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疲労困憊の閉幕式

 

 微睡みの中、俺達は列車に揺られていた。

 行きは色々立て込み慌ただしかった。

 会場でも様々な事件に巻き込まれた。

 つまり、全員ヘトヘトなわけだ。


「シーシャ様とラナさん寝てしまいました」

「アビスは景色見て楽しいか?」

「————ん」


 アビスはともかく、マキナも多忙だった。

 無理して起きてはいないだろうか?

 サンドイッチをつまみながら心配する。


 ……これもこれでうまいわ。

 なにあの領地、美食の都?


「勲章、似合ってますね」

「……あんま似合って欲しくないな」

「何故です? 大勢を救ったのですよ?」


 万博を襲ったダヌア・マヒートの騒動。

 これは会場と街の一部破壊、そして首謀者死亡という被害で何とか収集がついた。


 俺はこの騒動を鎮めたとして表彰された。

 暗黒龍を撃退した召喚術師として。

 正直、受章を一度は断った。


 破壊を止めたのは龍皇の意思。

 それを説得したのはラナ。


 なのに、俺がヒーロー扱いというのは少し憚られるものがあった。


「あの場には英雄が必要でした」

「そんなもんかな……」

「そんなもんですよ。おかげで私も復興に参加できましたし」


 街は数日で元の姿を取り戻した。

 全ては魔術万博という祭典のおかげだ。

 何せ、世界各国の最新魔術がある。

 マキナのゴーレム学もその一つだ。


 パズルみたいに街が復元されていく。

 あの光景はまさに幻想的だった。

 あんな事、召喚術じゃ真似できない。


「まあ、責任税ってやつですよ」

「責任税?」

「人々を守った責任です。贅沢な税ですよ」


 いまいちよくわからない。どういう事だ?


 ……まあいいか。

 こいつの言動は今に始まった事じゃない。

 ある程度ニュアンスならわかったし。



「……聞くかどうか悩むのですが」

「ん、何だ?」

「勇者パーティの、事について」

「あー」


 ダヌアの素性は明かされなかった。

 理由は不明。予め根回しをしたのだろうか。


「何というか、ここまで悪辣とは」

「魔術師さんはなんであんな暴挙に?」

「……わからない」


 彼女の口から、その心内は明かされた。

 だがそれが全てとは到底思えない。

 あまりにも薄っぺらすぎる。


 勇者様は僅かに人心掌握ができる。

 俺がなかなか抜けられなかったのも、人心掌握の賜物だろう。

 それである程度誘導したと可能性もある。


 不安を煽り、この場に派遣する。

 結果が出なければお払い箱。

 まあ予想でしかないが。


 考えなくてもとんでもない組織だ。


「あの暗黒龍も言ってたんだ」

「一体何と?」

「宝石を持つ者に気をつけろと」


 彼が去る直前の言葉を思い出す。

 起こる事柄を予知しているかのようだった。

 龍皇には未来視の能力持ちなのだろうか。


 剣士が死に、盾の抜けた現パーティ。

 残ったのは勇者、戦士、僧侶、射手の四人。

 全員が宝石を持っていたとしたら。


「似たような事件が起きるのでしょうか?」

「その度に止めるのか……」


 そう考えるとただただ面倒だ。

 だが全員に仕返しすると決めたなら、いつか全員と向き合わなければいけない日も来るという事。


 その時が、彼らの企みとの答え合わせだ。



「そう言うお前はどうなんだよ」

「ボクですか?」

「発表して来たんだろ?」

「ああ、それですか……フフフ」


 俺の質問に、彼女は不敵に笑った。

 どうやら上手く行ったようだ。


「研究所の方々も来てたのですが、度肝抜いてました」

「それは痛快だな」

「前の私の論文を使用したらしくて」


 それは清々しいざまぁみろだ。

 研究所の連中は肝を冷やしただろう。

 そんな発見をポンポンできるマキナもマキナでとんでもない人物だが。


 近代魔術の次に大きいゴーレムブース。

 名前が売れたなら最高だな。


「でも、まだまだ夢には遠そうです」


 夢か、さすがは研究者。

 生活に根付いたゴーレム専攻なだけある。


 彼女の理想も社会を良くしていくだろう。

 それこそ今回の高速復興のように。

 やっぱり楽しみだ。こいつの活躍は。


「頑張れよ、応援してる」

「ありがとうございます……ふぁ」

「眠いのか?」

「……まあ」

「寝てもいいぞ、別に」


 軽い調子で言った俺がマズかった。

 マキナは何故か俺の隣に座りなおす。


 そして、当然のように俺は寄りかかって来た。土の匂いと不思議な甘い匂いが混ざっている。

 こんなの困惑するに決まってる。


「お、おい」

「いいって言ったはのアリクさんですよ」

「こういう事じゃねぇ」

「おやすみなさーい」


 そのまま彼女は俺の肩を枕にして寝た。

 まーた過度なスキンシップ……。

 ……俺も寝るか。


 こうして、万博は閉幕した。

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