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モンスター定期契約更新会

 

 今年もこの日がやって来た。

 召喚術師として一番面倒臭い日。

 だが召喚術師として重要な日。


 身支度を整え、礼装を纏う。

 召喚術師の正装だ。



 召喚術に必要なものは主に二つ。

 召喚陣と適量の魔力だ。


 しかしそれらと同等に重要なものもある。

 シーシャのドラゴンゾンビの件。

 そしてダヌアの暗黒龍の件。

 この二つに共通する要素。


 信頼関係、または縁だ。


「『出でよ、強く賢き地霊よ』」


 ホブゴブリンから始める。


『なんのご用ですかねー』

『どうしましたかなー』

「アレだ、年一の」


 これだけで伝わってくれるから楽だ。


 改めて、信頼関係には二つある。

 例えばラナのような、純粋な仲の良さ。

 最近だとアビスもコレだ。


 このタイプは所謂"永年契約"となる。

 信頼で結ばれ、術者が死ぬまで無償で召喚に応じてくれる者を指す。


 実際にこんな用語は存在しないが。


「今年も対価は例年通りでいいか?」

『お願いしますねー』

『ホブゴブリン一同で協力しますなー』


 そしてもう一つがこのタイプだ。

 対価や代償を持って使役に応じる者。

 ある意味わかりやすい関係性。


 それが"定期契約"だ。


「そんじゃ、今年も頼む」

『わかりましたねー』

『今年もよろしくなー』


 今日は定期契約の更新日。

 大量のモンスターと交渉する日だ。

 数が数だけに、疲労は必至だ。



 * * * * * * * * * *



「『肥えた蛮族よ、剛腕を奮え』」


 召喚に応じ、緑色の肥満体巨漢が現れる。


 ジャイアント・オークのウィル。

 初めて定期契約を交わしたモンスター。

 かなり古い付き合いになる。


『どうした?』

「契約更新の更新」


 地を這うような声とは裏腹の軽い態度。

 勇者パーティ時代にも召喚していた歴戦のオークだ。ただしそこまで強くない。


 だが、そのぶん仲が良い。

 半分永年契約のようなものではある。


「契約内容はいつも通りでいいか?」

『ああ、すまんな』

「いいっていいって。金は必要だろ?」


 対価は一定量のお金。

 他人から見れば下賤に見えるだろう。


 だが、彼の本質は正反対だ。


「計画はどんな感じだ?」

『ああ、やっと五つ目の拠点を作れた。これでガキ共にもっと飯を食わせてやれる』


 彼は契約の報酬で配給所を作っている。

 一人でも多くの子供を満腹にさせる為に。


 つまり、めっちゃいい奴だ。


『とっとと帰ったほうがいいだろ?』

「え、何でだ?」

『この村、オークに襲われたって』

「あー……そうだな、スマン」

『しかたねーよ』


 ……ホントいい奴。



 * * * * * * * * * *



『更新辞退させて頂きます』

「え、マジか」


 続いてアルラウネ、植物の精霊だ。

 精霊の中ではかなりの上位種、なのだが。


「失礼を承知だが、理由聞いていいか?」

『えーっと……』


 彼女は少し言い淀む。

 それほど話しにくい事柄なのか?

 しかし、マイナスな感情は感じられない。


 むしろ幸福感というか。

 微笑みながら、自らの腹を撫でている。


 ……あ、ひょっとして。


「まさか、赤ちゃん?」

『おかげさまで』


 そうだ、彼女は既婚者だった。

 彼女の恋を応援した事はよく覚えている。


 それなら仕方ない。

 どんな理由であれ、契約の破棄を断れる権限など俺には無いのだが。


「確か旦那さん人間だったよな?」

『はい。人間の生殖行為で妊娠できて』

「人間の……」


 まあ、そうなるわな。

 しっかり聞くと少し恥ずかしいが。


『知り合いに召喚術に興味のある子が』

「アルラウネでか?」

『はい、紹介しましょうか?』

「ぜひ頼む」


 さすがしっかり者。

 いいお母さんにもなってほしい。


 紹介してくれる子との日程を軽く話す。

 これにて彼女の面談は終了だ。


『では、今までありがとうございました』

「お子さん産まれたら顔見せてくれ」

『はい!』



 * * * * * * * * * *



「『妖艶な夢魔よ、下卑た雄を誑かせ』」


 最後までかなり近づいてきた。

 そして、ここにきて一番の厄介者だ。


「出てこい引き篭もり!」

『いーーやぁーー!』


 召喚陣に手を突っ込んで引き摺り出す。

 普通なら絶対にしない行為だ。


 だが、彼女相手には慣れたものだ。

 手探りで角を掴み、引っ張り上げる。

 そしてそのまま地面へ放り投げる。


 ……まあ少しは心苦しい。


「リッカ、契約更新の時間だ」


 夢魔、もしくは淫魔。

 サキュバスと呼ばれる種族だ。


 純粋なパワーは無いが、幻術系を得意とする下級とは思えない潜在力のモンスター。

 彼女もその一人である。


 俺も度々その力は使わせてもらっている。

 ……あ、もちろん戦闘などでだ。

 いやらしい意味合いはない。


『えっと、それがちょっと』

「ん? どうした?」


 程よく成熟した黄金律の肉体。

 それを台無しにするだらしない服装。


 常時発動されている"魅惑"があるはずなのに、異様に冷静を保てている。

 何だろう、この残念な気分。


『実は先日、家族が体壊しまして』

「ふむふむ」

『家の働き手がいなくなっちゃって』

「ほうほう」


 彼女の言葉を聞き流す。

 本当ならかなり深刻な内容だ。

 だが、正直もう聞き飽きた。

 もうこの茶番も何度目かわからない。


「そのご家族から、今朝手紙貰ってな」

『なぁっ!?』

「いつも娘をありがとうございます。最近は少し活発になり、家にいる時は召喚術師様の事ばかり——」

『いーーーやぁーーー!!!』


 そのため、早々にカウンターを使う。

 彼女は特殊で、ご家族から定期契約を結ぶよう言われているのだ。


 理由は社会に馴染むため。

 まあ今でも十分な気がするが。


「俺の事って何話してんだ?」

『そ、それは……』

「ま、どうせ愚痴だろうな」

『ち、違っ!』


 リッカが慌てふためく。

 そんなにひどい愚痴を言っているのか。

 傷つくな、少し。


「ほら、更新するぞ」

『言っとくけど私、あなたとしか……』

「何だ?」

『……別に、何でも』



 * * * * * * * * * *



『お、終わってたか』

『お疲れ様です』


 畑から帰ってきた金銀姉妹に労われる。

 朝始めたのに、もう夕暮れだ。

 よく喋った。


「……そういえばさ」

『ん? どうした?』


 定期契約の更新日。

 丁度いい機会だ、聞いてみたい事がある。


「お前らは何で召喚に応じてくれるんだ?」

『え、何で……ですか?』

「信頼も高くないし、対価も無いのに」


 そう、何故だか彼女達は例外的に召喚に応じてくれている。その理由を一度も聞いた事はない。


『何でってそりゃ』

『楽しいから、よね?』


 ……えらく軽い理由だな。

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