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オークに占領された村でスライム5000匹召喚

 

 地図にある辺境の村へ来た。

 ……のだが、様子がおかしい。


「人っ子ひとりいませんね」

「人口は多いと地図に書いてあったんだけど、騙されたか?」


 農村地とはいえ、宿らしき建物もある。

 村人総出でどこかへ行っているのか?


 領内に入れば布団で眠れると思っていたのに。

 残念だ。


 いっそお金だけ置いて宿を借りようか。


「あ、あそこに人影が!」


 ラナの指差した方角を見る。

 かなり遠いが、確かに道を歩く人影らしきものがあった。良かった、留守ではなかったか。


 ともかく第一村人発見だ。

 名産と宿と道具屋の場所を聞こう。

 あと美味しい料理屋もついでに。

 二人して人影へと駆け寄る。


 だが、近づいたところで異変に気付いた。


「……オークですね」

「しかも重装備だ」


 オークが纏っていたのは鉄製の鎧だった。

 野生のオークがあれを着るとは珍しい。サイズもぴったりだし、略奪品ではなさそうだ。


 気づかれる前に物陰へ隠れる。


「ブっ倒しちゃいましょうか?」

「いや、まず偵察しよう」


 手の中で召喚陣を展開する。


「『出でよ、瞳を分かち合う(カラス)よ』」


 空中に黒い球体が浮かび上がる。

 球体は形を変え、一羽のカラスになる。


 勿論ただのカラスではない。

 俺と視界を共有し、見たものが俺の目に見えるという偵察にはもってこいの召喚獣だ。


「何か見えました?」

「オークの軍団だ。村を襲って時間は経っていないらしい」

「村人さんは」

「一つの家に集まってる。捕虜もいるな」


 飛ばしたカラスから状況が送られてくる。

 捕虜になっているのは女性ばかりだ。

 つまり、オークの目的はそういうことだろう。あの種族は人型であればどんな動物とも交配できる。


「まずは集まっているところへ行こう」

「はい!」



 * * * * * * * * * *



 オークがいないことを確認し、戸を叩く。


 果たして開けてくれるだろうか?

 もし開けた瞬間攻撃されたら悲しい。


『だ、誰だ!』


 中から切羽詰まった様子の声が聞こえる。

 応答はしてくれるようだ。


「しがない旅人その1です」

『旅人……?』

「その2でーす!」

『その2……?』

「どうやらのっぴきならない事になっている様子なので」


 軽い調子で問答する。

 村人達は疑問符を浮かべているが、敵対心がないことを伝えるにはこれが一番早いと思う。


 そのおかげで、あっさりと扉は開いた。

 中では村人達が不安を浮かべている。


「オークに襲われるとは不運ですね」

「えぇ、まあ……」


 村長らしき老人が話しかけてきた。


「旅のお方、早く村から離れたほうが身のためです。お引き取りを」


 どうやら既に諦めてしまっているようだ。

 だが、この周辺には村がない。かなり歩いた場所にやっと宿屋があるくらいだ。


 早くゆっくり休みたい。

 できればもう、この村で休みたい。


「オークなら倒せますよ?」


 なので一働きしよう。


「100近くいるんだぞ!?」

「余裕です」

「鉄の鎧で身を固めてる!」

「簡単です」

「娘達が人質なんだ!」

「ちょちょいのちょいです」


 策に乗ってくれるよう説得する。

 お願いだ。布団と美味しいご飯のためなんだ。もうトカゲの串焼きは嫌なんだ。


 詰め寄る村人達の質問に丁寧に答える。


「勝てるのですな!? ならば是非! お礼ならばどんなものでも差し上げます!」


 やがて、村長の瞳に光が戻った。

 交渉成立だ。

 これで今日の寝食は確保できる。


「『仕事だ。可愛らしきスライム』」


 何の変哲も無い召喚陣を展開する。

 詠唱通り、召喚するのはスライムだ。


 ただし1匹ではない。


「『5000匹、来い』」

「ご、ごせん!?」


 村人達が驚嘆する。まあ正直一桁多い。

 だが手早く終わらせるには必要な量だ。

 それにスライム程度の召喚なら、一桁の増減は負担に値しない。


 打撃に強く、吐き出す体液が鉄をも溶かす。

 まさにオーク達の天敵になる。


「窓とドア全部開けてください」

「でもオークが!」

「大丈夫、スライム達が守ってくれます」


 そうこうしているうちに、魔法陣から次々と水色の半固形モンスターが湧き出てくる。

 やわらか触感の暴力だ。


 スライムは召喚後、術師の命令通りに動く。

 オークを倒せ、人間を守れ。

 これだけの命令で勝手に動いてくれるのだから、スライムは便利だ。


 最後の詰めにラナへと指示を出す。


「後で役場の裏に服を持って行ってくれ」

「了解で……す?」

「乱暴はされてないみたいだけど、みんな裸同然だから」

「あ、はい! わかりました!」


 後はこの波が解決してくれる。それまで俺たちはスライムの海に浮いていればいい。

 あー癒される。


「これだけ大量のスライムを一度に……あなたは一体何者なのですか!?」

「通りすがりの召喚術師。覚えなくてもいいです」


 村人には未だ不安の表情が残っている。

 だが。


『ギィェェエエエエエ!!!』

『ブヒィィィィィイ!!!!』


 という断末魔の声が聞こえた頃には、皆揃って安堵の表情を浮かべていた。

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