魔法の都からコンニチハ
魔術万国博覧会。
世界各国の魔術発展を発表する祭典だ。
「あれが今回の会場よ」
「結構デカイな」
「当然じゃない。何せ領地一つの中心街を丸々使っているのですもの」
「あの街と同じ大きさなのか」
「いつかバックス領にも招致したいわね」
ヒトデ態アビスの背に乗り空から眺める。
念のため、ガルーダも飛んでいる。
アビスにとって初めての長距離飛行だ。
バテる様子はない。
というより、体力の概念がなさそうだ。
訳あって今回会場に行けるのは三人。
そのため俺とシーシャ、アビスの三人で先に現地入りする手筈となった。マキナとラナは遅れて来る。
「まあウチは来賓だもの」
「展示物はないのか」
「一応あるわ。マキナのゴーレム研究」
「無人島で話は聞いたな」
「あなたと同じで出資してるからね」
そうだったのか、てっきり雇っただけかと。
研究は続けられているのか。
やはり、いつか論文を読んでみたい。
「そろそろ関所よ」
「アビス、着陸だ」
『————!』
* * * * * * * * * *
「こりゃ、すげぇな……」
「随分と貧相な語彙ね」
「そうとしか言えないだろ。なぁアビス?」
「——ん」
領内に入った途端、全身を興奮が走った。
魔術だ。街全体から魔術の匂いがする。
あ、もちろん比喩表現だ。
掲げられた万国旗。
様々な言語で綴られたパンフレット。
世界各国の魔術装束を着た専門家。
心の中の少年がフィーバーしている。
召喚術だ。召喚術はどこだ。
それが無くてもモンスター学は。
「残念だけど見学は明日よ」
「何という生殺し……」
「いいじゃない。明日は遊びましょ?」
「仕方ない。今日は我慢するか」
「——が、まん?」
「あー、あとで教える」
「——ん」
明日か、よし。パンフレットを貰おう。
これだけ広い会場だ。
どこに行くかは最初から決めておこう。
となると、今日は人に会うのか。
それとももう宿に戻って休むのか。
俺は少しだけ疲れているが、この二人はそうでもなさそうだ。というかアビスは少し心配になる。
適当に考えると、一人の男が寄ってきた。
「お探ししておりました」
「久しぶりね」
「シーシャ・バックス様とお連れの」
「アリク・エルです。こっちはアビス」
「————」
話から察するに、案内してくれるらしい。
いわゆるガイドというやつか。
シーシャとも面識があるようだ。
「アリクにアビス」
「ん? 何だ?」
「————?」
ここで一つ、シーシャから提案された。
今から彼女は領主に挨拶するらしい。
本人曰く、一人で大丈夫だという。
逆に、ついてくるのも自由だと。
ついてこないなら、この案内人さんが今回の宿泊場所まで案内してくれるらしい。
これを選べとの事だ。
個人的には、ついていくのも楽しそうだ。
この領地の雰囲気を味わいたい。
だが、アビスの反応も気になる。
「アビスはどうだ? 疲れてないか?」
「——ん、んー」
少々考え、アビスは自分の腰を指差した。
「————ここ、重、い」
「なるほど、疲れてるんだな」
「——ん——それ、に」
「何だ?」
続けざまに彼女は口を開く。
やはりたどたどしいが、内容はしっかり理解できるようになった。
元々知能は高いモンスターだったからか。
やはり、しっかり喋れるようになるのが楽しみだ。
「——言葉、教えて」
「言葉? 何が知りたいんだ?」
「————さっき、の——が、まん」
との事だ。
俺は挨拶に行きたいが、アビスは違うと。
視線を送り、シーシャに確認を取る。
すると、彼女は澄まし顔で親指を立てた。
……ありがとうシーシャ。
「なら私は挨拶に行くわ。宿はよろしくね」
「——ん」
「夕食までには戻るから。先に食べたら許さないわよ? わかったらしら?」
「了解。大人しく留守番してる」
まあ、アビスがいうなら仕方ない。
まだこちらの社会に馴染んですらいないのだ。
「ではこちらです、お連れ様」
案内人に手を差し伸べられ、俺たちは煌びやかに飾られた街を歩く。
今夜を過ごす宿へと向かって。
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