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お嬢様曰く、子供だからキャラ崩壊しても大丈夫

 

「アビス、離せ」

「——嫌————食べ、る」

「だから、その手を離せ。それが我慢だ」


 案内人に教えてもらった宿泊先。

 それは俺の中の宿という概念を破壊した。


 何だこの巨大さは。

 何だこの豪華さは。

 何だこの柔らかいベッドは。

 何だこの……何なんだ。


「ただいま、なかなかいい部屋じゃない」

「おうおかえり。さぁ、林檎を離せ」

「————い、や」


 そんな部屋でアビスに言葉を教える。

 林檎を見せて「食べるな」と言う。

 これが我慢だと教えるためだ。


「何やってるのあなた達」

「我慢してくれない」


 彼女は我慢という概念を知らないようだ。

 俺から全力で林檎を毟り取ろうとする。

 ダメだと言っても聞いてくれない。


 それとも、林檎がいけないのだろうか。

 我慢を教えるため好物を用意したのだが。

 もっと普通の食べ物なら……。

 いや、それじゃ我慢にならないか。


 そんでもってパワーがクソ強い。

 アビスはまだまだ余裕そうだが、俺のほうはそろそろ指の感覚がなくなってきた。


「そうね……じゃあ、アビス」

「————何?」

「今我慢したら、ご褒美あげるわ」

「——ごほう、び?」


 褒美という言葉はまだ教えていない。

 だが、シーシャは織り込み済みらしい。

 一体何をするつもりだ?


「アビス、今は林檎を食べちゃダメ」

「——嫌」

「でも、後で林檎を二つあげるわ」

「————ん?」

「今林檎を一個我慢すれば、後で二個食べられるの。わかるかしら?」


 林檎に手を触れシーシャは語る。

 すると、アビスの力が抜けた。


 恐る恐る彼女から林檎を遠ざけた。

 ……大丈夫だ。手を出す様子はない。

 習慣として、アビスの頭を軽く撫でる。


「おめでとう、後で林檎を二つあげるわ」

「——ん」

「これが"我慢"と"褒美"よ」

「————ん」


 シーシャもまたアビスを撫でる。

 アビスの表情はとても気持ちよさそうだ。

 やがてシーシャもベッドへ腰掛ける。


 やっと緊張が抜けたという表情だ。

 その差異は僅かだが、雰囲気が違う。


「パンフレットを貸して頂戴。私も明日回るところを確かめるわ」

「お前も楽しみなのか」

「当たり前じゃない。私は子供よ」


 子供、か。

 まれに自分を子供扱いするのは何故だろう。

 普通は大人として扱ってほしい気がする。

 やっぱ普通の子供と感性が違うのか。


 ……まぁ、気にしないほうがいいか。

 彼女が望むように明日は接しよう。



 * * * * * * * * * *



「ようこそ鉱石生成ゾーンへ」

「面白そうねお兄ちゃん(・・・・・)

「……あー、うん」


 翌日。

 俺は変な呼ばれ方をされていた。


 お兄ちゃん。お兄ちゃんって。

 なんだこう、ものすごい喉元が痒くなる。

 と、いうのにも少し理由があった。


(ちょっとアリク、今の何かしら)

(だっていきなり兄になれっつっても)

(保護者らしい行動しろってこと!)

(保護者なんてやったことねーわ)

(モンスター相手にやってるでしょう!?)


 シーシャは一応保護者が必要な年齢だ。

 自身の従者は保護者にみなされないらしい。

 つまりマキナはダメということだ。


 俺たちを呼んだのはそれが理由らしい。

 ラナは子供だ、マキナはもう身バレしてる。

 だからこそ、素性がわからず自身より年上に見える俺たちを選出したと。


 それが怪しまれないためのお兄ちゃん呼び。

 うーんこいつめ。


(アビスのほうがまだそれっぽいわよ)

(こいつはまた違うだろ……)


 ……仕方ない。付き合ってやるか。



 * * * * * * * * * *


「何これ! すっごい速いわ!」

「未来の鉄道だってよ」

「試乗しましょう!」


 * * * * * * * * * *


「このお菓子、変わった味がするわね」

「————」

「お姉ちゃんも食べるかしら?」

「——ん」


 * * * * * * * * * *


「ご兄妹仲がよろしいですねぇ」

「それは当然です、私にとって自慢の兄ですから。ね、お姉ちゃん?」

「——ん」

「あはは……はぁ」


 * * * * * * * * * *


 つかれた、しんどい。


「つかれた、しんどい」


 口からも同じ感情が溢れた。

 確かに今日のシーシャは子供だった。

 子供の無限に近い体力が備わっていた。


 そんな彼女に振り回されたのが俺だよ。

 ついでにアビスにも振り回された。

 主に出店の食べ物関連で。


「いいじゃない。お目当も観れたでしょ?」

「見れたけどさ……」


 確かに俺も展示物は観れた。

 だが、召喚術の展示があまりにも少ない。

 発展乏しいかもしれないけど、悲しくない?


 …….次回あたり出展してみるのも手か。

 一応ブースの人に挨拶もしたし。


「モンスターは面白かったでしょう?」

「あっちは興奮した」

「可愛かったわね、プチドラゴン」


 モンスター学は奥が深いからな。

 品種改良に自然との調和。

 新種のモンスターの情報などなど。


 どこを切っても深い話題だ。

 もし時間があれば、もう一度モンスター研究のブースは覗きに行こう。


 もう一回プチドラゴンは観たい。


「明日からは仕事よ」

「嫌なのか?」

「嫌ではないけど……」


 明日からシーシャは公務に追われる。

 手伝えることなら手を貸そう。

 折角先発で連れてきてもらったんだし。


「疲れたし、寝ましょう」

「明かりはどうする?」

「小さいのはつけておいて」


 言われた通り、明かりを落とす。

 小さな火だけが部屋を照らしている。


「おやすみシーシャ」

「……ありがと、アリク」

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