るーるる・るるる・るーるる
「シーシャの部屋よ」
「……はっ!?」
「本日のお客様はアリク・エルよ」
一瞬何が起きたのかわからなかった。
シーシャに呼ばれ、俺は邸宅を訪れた。
しかし到着するや否や俺はロープで拘束され、目隠し&猿轡という束縛フルセットで邸内を歩かされた。
この時点でよくわからない。
なのに、その拘束が解かれたらこれだ。
思考回路がぶっ壊れそうになる。
「最近は少女を家に住まわせてるとか」
「その言い方かなり語弊あるな」
「ラナに続いて二人目ね」
「悪意しかないなその言いかた」
「正に酒池肉林ね」
「帰っていいかな」
俺はその少女に言葉を教えるので忙しい。
最近やっと物の名前を覚え始めた。
今後が楽しみで仕方ない。
「で、マキナにはいつ手を出すの?」
「出さねーよ」
「でもそういう報告貰ってるわよ?」
「……あいつシメよう」
主従揃って何なんだよまったく。
「まあそんなのどうでも良いわ」
「じゃあ何で話を振った?」
「トークの話題作りよ、当然じゃない」
横暴にも程がある。
話題作りの為に評判を落とさないでくれ。
お願いだから、頼むから。
というかシーシャは俺の評判を上げる手伝いをしてくれる筈ではなかったか?
今ほぼ反対のことをされてるのだけど。
「あなた、最強の召喚術師なのよね?」
「今更感あるけど、まあ」
「何か面白いことしてくださる?」
この世で一番恐ろしい無茶振りだ。
何この令嬢、悪魔なの?
「ほら、抱腹絶倒爆笑必至ギャグを」
「お願いだからもう喋るな」
「領内全域に面白すぎ注意報を発令させるレベルのやつを頼むわ」
「何その注意報」
今宵のお嬢様はキンキンに尖ってる。
まあまだ昼過ぎだけど
周りも何で止めないんd——
——笑ってやがる。
くそっ、この場の全員敵かよ。
暴れ馬に鞭入れるような事しやがって。
「はぁ……じゃあやりますよ」
「期待しているわ」
もういいや。
宴会芸でもやろう。
「どこからでも召喚シリーズ」
「…………」
「口からスライム召喚したいと思います」
「ちょっと待ちなさい」
制止されるが、もう遅い。
俺の口内には既に召喚陣が展開されている。
口を目一杯開け、思いきり息を吸って止める。
無詠唱召喚により、プーさんを膨らますかのようにスライムが喉奥から少しずつ現れる。
当然、このスライムは普通より清潔だ。
あとは下を向き、思いっきり息を吐く。
卵を丸々吐き出すような感覚だ。
まだ一度もやったことのない宴会芸だ。
果たして、評価は?
「爆笑必至のギャグをやれと言ったわよね?」
「えー、意外と鉄板ネタなんだが」
「ショッキングの度合いが強すぎるのよ!」
……そんなに悪かったか。
なら封印だな、これ。
「罰としてもう一回爆笑必至ギャグよ」
「やめてくださいしんでしまいます」
「というか、私を笑わせるまで続行」
「えぇー……」
「男が口からスライム吐き出す姿を見せられたのよこっちは! そのトラウマを癒しなさい!」
トラウマレベルなのか……。
明らかにチョイスミスしたな、俺。
* * * * * * * * * *
「さて、散々遊んだし本題に入りましょう」
「時間と体力を返してくれ……」
「あら、そんなこと言う余裕があるのね。まあいいわ」
抱腹絶倒ギャグ地獄から抜け出す。
最後の最後でやっと笑ってくれた瞬間、こいつ女神か? と錯覚はした。
でも、この苦痛を与えたのも彼女なわけで。
無茶振り降ってきた側なわけでして。
怖いね、人の心理って。
「召喚術師 アリク・エル」
「はい、何でしょう」
まだ何かあるのか。
最早無我の状態で、その言葉に耳を貸す。
「下克上の時間よ。万博に行きましょう」
それは、意外すぎる内容だった。