主人公性能モリモリの後輩、現る
「何だこの量」
『————?』
「いや、気にすんなアビス」
超上空から眼下を眺める。
村長から山の様子がおかしいと聞き、調査に来た次第だ。そして確かにおかしい。
何だあのモンスターの群れは。
基本的にはオオカミと猪系が多い。
いや、それにしてもだ。
偵察のために数羽のカラスを飛ばす。
一羽はマキナの視界と繋げてある。
「マキナ、カラスの映像は見えるか?」
「はい。凄いですねこの技術」
「そこじゃなくて山!」
今は小ボケをかます暇ないだろ。
割と大惨事だぞ。
モンスター達のせいで、山の一部が禿げ上がってしまっている。
これだけでも被害は甚大だ。
もしこれが人里に降りたなら……。
「中心に魔力の塊があります」
「わかった、近寄ってみる」
一匹ずつが雑魚でも、量が量だ。
近付いて巻き込まれたら流されかねない
細心の注意を払い、上空から偵察する。
……と言ってもこの規模だ。
いまいち中心が分かりづらい。
だが、何とかその原因は把握できた。
「雑な召喚陣だな」
それなりに巨大な召喚陣。
しかし、何をしたいんだか。
詠唱もまともにされた形跡がない。
モンスター達はここから湧き出ている。
魔力だけは膨大にあるようだ。
「アリさ……え? はい?」
「どうしたマキナ?」
「えーっと、召喚術師を名乗る人が代わってほしいと」
召喚術師を名乗る者?
何だそれ、怪しすぎる。
というか何でマキナのとこにいる?
アイツとラナは役場の対策室にいるはずだ。
ここから走ってもそれなりの距離がある。
一応コンタクトは取ろう。
「もしもし」
「どうもです」
「何者だ?」
「えー、ちょっとショック」
男の声、あまり敵意は感じない。
だが妙に馴れ馴れしいな。
勇者様の関係者、ではないな。
あのパーティはもう勇者様以外女性だけで固まってるはずだ。追加メンバーがなければ。
「この召喚陣はお前が?」
「いや、さっきそこ通り抜けたんで」
んー……は?
今聞き流しかけたが、凄いこと言ったな。
このモンスターの群れを通り抜けた?
空を通るならまだしも地上を?
流石に生身ではないよな?
モンスターを使えばワンチャン。
S級でなくともA級くらいなら。
「中心の召喚陣、動力は妙な石です」
「石? もしかして白濁色の?」
「そうそうそれ、さっすが」
「まあ、わかった」
石と聞いて尋ねたが、最悪の返答だ。
ってことはこの付近にいるのか、勇者パーティが。何でこんな辺境の村に。
……またまた尻拭いか。3度目だぞ。
「『合成されし幻獣よ、暴れ狂え』」
まずは雑魚の一掃だ。
獰猛かつ巨大なモンスター、キマイラ。
地上での雑魚戦はコイツが適材だ。
久々にラナを召喚した時も同じような群れと戦ったが、正直オーバーパワー過ぎた。
丁度良い、召喚術師はもう一人いる。
彼にも協力を仰ごう。
「召喚術師聞こえるか?」
「ん、なんかありました?」
「俺が突破口を開ける。だからお前が処理してくれないか?」
完全にモンスターを散らせるのは短時間。
俺が行くのもいいが少し面倒だ。
指示だけではなく働いてもらおうか。
「まだ普通の召喚陣操れないんすよねー……」
衝撃的すぎる返答が来た。
召喚陣を操れない?
モンスター召喚できないじゃん。
待て、ということはこの群れを生身で突破したのか? それもう召喚術師じゃなくてよくね?
「お前本当に召喚術師なのか?」
「知ってるっしょ先輩なら俺の弱点!」
「はぁ……ん? 先輩?」
呆れてため息を吐く。
と同時に、彼の言葉に懐かしさを覚えた。
知ってるぞ、俺はコイツの事。
この世でたった一人、何故か俺を先輩呼びする男の事を。軽い態度の男の存在を。
「お前まさか、サレイか?」
「マジで忘れてた!?」
「スマン! わからなかった!」
チキショーどう反応すればいい。
久々の再会だ。
なのに全然感動できない。
そして全てに合点がいった。
コイツなら生身でモンスターの群れを通過する程度、やってのけてもおかしくない。
コイツはそういう奴なのだ。
「よし、どっちにしろこい!」
「今から向かいます!」
当然のようにサレイ言う。
役場からここまで結構ある。
飛行手段がなければ時間を食う地形だ。
だがまあ、コイツなら一瞬だろ。
当たり前すぎて楽観視してしまう。
「『武装召喚・バスターソード』!」
ほーら、詠唱が聞こえた。
遠くから見れば一つの点。
なのに存在感がとてつもない。
一つの点が群れに飛び込むと同時に、そこから道が開かれていく。キマイラよりも撃破数は多そうだ。
「相変わらずかっけーな……」
『————?』
「男のロマンって奴だ」
アビスが一番覚えなくていい言葉を使う。
だってカッコ良すぎるだろ。
召喚し、肩に担いで巨大な剣。
それを使って雑魚モンスター相手にバッタバッタと無双をかます。
ロマンしかない。
「キマイラに乗れ、サレイ!」
「サンキュー先輩!」
使役権を一時的にサレイへと譲渡する。
キマイラの背に乗り、自在に操ってモンスターを蹴散らしていく。
まさに鬼に金棒。
おかげで中心への道もガラ空きだ。
アビスを駆り、瞬時に中心へ向かう。
「『召喚陣解除!』」
石を取り除いて魔力源を絶つ。
それと同時に、モンスター達は姿を消した。
無事に解除できたようだ。
…………さて。
「お前何でここに?」
「まーまー諸事情あって」
軽く会話を交わす。
やっぱり昔と何も変わらないようだ。
その強さも、その軽々しい態度も。
そうしているうちに、遠くからマキナが走って来た。結果の報告もしなきゃな。
「なんとか収まった」
「いや、それは良いんですが……アリクさん、彼は一体?」
「あ、あぁ……」
いや、どう紹介すればいいものか。
正直表面的には俺とそっくりだと思う。
だが、内面がまるっと違う。
一応俺との関係とあの事だけは話しておくか。何よりの特徴だし。
「サレイ・ウォム。召喚術師仲間で——」
「世界で唯一、武装しか召喚できない術師だ」





