呪術って知ってます? byゴーレムマスター
4章を大幅に改稿いたしました。活動報告に詳細を乗せておりますのでよろしければご一読ください。
「召喚術の源流だからな」
「流石ですアリさん」
港での夜、土人形越しにマキナと話す。
呪術とは簡単に言えば魔術の原点だ。
人を傷つけるため、人を殺すための術。
その為に他者の命すら巻き込む危険な術。
それが呪術という存在だ。
ただしそのぶん、世間一般で使われる魔術以上の効果を発揮する事もよくある。
召喚術も、近代魔術より呪術に近い。
「確かサレイも呪術が云々って言ってたな」
「そのサイさんは?」
「別の部屋取ったから寝てると思う」
「そうでしたか。ではこの寝息はラナさん」
「え、聞こえるのか?」
だいぶ小さな音のはずだが。
ゴーレムの集音能力、侮れない。
そういえば、宝石はどうなったのだろう。
「ざっと調べたので、村に戻りました」
「早いな、2日経ってないぞ?」
さすがはマキナと言ったところか。
研究者の手際の良さ、侮れない。
まさか2日で終わるとは思わなかったが。
確かシーシャも歴史学は強そうだったし。
彼女たちの専門領域という事か。
「それでアンタの見解は?」
「リーヴァ、何でお前ここに?」
「バカが先に寝て暇なの」
「なるほど文字通りNTr……」
「違うわ」
寝るの早くないかサレイ。
まだ夜もそんな更けてないのに。
お陰で俺のいじりネタが増やされた。
「山を確かめに行って参りまして」
「何か新しい物でも見つかったか?」
「はい、呪術の文様がいくつか」
やはり呪術か。
恐らく犯人は同一人物で間違いない。
と言うのも、港にも同じ文様があった。
もう一つの石が置いてあった場所だ。
窓を気で遮蔽され、光のない客室。
謎の塗料で部屋中を真っ黒にされ、そこに白い粉のようなもので魔法陣が刻まれていた。
かなり不気味な光景である。
「それって吸魂の呪術じゃなかった?」
「はいそうですけど」
「やっぱりね」
リーヴァがしたり顔で微笑む。
いわゆるドヤ顔というやつだな。
「専攻とは少し違うけど、まあこの世で一番呪術に詳しいと思ってる」
「この世で一番……大きく出たな」
「最強召喚術師がよく言うわ」
ちょいちょい痛いところを突いてくる。
仕方ないだろ、みんなの評価なんだから。
実際、あの部屋に呪術のが仕掛けられていると気づいたのは彼女だ。大口を叩いているが信頼はできる。
「あの山も、動植物が大量に殺されてる」
「動植物相手に吸魂するのか」
「まあ命はありますからね」
「爆発事件で死者は出なかったけど、負傷者からも少しなら吸魂のはできるわ」
結論とまで行かないが、答えは見えてきた。
それをリーヴァが口にする。
「犯人は、莫大な力を欲している」
「カケラじゃ足りないような量の力を?」
「あの石じゃ呪術はうまく機能しないし」
「集めてどうするつもりでしょう」
「さあ? そこまではわからない」
俺にも気になる事が一つある。
勇者パーティに呪術使いがいない事だ。
勇者様は嗜み程度に使えるらしいが。
なら、今回の犯人は勇者様なのか?
それにしては慎重さに欠ける。
だが、ダヌアが使えないはずの召喚術を使った前例が今はある。
呪術も同じ原理なのか?
「ともかく、石の回収はできた」
「お疲れ様です」
「明日には俺も村に戻ろう」
「観光してきても良いのですよ?」
「一応有事だ、そんな暇はない」
事件が解決するまでは気を抜けない。
観光ならそのあとゆっくりやろう。
「……あれ?」
「どうした」
「少し外が騒がしいです。見てきますね」
マキナの声が遠のいていく。
一体何があったのだろう。
耳を澄ませ、向こうの後に神経を寄せる。
こちらの小さな寝息も聞こえるなら、あちらの騒ぎくらい聞こえるだろう。
……確かに騒がしい。
悲鳴のようなものが聞こえる。
マキナの慌てるような様子もわかる。
普通ではない様子、俺は彼女は問いかけた。
「何かあったか?」
「村で何者かが暴れてます!」
「またオークか?」
「違います、黒い人影みたいなものが!」
黒い人影?
という事は単独犯か。
一人で騒ぎを作る程の力の持ち主。
そんな人物、村にはいない。
一体、ゴーレム越しで何が起きている?
「ボク、戦ってきます」
それだけを言い残し通話は途絶えた。
こうしてはいられない。
リーヴァと俺は、素早く行動を起こした。
「ラナ起きろ、緊急事態だ」
「んにゃ……緊急?」
「村が何かに襲われてる。帰るぞ」
寝起きの悪いラナも一言で目を覚ます。
俺の気迫が伝わったのだろう。
荷物を整え宿から飛び出す。
リーヴァはまだ準備が整わないようだ。
「『移動召喚・アビス』」
村に残っていたアビスを呼び出す。
やはり彼女も異変を目撃したらしい。
ヒトデ態へと姿を変え、俺とラナを乗せる。
「サレイ起こしてくる!」
「俺たちは先に行く。宿の前にガルーダを召喚しておくから任せたぞ」
「わかった!!」
……嫌な予感がする。
村人達は無事か?
マキナは無事なのか?
アビスも最高速を叩き出している。
考える暇はない。
覚悟を決め、俺は夜空を切り裂いた。
次回投稿は18時or22時! お楽しみに!
次回からは通常投稿です!





