辺境村の英雄になりました
「村を救って下さった英雄です! さあ、たんと楽しんでください!」
村長が楽しげに語る。
目の前には豪勢な料理が並べられていた。
「この豚の丸焼きって」
「我が村の名産品です!」
よかった、オークではないようだ。
久々のマトモなご飯だ……有り難い。
というわけで、小さな村の英雄になった。
ただオークの軍団を倒しただけなのだが、ここまで豪勢にもてなしを受けるとは。
「スライムサイコー!!」
「俺、スライム嫁にするわ」
スライムは全て召喚解除する予定だった。
しかし一部の村人がハマってしまったようなので、数匹分の使役権をプレゼントした。
スライム嫁にしたい村人さんは……まあ世間にはスライム娘とかいう都市伝説もあるし、愛情を込めて育ててあげてください。
応えるかはわからないけど。
そして俺が使役している暗黒龍といえば。
「うまい! うまいでふよこれ!」
出されたご馳走を次々に平らげていく。
俺に出された料理なんだけどなぁ。
まあいいか、ドラゴンなのにしっかり食事とれてなかったし。
俺はちまちま野菜をつまむ。
あ、美味しい。
「旅のかた、どうされました?」
「のんびり食べるのが好きなので」
「ははぁ……比べてお連れのかたは」
「あとで叱っておきます」
少し食べ方が乱雑だ。
バーバリアンでもまだ丁寧に食べるぞ。
このまま人間態を続けるなら、マナーの躾もしっかりしないとな。
「なぜ、このような街にお二人で?」
「それは……」
話が弾み、村人が問いかけてきた。
クズ勇者にパーティ追い出されました!
……と、本当の事を言うべきなのだろうか?
クズでも勇者は勇者。
一般人からすれば難事を解決してくれるヒーローのようなものだ。
そんな勇者像を、壊しても良いのだろうか?
「パーティメンバーと揉めまして、それで」
「はあ、優しそうなお方なのに」
少しだけ嘘をついた。
罪悪感はあまりないが、鬱屈は感じる。
覚えてろよ勇者様、この鬱屈もいつか返してやるからな。
「旅のアテはございますか?」
「実はそれがまだ」
「それでしたら……」
* * * * * * * * * *
「村に住まないかって誘われた」
『本当ですか!?』
宴の後、俺は念願の布団に横になった。
しかし寝付けず、結局未だ起きている。
ただ起きているのも勿体無いので、ラナの変身を解いて背中に身を任せていた。
彼女は俺を背中に乗せ、夜の領地を飛ぶ。
遥か遠くに見える中心部の街並みには、未だ明かりがともっている。
ひんやりとした鱗と風が気持ちいい。
景色も最高だ。
『で、話は受けたのですか?』
「どうしよっかなー」
唐突に出た話題だったので考えていない。
というかソロ旅を始めたばかりなのに、いきなり定住を決めて良いものなのだろうかと悩む。
確かに、様々な面で環境は整っている。
交通の便も召喚獣でクリアできる。
暗黒龍レベルだと居住区に近づいただけで大騒ぎだが。
『でも、予定決めてないんですよね?』
「まあいつか決まると思って」
『ならここを一時拠点ってことにしませんか!?』
一時拠点か、なかなか良いかもしれない。
疲れを癒せる場所は欲しい。
落ち着いて眠れるのは大切だ。
「そんなに気に入ったのか?」
『はい! 草原で羽根も伸ばせますし』
そこまで褒めるなら、ここを最初の拠点にするのも悪くない。よし、明日早速村長に掛け合ってみよう。
『楽しみですねぇ……ふぁぁ』
「眠いんならもう着陸するか?」
話し込んで長時間飛んでしまった。
暗黒龍の体力は無尽蔵だが、睡眠欲には抗えないらしい。
召喚した時はよく寝てるし。
帰ろうと呼びかけるも、返事が乏しい。
すごく嫌な予感がする。
『は、大丈夫れすって……んふぅ』
「高度落ちてるんだけど」
『えぇ? ぶっ飛ばしますぅ?』
「違う違う! 言ってない!」
『ふぇへへ、行きますよぅー!』
「止まれぇぇえええ!!」
* * * * * * * * * *
「オークの次はドラゴンだって、怖いわねぇ」
「飛び去ったみたいだからいいけど……」
「旅のかた、ドラゴンについては」
「「ごめんなさい」」
「は?」
正体はラナです。
本当にごめんなさい。





