旅を終えると家が新鮮に見えるもの
『何ですか! 最後の戦いは!!』
「また連れてってやるから……」
『私もゴルド姉も初めての海なの!』
「わかるけどさぁ……」
シルバゴに詰め寄られる朝。
ゴルドラは、畑に水をやっている。
姉のほうは満足しているようだ。
『そもそもあの島に行ってなければ!』
「そうしたらリヴァイアサンの被害がね?」
『むぅぅぅぅ……!!』
あの戦いのあと、当然ながらあの近海で起きていた海難事故は無くなったらしい。見事に勇者様の尻拭いをさせられたわけだ。
当然、元あった宝石は見つかっていない。
幸い島への被害は少なかった。
行こうと思えば、いつでも行ける。
『ふぅ、終わった終わった!』
「おつかれゴルドラ」
『ゴルド姉! こいつ一緒に叱って!』
『別にいーじゃん海観れたんだし』
「そうだぞシルバゴ」
『むーぅぅう!!!!』
終わり良ければすべて良し。
の対局を突いたような終わりだった。
疲労困憊ヘトヘトで帰る旅はいい。
ただし、目的が果たせていたのならという話だ。果たして今回はどうだった?
……まあ、俺は満足している。
だが主役のうち一人がこれだとなぁ。
『ん、そろそろあのコら起こせば?』
「そうだな、もうそんな時間か」
いつの間にか朝食前。
未だ熟睡中の同居人を起こす。
……マキナはこれに含まない。
アイツは宿住まいだ。
この時間、俺の布団で寝ていても。
「お、アビスは起きてたか」
「——ん」
「全く、ラナもアビスを見習ってくれ」
「——ラナ————起き、て」
「あと2000年……」
「————今、すぐ」
* * * * * * * * * *
「アビス、美味しいか?」
「————ん」
あの後のことを話そう。
リヴァイアサンごと、アビスは消滅したかと思い込んでいた。だが、彼女も一応俺の使役扱いらしい。
ダメージを受け、元の場所に戻ったのだ。
ここまでならよくある話だ。
しかし本題はここからだ。
「リヴァイアサン扱いのままだな……」
「————?」
「書き換わったんですかね?」
「しかし、能力までコピーするでしょうか」
まず、モンスターとしての区分がいつのまにか変わっていたのだ。
新種から、リヴァイアサンへ。
まあどちらも凄いことなのだが。
そしてもう一つ。
まあお気づきだと思うが。
「——ん」
「どうした? お代わりか?」
「——ん、食べた、い」
姿がヒトデではなくなっていた。
褐色で細身の少女になった。
ついでに人間の言葉も話せる。
まあ、未だ勉強中でかなりたどたどしくはあるが。
恐らく変身はリヴァイアサンの能力だ。
ラナもそう言っていた。
ヒトデの姿に戻ることもできる。
能力も健在だ。
乗っ取りの能力も、リヴァイアサンも。
まさか、ラナと同レベルの戦力を新たに所持するようになるとは。
「——ま、すた」
「なんだアビス? 俺はアリクだぞ?」
ちなみに、マキナのせいで俺をマスターと呼ぼうとしている。やめてくれ。
「——ありが、と」
「どういたしまして」
「——ん」
彼女には、覚えた言葉を繰り返す癖がある。
最近覚えた言葉が「ありがとう」だ。
意味もなく言われると恥ずかしい。
まあ、でも……。
「こちらこそ、仲間になってくれてありがとう」
「————ん」
地上に来たばかりだし、別にいいか。
こうして我が家に住人が増えた。
今はまだ物静かな子だ。
だけど、今後どうなるか。
また騒がしくなるのだろうか。
……ご近所さんになんて説明しよう。
「あの、ボクの朝ごはんは?」
「ねーよ」