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勇者パーティの嫌味系魔術師

 

 朝食を終え、シーシャを送り出した。

 途端にアビスと俺は暇になる。

 今日は特に手伝う事も無いらしい。


 手元に一応鍵はある。

 彼女の帰りは夕方過ぎ。

 それまで室内で時間を潰すのは……難しい。

 いつもなら畑を手入れしている時間だ。


 今日は会場自体には入れない。

 明日からの一般公開に備えてだろう。


「——ん」

「どうしたアビス」

「————おみ、せ」


 窓からアビスが指差す場所を見る。

 彼女のいう通り、そこには出店(でみせ)が所狭しと立ち並び、活気にあふれていた。


 ……おいおい嘘だろ。

 昨日あんなに食べたじゃないか。

 それなのに、また食べ歩きするのか?


 残念ながら、唇の端には涎が輝く。

 何かを食べる気満々だ。


「……行くか」

「——ん」


 まあ、ここにいても退屈なだけだ。

 鍵とかなり軽くなった財布を手に取り、部屋を後にする。

 ……こりゃマジで金欠だな。



 * * * * * * * * * *



 出店街へとやって来た。

 予想はしていたが、なかなかの喧騒だ。

 さまざまな料理の匂いが混じり合っている。

 匂いだけで胃もたれを起こしそうだ。


 だがアビスはどうも違うらしい。

 何せこれだけの中から飯が選べるのだ。

 宿のバイキングですら興奮していた彼女にとっては、まさに桃源郷だろう。


「一人で行ってくるか?」

「——ん」

「ここにいるから、迷うなよ?」

「————ん」


 ある程度お金を持たせ、彼女を見送る。

 お使い関連はクリアできたし大丈夫だろう。

 のんびりアビスの帰りを待とう。



 ……不意に、殺気を感じた。

 この人海の中、俺だけを狙う鋭い殺気。

 唐突な事態に少しだけ反応が遅れる。

 気のせいではない。狙われている。


 一体誰に? 何処から?

 警戒していると、不意に背後から声がした。


「『かげふみ』」


 呪文だ。

 魔術の詠唱呪文が耳元で聞こえた。

『かげふみ』と言えば、相手の肉体を拘束する魔術の上位種にあたる。


「『呪縛払う石像よ、出土せよ』」


 咄嗟に俺も召喚陣を展開する。

 地面を突き破るように、木製の塔が現れる。


 カース・トーテム。

 他者のあらゆる魔術を一時的に封印する命無きモンスターである。

 これがある限り『かげふみ』も使えない。


 そして俺は思い出す。

 先ほどの声に聞き馴染みがある事を。

 ……こんなところで再会するとは。


「あらぁ? そのお顔どこかで観ましたね?」

「…………」

「無視ですか、悲しいですねぇ」


 ねっとりと耳にまとわりつく女声。

 相手を挑発し続けるようなひどい言動。


 忘れもしない、この声の主。


「返事しろよアリク・エル」

「……ダヌア・マヒート」

「お返事よくできまちたねー!」

「ハァ」


 ダヌア・マヒート。

 勇者パーティの魔術師である。


「時代遅れのクソ雑魚召喚術師が、魔術の祭典に何のご用ですぅ?」

「知り合いの付き添いだ」

「お知り合い! そんなのいたんですねぇ!」


 召喚術が時代遅れだと?

 そのクソ雑魚召喚術に任せていたのは誰だ。


 しかし、言い返したら負けだ。

 奴にとってそれは、自らの挑発に乗ったという心の弱さの露呈にすぎない。

 そうやって何人も見知らぬ人を傷つけた。

 ダヌアとは、そういう人間だ。


「お前は何でいる? 勇者様は?」

「その勇者様からのご命令ですよぅ!」

「何……?」

「いわゆる宣伝ですねぇ」


 声高に笑いながら、彼女は目的を告げる。


「力と資金は集めたのでぇ、後は名声だけ」

「お前、誰が経験値を」

「稼いでくれてありがとうございますぅ」


 そういう事か、納得がいった。

 俺は元から捨てる算段だったという事か。


 使えないは理由ではなかった。

 本来の目的は、俺にレベルを上げさせて自分達の基礎を作り上げる事だったという事だ。


 俺を追い出したのは、秘密を隠すため。

 強大な召喚術を使わせなかったのも同じだ。

 目立つ召喚をすれば噂になる可能性もある。

 それを予め封じていたのだ。


 ……ふざけるな。


「私は近代魔術ブースにいるのでぇ」

「くっ……」

「よかったら来てくださいねぇ」


 唇を噛み、必死に耐える。

 これでもまだ勇者様よりはマシだ。


「あぁ……それと」


 背を向けたまま、ダヌアは言葉を漏らす。


「私はあなたのこと大っ嫌いでしたよぉ。オツム花畑のくせにやたら強くてうざったい」


 ……気が合うな。

 俺もお前が大嫌いになったよ。


 パーティ時代はまだ仲間意識があった。

 でもありがとう、改めて夢から覚めたよ。


「潰れりゃ良かったのに、しぶてーな」

「……ッ!」

「有象無象のお仲間さんに宜しくですよぅ」


 もう、お前らパーティを人間とは思わない。

 人生で初めてだ、こんな敵対心は。


 遠のく彼女の背を睨み、再度決意した。

 きっちり全員、俺は復讐してやる。


 と。


「————ん?」

「……アビス」


 いつの間にかアビスが戻って来ていた。

 こんな顔をしてはいけない。

 なんとか笑顔を取り繕う。


「————だ、いじょ、ぶ?」

「ああ、別に何でもない」

「——ん」


 気を使うように、アビスは棒付きキャンディを差し出してきた。


 さて、ダヌアをどうするか……。

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