自分を有能だと思い込んだ三流魔法少女
「あら、そんな事があったの」
「まあ今は手立てがないけど」
「クク、そうでもないわよ」
「え?」
* * * * * * * * * *
と言うのが先日の夜に交わした会話。
まあ不透明なこと。
今日から万博会場は一般公開が開始する。
世界各国から最先端の魔術を見ようと様々な人たちが集まってくるのだ。
経済効果はおそらく莫大だろう。
シーシャが開催させたがるのも納得だ。
そして今朝、マキナとラナも到着した。
混み合う関所と鉄道付近。
二人を探すのも一苦労だった。
「ボクはゴーレムブースにいますので」
「おう、頑張れよ」
「当然です」
俺とラナ、アビスの三人? で二人を送る。
残った俺たちは当然自由時間だ。
という事で、俺はシーシャから教えてもらった情報を頼りに近代魔術ブースへ向かう。
ラナとアビスも後をついて来た。
「近代魔術ってアリク様の苦手分野では?」
「でも用はあるんだよ……ここか」
さすが今の主流なだけのことはある。
ブースのサイズが他の2倍近いな。
古代の魔術を効率よく改造した魔術。
当然、召喚術もその中に入る。
ダヌアの専攻も近代魔術だ。
「ようこそ、近代魔術ブースへ」
「戦闘体験会に来たんだけど」
「……左様でございますか。こちらへ」
少々の沈黙の後、俺たちは案内された。
恐らく何のことかピンと来なかったのだろう。
「魔術の専攻は?」
「召喚術だ」
「左様でございますか。召喚術……」
あ、馬鹿にしてるなこいつ。
後でで赤っ恥かいても知らねーぞ。
……その恥を味わってもらいに来たからな。
「準備が整いました、さあこちらへ」
「お前ら外で待っててくれ」
「わっかりました!」
「————ん」
別れを告げ、青い照明のトンネルを潜る。
近代魔術らしい、冷たい印象だ。
決して近代魔術が嫌いという事はない。
照明の発展も、近代魔術のおかげだ。
だが、最近の行き過ぎた進化が体に合わない。
召喚術で事足りるというのもあるが。
「えーどうも、近代魔術を研究しておりますマルガルドと申します。本日は有志の対戦相手を募集し、近代魔術のエキスパートと戦っていただこうと思います」
もうすぐ会場。
アナウンスが俺の立場を教えてくれる。
つまりこれはデモンストレーション。
近代魔術の宣伝である。
これに飛び込み参加枠があるとは。
シーシャに教えてもらい初めて気づいた。
「お相手の名前はアリク・エルさんです」
「よろしくお願いします」
「何でもアリクさんは召喚術の専攻と」
「ええ、モンスターが好きなので」
軽く挨拶を交わす。
この人は別に悪そうな雰囲気がしない。
だが、部屋の向かいから殺気を感じる。
ほら来てやったぞ。
お前が言っていた通りに。
「ではダヌア君」
「……はぁい」
ねっとりとした言葉が室内に響く。
狭い部屋の四隅を透明な壁で仕切り、様々な方向からかなりの見学客が眺めている。
大型は召喚しないほうがいいな。
「よろしくねぇ、クソ雑魚くん」
「こらダヌア君! 失礼しました若いのが」
「いえいえ……大丈夫です」
教授らしき人の謝罪を受け取る。
「『白き骸達よ、働け』」
ダヌアの臨戦態勢を確認し、召喚する。
彼女にとっては見慣れたスケルトン。
それを十体召喚する。
「相変わらず気持ち悪ぅい」
「かっこいいの間違いだろ?」
「……チッ、うぜぇ」
悪口から、右腕を一薙ぎ。それだけでスケルトンの半数は消滅した。
無詠唱の風系魔法か。
それなりに使えそうじゃないか。
「『小さな精霊達よ』」
繰り返し馴染み深いモンスター。
散々戦闘で見せた雑魚、ドワーフだ。
「……ナメんなよ」
「…………」
「あぁもう! 鬱陶しい!!」
まあ見た目と属性が変わっただけ。
戦闘力はあまり変わらない。
ただし今回召喚した数は数十。
狭い室内をドワーフとスケルトンが埋め尽くす。
腹も立っただろう。
「テメェもっと強ェモンスター出せんだろ!? 全部ねじ伏せてやんよ!!」
「…………」
「ダヌア君、落ち着いて!」
「ウッセェなクソジジィ!!」
ほら、俺の予想通り。
全て処理した途端、雇い主にこの態度だ。
思い通りにならないとすぐ口が悪くなる。
もっと強いモンスターがご所望か。
なら、それに応えてあげよう。
「『可愛らしきスライムよ——』」
「あーもうわかりましたよぅ」
俺の詠唱に、怒りを通り越して呆れたか。
「教授、死亡事故起きちゃうかも」
「ダヌア君!?」
でも、それで良いのか?
「『——顕現せよ』」
詠唱は最後まで聴くものだぞ?
「『火遊び』!!」
大火力の炎系魔術が室内を覆い尽くした。発言通り、本当に殺しに来たらしい。
だが、非常に残念だ。
今回召喚したスライムは少々特別製。
極大召喚陣を必要とする。
「は……!?」
必殺の業火が消えた瞬間、彼女は驚愕した。
当然の反応だろう。
何せ完全に無傷な俺と小さなスライム一匹が彼女の眼前にいるのだから。
『お久しぶりでございやす、親父』
「その呼び方やめて」
『そんでは……兄貴?』
……相変わらずむず痒くなる台詞回しだ。
しかもやけにダンディ声で喋りやがる。
そう、このスライム喋るのだ。
個人的な趣味で鍛えた一匹のスライム。
それがこいつの正体だ。
「は、はは、そうでしたねぇ、スライムは水属性でしねぇ」
『確かに水属性でごさいやすが』
「いいんだ、本気で戦って構わない」
『……わかりやした』
全属性攻撃完全耐性。
確実に先手をとれるスピード。
何年を込め続けた、莫大な魔力。
全てS級モンスターと引けを取らない。
ある意味男のロマンだ。
「『ビリビリ』!!」
『簡略化しすぎってのも、どうなんだか』
「俺もそう思う」
弱点属性も通用しない。
傷一つつかないのは当たり前だ。
しかも簡略化で威力は落ちていた。
攻撃終了に合わせ、スライムは跳ねる。
「ぶっ……!!!」
カウンター気味の一撃。
この攻撃が彼女の意識をかなり削った。
『大丈夫ですかい? お嬢さん』
「キメェよ……スライムが喋りやがって」
『辛辣なお言葉だ』
心配の言葉を無視し、彼女は動く。
最後に彼女が何をやろうとしたのかはわからない。手をかざし、口を大きく動かしている。
だが彼女が何かする前に。
『お眠りなせぇ、お嬢さん』
彼の二撃目が、彼女の腹にめり込んだ。
「あ、ァ……」
意識が落ちた彼女をスライムは受け止める。
あーもう、このスライム本当ダンディ。





