時計塔の決戦 〜S級ドラゴン・暗黒龍登場〜
中心街の夜景を背に、ダヌアと再戦する。
「もう、逃げ場はないぞ」
「逃げ場ぁ? そんなのいらないんですぅ」
街を破壊しつつ逃走を続けたダヌア。
彼女は今、時計塔の頂上に自ら陣取った。
上にも下にももう逃げ場はない。
完全に追い詰められている。
ガルーダで周囲を旋回しながら、その様子をじっくりと伺う。
「あの変な像は召喚できませんよねぇ?」
「カース・トーテムか」
確かにあれはかなり特殊なモンスターだ。
地面に接していないと召喚できない。
対策はしていた、という事か。
下手に刺激するとシーシャが危ない。
人質がいる限り彼女優位でもある。
まずは保護が最優先だ。
「シーシャを離せ」
「殺したら離しますぅ」
「そいつは無関係だろ?」
「えーでもうざいですからねぇ」
シーシャを掴んだ触手を振る。
交渉ではどうにもならなそうだ。
実力行使しかないか。
「『幻想の大翼よ、天上を駆けよ』」
召喚したのは数頭のグリフォン。
最近いいとこ無しの彼らだが、おそらく今回は最高の狩場だろう。
そもそもが獰猛なモンスターだ。
ガルーダと違い、戦闘力にも長けている。
「羽虫を召喚して、どうするのですぅ?」
「……こうするんだよ」
合図の代わりに指を鳴らす。
それが狩猟の合図だ。
グリフォンには魔力を食う性質がある。
高魔力のモンスターを2、3頭で包囲。
ダメージを与え、魔力だけを食らう。
そんな彼らが余剰魔力の前でどう動くか。
「な、何!? 痛いっ!」
どうやら痛覚も繋がっているようだな。
しかも余剰魔力がどんなものかすら気づいていないようだ。専攻していない俺でも知っているのに。
余剰魔力は脆く、崩れやすい。
単純な破壊程度なら十分だ。
だが、天敵への対処法が極端に少ない。
「痛っ! やめなさっ! うぜぇんだよっ!」
「シーシャを救出しろ」
一頭に救出の命令を出す。
かなり雑にシーシャを振り回している。
酔っていないかが心配だ。
「きゃっ!!」
「あ、てめぇっ!」
大きく隙を作ったダヌアの触手から、シーシャがすっぽ抜ける。一瞬僅かに空中を飛び、ガルーダの背に乗った。
……少しひやっとした。
「も、もう少し丁寧に扱えないのかしら?」
「スマン、非常事態だった」
「……今回だけよ」
ともかく、これで形成逆転だ。
彼女の頼みの綱である人質もいない。
完全に追い詰められた時計塔の上。
ボロボロの余剰魔力を使うのは勝手だ。
だが、使えばグリフォンの猛攻が待っている。
「クソ、近代魔術なんて……」
漏れた言葉は俺にとっても不可解な事柄だ。
パーティ時代、彼女の専攻は宝石魔術だった。
それが何故か無理して近代魔術を使い、俺たちに襲いかかってきている。
その意図がよくわからない。
一体、なんのために?
「……私だって、使いたくないんですぅ」
独白が始まった。
「近代魔術はどんなバカでも強くなれる!! バカ共にどんなくだらねー魔術使ってるか知らしめる為に仕方なく使ってるんですぅ!」
……そんなお粗末な理由なのか?
いやいや流石にそんなはずはない。
魔術には無数の種類があるのだ。
確かに近代魔術は流行しているが、そんなの無限に存在する魔術の一つでしかない。
「そしたら勇者様がコレくれてぇ」
出してきたのは、小さな白濁の石。
何かの宝石だろうか。
「それ、無人島の!」
「そうよぉ! 魔力の詰まった宝石のカケラ!」
「あなた達、価値を知っているの!?」
「わかんないけどぉ、近代魔術使えるようになったしぃ」
リヴァイアサンを封印していたアレか。
盗み出したというのは本当だったか。
しかし、そのかけらということは……。
なんて勿体無いことを。
あんなサイズの宝石、もう採取できないぞ。
「代わりに剣士ちゃん死んだけどねぇ」
「……何?」
「言ってませんでしたっけぇ? アリクの後に盾ちゃんも抜けちゃってぇ、そのせいで守り役いなくなって死んじゃったのよねぇ」
盾が抜けて、剣士が死んだ。
という事は勇者パーティは残り五人か。
予想していなかったが、かなりボロボロだ。
それとも、そこまでして何か企んでいることでもあるのか?
魔術師を見殺しにするような事をして。
「まあ、こうなったら仕方ないわねぇ」
「まだ何かあるのか」
「だってほら、私ぃ……」
不敵に笑いながら、彼女は宝石を握りしめた。
「召喚術は試してないですからねぇ!」
魔力がデタラメに膨張する。
装置と石の相乗作用か。
しかし召喚術だと?
散々小馬鹿にして、今更使うのか?
しかもこんな莫大な魔力、召喚するとしたら極大の——!
「テメーが出すような雑魚モンスターは召喚しねぇ!! バケモノ出してテメーごと滅茶苦茶にしてやるよぉ!!」
それはお前達に見せていないだけだ。
「おい、やめろ」
「ビビってんのかぁ!?」
「そうじゃない、お前じゃ操れない」
「舐めんじゃねぇぞクソ召喚術師がァ!」
俺にとって見覚えのある召喚陣を展開する。
赤く発光する魔法陣の文字。
術者では扱えないという警告である。
しかし彼女はそれを無視する。
そして声高に、詠唱呪文を叫んだ。
「『漆黒の炎龍、来やがれ』!!」





