまともではない。
どれだけの命を費やして来た。
お前にとって、他の命は何なんだ。
「これは勇者様に命じられたのか?」
「い、いえ! 勇者様には"お前の自由にしろ"って言われまして〜!」
自由にしろ、か。
ネムを動かすには最高の言葉かもしれない。
ネム——彼女は自主性が欠如している。
そんな彼女に自由を強いるのだ。
何が起こるのか、勇者様は楽しみだろう。
その結果がこの惨状だ。
「ダヌアさんの死で〜……気づいたんです」
ネムの顔が、ゆっくりと無表情になる。
ダヌアと同じく二面性のある人間だ。
だが、その種別はかなり異なる。
ダヌアは清楚の皮を被った性悪女。
それに比べてネムは、弱い皮を被った真性の悪魔といえよう。
彼女がたどり着いた自由とは何なのか。
俺も少し気になる。
「私、ダヌアさんが好きなんだって」
……マジか。
いや、好きと言ったって友人としてだろう。
上下関係はできてたけど仲良かったし。
「ダヌアさんの声、ダヌアさんの容姿、ダヌアさんの性格、服装、香り、癖、全部が好きです」
あ、これ恋愛だわ。
…………マジか。
正直趣味悪くないか?
声とか容姿はまだともかく。
性格が好きになる要素あるか?
「私、決めたんです。どんな手を使ってでもあの人を蘇らせるって。どんな手を使ってでも」
これが彼女の選んだ自由か。
俺が否定できるものではない。
何せ、これが彼女の自由意志だ。
だが、存在してはいけない意志だとわかる。
やはり彼女の思想は危険だ。
「村の皆さん、役場にいますよね〜?」
「……何故それを?」
「これ、アリクさんなら覚えてますよね〜」
それを表すように、彼女は淡々と脅迫を仕掛けてきた。その手に持っているのは港と同じ爆弾だ。
形状はマキナに報告済み。
つまり彼女も知っている事になる。
「——アリさん!」
「役場は任せた」
目配せしつつ会話を交わす。
恐らく彼女なら解除はできる。
それを信頼し、マキナを視線で見送った。
残ったのは俺とアビス、そしてラナ。
しかし、手にはまだ爆弾がある。
ネムの事だ。自爆しないとも限らない。
張り詰める空気。
俺は彼女と交渉を始める。
「何が目的だ?」
「まず召喚を全て解除してくださ〜い」
「わかった」
「当然、そこの暗黒竜と海魔もですよ〜」
「アリク様、この人!!」
ほんの一瞬、呼吸が詰まった。
アビスはまだバレてもわかる。
だが、何故ラナの正体を知っている?
理由は不明だが、今は従うしかない。
手を叩き、全ての召喚を解除する。
「私はあなたを侮らない」
「…………」
「だからこそ、あなたは生贄にふさわしい」
下調べは完璧という事か。
まだ誰にも話していない情報すら。
彼女は懐からナイフを出す。
ああ、なるほど。
最初から俺を生贄にする予定だったと。
恐らくダヌアへの餞別だろう。
彼女の死は少なからず俺も関わっている。
「死んでくださ〜い!」
無防備な俺に、ネムはナイフを振り上げた。
……そろそろ潮時か。
「今だ、サレイ」
顔を伏せたまま指示を出す。
すると、突如周囲の魔力が増大した。
かたや俺の頼れる俺の後輩。
かたや少し毒舌な後輩のパートナー。
物陰から、二人は颯爽と現れた。
「『武装召喚・弓矢』!!」
「なっ——!」
まあ予想よりかなり遅いが。
サレイの一矢は、彼女の右腕を掠める。
同時にその矢は爆弾を射抜く。
その瞬間、爆弾の魔力が消滅した。
一撃で爆弾を解除とは、何だあの矢は?
「俺が無策に召喚術を解くと思うか?」
「ねぇ聞いて! こいつ全然起きねーの!」
「スマン先輩!!」
サレイとリーヴァ。
影の濃くない協力者だと思ったが、最後の最後でとんでもない活躍をしてくれた。
俺にも幾つか策はあった。
それこそ片手の指程度には。
だが、これほど楽なものはない。
一転劣勢になったネム。
そんな彼女にリーヴァの言葉が突き刺さる。
「そこのクソチビ性悪サイコ僧侶」
「ひ、ひどい!!」
言い過ぎ……か?
だいたいあってる気もするが。
まあ、語りは彼女に任せよう。
たった今放たれた矢が、普通の攻撃ではない事なんて見なくてもよくわかる。
「今の矢は、触れたら数十年は魔術を使えない呪いの矢。まあ一本限りだけど」
「やってくれましたね〜……!」
一本限りの矢を今この場面で使って良いのか? おかげでかなり助かりはしたが。
矢の呪いが傷口から広がっていく。
ネムもそれに気づいたようだ。
彼女の顔から表情が消えた。
……まただ、嫌な予感がする。
「ここは痛み分けです」
「ネム、一体何を」
「私は必ず、理想を遂げてみせます」
彼女はとんでもない行動に出た。
傷ついた右腕を、ナイフで裂いたのだ。
飛び散る鮮血。
しかし表情は一切変えない。
それと同時に、彼女は超高速で飛び去った。
あの魔力……宝石か。
まだ隠し持っていたか。
「腕を切り落とした、だと!?」
それ以上にこの惨状だ。
もはや彼女の姿は見えない。
残されたのは傷ついた右腕だけ。
彼女は俺を侮らないと言っていた。
だが、俺はアイツを侮っていた。
ここまでやる程の胆力とは。
恐らく彼女は、再び俺の前に立ち塞がる。
謎の確信が腕と共に残されていた。
ごめんなさい! 本日の投稿は1話だけです!
明日明後日はしっかり2話投稿いたしますので、どうかお許しください……!!





